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『転生しても憑いてきます』#60

 場はさらに緊張感が高まっていた。
 黒いローブの人(?)達は僕らを囲うように立っていた。
 ビーラはそいつらに向かって舌打ちをした。
「カース、離れるんじゃないぞ」
 この言葉に僕はウンと頷いた。
 マールは赤い目をギョロギョロさせながら手の甲を叩いた。
「いやはや、素晴らしい絆ですな。
 人も魔物も嫌いだったエルフ族の女が、人間どもを守るとは……滑稽にもほどがある。
 まぁ、間違いなく後悔するだろうがな。
 こっち側につけばいいって……」
「お前も人間だろ」
 つい口に出してしまった。
 偉そうに一方的な事を言っていたから、腹が立ってしまったとはいえ、この状況で言うべきではない。
 が、もう手遅れだ。
 この一言は奴の逆鱗に触れたらしく、赤い目をさらに見開かせて、ジッと僕を見ていた。
「クソガキ……今なんて言った?」
 あぁ、どうしよう。
 もう取り返しがつかない。
 ビーラは弓を構えながら眼で『何をしているんだ』と睨んでいるし、ケーナはおしゃぶりして精神を落ち着かせているから、誰も弁解してくれない。
 もうこうなってしまったら、言いたい事を言ってしまおう。
 その方がスッキリするはずだ。
「人間の癖に、人間が憎いとか言うな。
 それが言えるのは人間以外だ。
 お前のせいで、何もかもメチャクチャなんだ。
 人や魔物を消すより、そんな考えを持っているお前らや神様を消せば、世界は平和になる……」
「神様を侮辱するんじゃねぇええええよぉおおおおおお!!!!」
 マールの怒鳴り声は魔法の太陽を壊すほどだった。
 辺りは再び暗闇に包まれてしまい、相手の姿が見えなくなってしまった。
「馬鹿。相手を刺激してどうするんだ」
 ビーラが最小限に怒りを押し殺したような声で僕を叱った。
 あぁ、やってしまった。
 立て続けに精神的に参るような状況が続いてしまったから、ストレスが爆発して怒らせてはいけない人にを怒らせてしまった。
 だが、もう後の祭り。
 せめてもの救いは、巨大なトカゲにまとった炎がランタンの代わりになってくれたことだ。
 僕らは必然的にトカゲの側に火傷しないギリギリまで近寄って周囲を警戒した。
「サラマンダー、炎で奴らを焼き払え!」
 ビーラがそう叫ぶと、トカゲは雄叫びを上げ、口から巨大な炎の球を連射して出した。
 あらゆる方向に向かって放たれた火球は、奴らを狼狽させるには十分で、中には被弾して炎に包まれた者もいた。
「ポーラ!」
 この隙にビーラが転移の呪文を唱えた。
 僕らの足元が光り出した。
「まずい! 転移するぞ! 早く仕留めろ!」
 マールがそう叫んだ後、サラマンダーの炎の灯りから黒いローブが姿を現した。
 その際、顔が見えたが、眼は血のように赤く、耳が尖っていた。
「ふん!」
 ビーラが矢を放ち、そいつの眉間に穴が空くと、バタッと倒れてしまった。
「逃がさ――」
 マールが姿を現し今にも僕を捕まえようと手を伸ばしてきたタイミングで、辺りが光で覆われた。
 
