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【#青ブラ文学部】SS"剃らないほうがいいよ"

今から語る物語の問題となるのは
剃るべきか、剃らざるべきか。それが問題だ
毛があった方がいいのか
毛がない方がいいのか
あった方が素敵だよと
君は言うけれど
僕はそう思わない
毛はない方がいいよと
僕は言ってみたけれど
君はあった方がいいよと言う
カミソリを手に取ってみる
君は必死に止めようとする
そんなに生えていた方がいいの?
そう聞いてみると、君はコクンと頷く
僕はまた迷った
これを剃るべきか剃らざるべきか
だけど、カミソリを持つ手を離さない
僕の中では剃るべきだと思った
やっぱり剃るよと言って
僕は手を動かした
だけど、君は必死に止める
後悔しても知らないよと
君は忠告する
そう言われてしまうと
やっぱり剃るのをやめようかなってなる
すると、君は笑顔で
剃らないほうが幸せよと言う
だが、また僕の剃りたい欲求が高まってきた
たとえ剃る事であらゆる変化が
山が噴火して
竜巻がきて
海が襲来して
大地が怒って
世界が破滅したとしても
僕は剃るべきだと
そう説得してみても
君は涙ながらに
もし剃ったとしたら
天変地異が起こらなくても
側にいる私が悲しむわと
シトシトとした空気が流れた
僕は剃るのをやめようと決意した

それから五十年が経って
やはりあの時剃るべきだと思った
彼女は裏切り者だった
異星人だったのだ
僕は研究者だった
あの時の僕は育毛剤の研究をしていた
しかし、髪ではなく何故か髭が生えるようになった
その髭は尋常ではないスピードで生えるから
剃ろうかと思った
が、彼女にしつこく止められた事で
僕は断念した
その後、すぐに意識が遠くなり
気がつけば、手脚が固定されていた
彼女はサヨナラも言わずに去った
僕は異星人とキスした事で不死になった
髭は部屋から始まり、外に出た
目の前に映るテレビでは
段々髭が侵攻していく様子が映っていた
ジワリジワリと追い詰められ
五十年経ったときには
人間は僕以外滅亡していた
だが、生物は生き残った
人間が消えた後、髭が砂糖みたいに溶けたからだ

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