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一寸先は…暗く深く甘い。落ちたら簡単には抜け出せない恋の闇

恋は落ちるもの。

地面にぽっかり深い穴が空いていてそこに落ちるのを恋に例えるのなら、私の歩く道、選ぶ道にはその穴が多い。というか穴が多いルートを敢えて選んでいるとも言える。待って、「敢えて」という表現は正確ではないかもしれない。恋という穴に吸い寄せられるようにたくさんの穴が空いているルートを選ばざるを得ず私はいとも簡単に落ちていく。その穴は暗く深く、不安定で切ない。どうしようもなく甘美で官能的に脳を蕩かし思考を停止させる。それは甘ったるい蜜の香りが満ちる浴室にも似ている。照明を落とし、キャンドルを数本灯しただけ、イランイランのアロマオイルと薔薇の花びらでむせ返るほど濃厚な香りに満ちたバリのスイートヴィラのバスタブを思い起こさせる。一度落ちてしまった穴からは自力で抜け出すのは困難だ。甘い香りと毒気で全身が麻痺したかのように動けなくなる、少なくとも私が落ちる穴はそんな世界だ。

いつから私たちはこうなってしまったんだろう。どんなにぼーっとしていても慣れた身体は東新宿を察知して地下鉄を降りることができる。長いエスカレーターを上り地上に出るとあたりはもう暗くて、ますます秋らしい18時半。頭上にアーチ状にかかる電飾がイルミネーションみたい、やたら綺麗でじわっと涙が浮かんだ。ひとつひとつの電飾の球がぼんやり繋がったり離れたりする。さらに頭上に遠く見える白い月も同じ。

もがき苦しんだ数日だった。でも初めてむき出しの心のまま君と向き合えたことは喜ぶべきことで、もっと早くこんな風にできてたらなって今では後悔にしかならないけど、ふたり核心を避けるように努力して作った幸せも私にとっては大切な宝物。一人になった穴の奥底、宝物を抱きしめて今は君が残したぬくもりにくるまって眠っていたい。ついさっきまでそこにいたようなぬくもりを感じたい。10年前祖父が亡くなったとき、息を引き取るその瞬間に間に合わなかった。けど、まだ身体は温かかった。まだ温かいその身体を抱きしめて泣いた。すぐに冷えていくのが分かった。だから分かる、まだ少しだけ感じる彼の温度もじきに冷えて跡形もなく消える。

そんな穴の妄想をしながらブランケットに包まった。もう隣に君はいない。自分の体温であったまるブランケットの内側が心地よくてふわふわの部分に頬ずりした。

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