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【お題:誘惑銀杏】骨董屋にて

「こちらがお目当ての誘惑銀杏でございます」
 骨董屋のマスターが一つの壺を俺の前に出した。
 見るからに年季が入ってそうで、俺の期待値は上がっていた。
「これを食べれば誘惑に成功できるんだな」
 俺は真っ直ぐマスターの眼を見て言った。
 彼はしっかりとした声でハイと言った。
「これを食べれば毎日がオールナイトでございます」
 その話を聞いて俺の頭の中にあらぬ妄想が膨らんだ。
「いくらだ?」
「税込みで千円となっております」
「買った」
 俺は財布から千円を出した。
「お買上げありがとうございます。良いハーレム生活を」
 マスターは微笑んでお代を取ろうとしたが、突然顔色を変えた。
「どうした?」
「失礼ですが、夏目漱石のお札はお持ちですか?」
「え? 北里柴三郎のしか持ってないけど」
 俺がそう言うと、マスターは突然壺を奪い取った。
「当店は吾輩のお札しかお引き取りできません」
 マスターは八の字髭を触りながらそう言った。

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