 気がつくと、森にいた。
 しかし、僕が今まで入ってきた所とは少し違っていた。
 植物が見た事ない物ばかりなのだ。
 青と黄色と赤の果実が一本の木から生えていたり、「コケコッコー」と喋る花だったりと奇想天外なものばかりで、あの世でも来てしまったのかなと思うほどだった。
「ようこそ、エルーラへ」
 いつの間にか側にいたビーラがそう言った。
 辺りを見渡すと、ケーナとサラマンダーもいた。
 よかった、無事に転移できたみたいだ。
 ホッと胸を撫で下ろすと、ビーラは「前に言っていた死霊や呪いに詳しい専門家に合わせてやる」と言って、歩き出した。
 僕とケーナ、サラマンダーも彼女の後に付いていった。
 僕はビーラの隣に並び、ここに来て思った事を話した。
「ここはランタンがないのに明るいですね」
「あぁ、そうだな。この森だけでなく、エルーラ全体が昼間みたいになっているんだ」
「夜がないという事ですか?」
「あぁ、そうなるな」
「ビーラさんが唱えていた魔法の太陽みたいなので照らしているんですか?」
「いや、この地に生えている全ての植物が光っているんだ」
「どうしてですか?」
「それが今回のと……おっ、着いたぞ」
 ビーラと話をしているうちに、開けた場所に出た。
 それはマークシャー家の屋敷の近くにあった森に生えていた巨大な木とそっくりで、違いがあるとすれば、泉が湧き出ていた事と木造の小屋が建っていた事だ。
 ビーラは何の躊躇もなくその小屋へ近づくと、ドアをドンドン叩いた。
「ウェーラ婆ちゃん、アタシだよ」
 すると、ガチャッとドアが出てきたのは、皺くちゃの老婆――ではなく、若々しい子供だった。
 金髪のショートカットで、青い瞳が特徴だった。
 格好はビーラと同じ半ズボンをはいていたが、上は白衣みたいに長袖でサイズに合っていない無地の服を着ていた。
「"婆ちゃん"を付けるなと言っているだろうが、このバカナスがぁ!」
 ウェーラという名の子供エルフは身長に負けないほどの声量でビーラに怒鳴っていた。
 が、ビーラは涼しい顔をして、「相変わらず身長に似合わない声を出すね。それよりも、あの国に行ってきた」とウェーラに言うと、表情が急に変わった。
「どうどうどう? どうだった?! 死霊いっぱいいた?!」
 まるで、有名人がいたのかと聞くかのように国の状況を尋ねるウェーラに、ビーラは若干引いた顔で「あぁ、死ぬほどな」と答えた。
 これにウェーラは「ほほほほーーーい! ねぇ?! 私の言った通りでしょ?! もうあの国は死霊だらけで終わってるって……いやー、まさかここまで拡大するのが早かったとは……奴らは侮れませんなぁ」と感心した様子で頷いていた。
 一体何なんだ、このエルフ。
 ウェーラは少しだけ小躍りをしていたが、僕とケーナを見ると、「こいつらは?」と訝しむように聞いた。
「口に何かくわえていない方がカース。くわえているのが彼の姉であるメロ……ケーナだ」
 ビーラが僕らの紹介をしてもらうと、ウェーラは「カース? カースって、あのマークシャー家の?!」と僕に近寄ってきた。
「ビーラから話は聞いているよ。死霊が見えるんだって?」
「え、えぇ……そうです」
「そうか! 君に聞きたい事が山ほどあるんだ! ねぇねぇ、どういう死霊がいるぺひゃっ!」
 ウェーラが圧力をかけて詰め寄ってきたのをビーラがデコピンで止めた。
「今はそういう状況じゃないでしょ。あと、ケーナも死霊が見えます」
「へぇ……」
 ビーラがケーナの事も紹介するが、ウェーラは鼻をヒクヒクさせながら観察するように見ていた。
 ケーナはその視線にストレスを感じたのか、少し強めにおしゃぶりをチュパチュパしていた。
「ウェーラ婆ちゃん、普通は『こんな所で立ち話をするのもあれだし、中に入って』というのが常識なんじゃないか?」
 ビーラの指摘にウェーラは一瞬だけ「誰が婆……」と怒りそうな顔をしていたが、すぐに「それもそうだな。入って」とドアをさらに拡げて開けてくれた。
 僕らはサラマンダーを見張りにして外で待機させた後、中に入った。

※あとがき
もうすぐ14万字越えてしまいそうなので、一旦更新をストップします。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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