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オープンダイアローグ|#7

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前の投稿では、精神医療をよりよくしていくことが、子どもがケアすることを強制されないために必要なことの一つだと書いた。

それでは、精神医療はどうなるとよいだろうか。勉強するなかでこれは導入されていくとよいと思った3つの試みを紹介していく。


まず1つ目は、フィンランドのケロプダス病院という精神科病院で生まれたオープンダイアローグだ。これは何かというと、対話だ。

不思議に思われるかもしれないが、オープンダイアローグによって精神病状を有するとされた人たちの8割は精神病状の残存がなく、学業やフルタイムの仕事に復帰している。また、抗精神病薬を内服したことのある人は24%で、内服を継続する人は20%という調査結果もでている(森川すいめいの『オープンダイアローグ 私たちはこうしている』を参考にしている)。


ゴールは対話そのものを指しているのだが、①その人のいないところでその人の話をしない、②1対1で話さない、という2つの土台のもとで対話が行われる。とてもシンプルなことのようで、実際の医療の場ではどうだろうか。

母の退院支援の際、母の生活に関わることだから母を話の場にいてもらうことを支援者によくお願いをしていた。私は母のことしかわからないが、お願いをしないと、その人のいないところでその人のことが決まっていく、という場面はよくあることになっているのではないだろうか。


そしてオープンダイアローグでとても印象的だったのは、対話を促進させるために「診断名をいったん脇に置く」という工夫だ。

診断名でものごとを考えてしまうと、ご本人たちの苦悩をちゃんと聞くことができなくなるように思います。「この話は妄想だ」「認知症だから同じ話を何度もする」「うつ病だからそう考えるのだ」というように命名してしまうと、話している人の気持ちは大切にされにくくなります。話を聞くよりも医療につなげようとか、薬を飲んでもらおうと思いやすくなるでしょう(前掲書pp.144-145)。

私もかつては診断名から母を理解しようとしていた。そうすると、母がなぜそれを言うのか、ということを考えなくなってしまって母の話を聞いていなかったように思う。


また、診断名がつくとき、そこには医師と患者との間に力関係があるだろう。そこには、患者であるあなたより医師である私があなたのことを知っている、という前提はないだろうか。

医師は患者のことを患者より知っているのだろうか。医師は患者が見ている聞こえている世界をなぜ「妄想だ」と言えるのだろうか。

これは決して医師と患者の関係のみにて起こることではない。私自身が母の言動を診断名に結びつけて理解しようとしていたことと変わりないだろう。

だから自戒を込めて書くが、他者への敬意があれば、患者の話を「妄想だ」と言わず「本人たちの苦悩をちゃんと聞く」のではないだろうか。

オープンダイアローグを勉強していると、オープンダイアローグには敬意があふれていると感じる。一人ひとりの声が大切にされていると感じる。勉強しながら、他者を思いやることを私はできているのかと自問自答したり、過去の経験を振り返って反省したりしている。


なぜ、オープンダイアローグが精神医療の場に必要と思ったかを改めて書きたい。

私は、薬の副作用や長期入院によって、母の姿が変わっていくのがとても苦しかった。

私には、精神疾患の治療においてどのような薬がどれだけ必要なのか、入院が必要なのか、入院が必要ならそこは閉鎖病棟である必要があるのかどうなのか、わからない。

それでも治療として、母が閉鎖病棟に長らくいたことには強い違和感があった。入院中の母の生活がとても安心できるものではなかったから、私はケアから離れることができなかった。

「医療につなげようとか、薬を飲んでもらおう」となる前に、話が聞かれることで回復が導かれていくのであれば、精神医療の場にオープンダイアローグがあってほしいと切に思うのだ。


最後に、澁谷智子の『ヤングケアラー 介護を担う子ども・若者の現実』にイギリスのヤングケアラーへの支援事例としてオープンダイアローグに類似した試みをみつけたので記しておく。

・母親の精神障がいの症状が重くなってしまった理由が近所づきあい
・スタッフは、ヤングケアラー、彼の中学校の教員、彼のきょうだいが通う小学校の教員、行政の福祉サービス担当者、近隣の二軒の住人、家族の友人を集めてミーティングを開いた
・ミーティングにより、母親の精神障がいの症状は軽減しヤングケアラーの負担も減ったという(p.159)

オープンダイアローグとは厳密には異なるかもしれないが、困難を抱える親と子、それに関係している人たちで話をする必要性がよくうかがえる事例だと思う。


次は、ACT(アクト/Assertive Community Treatment:包括型地域生活支援プログラム)という、精神科医、看護師、作業療法士、精神保健福祉士などがチームを組み、地域社会のなかへ訪問していき、精神障害をもつ人々の治療やケアにあたる方法について紹介していきたい。

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