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いったい誰がAIにお金を払うというのか?

こんにちは、こおるかもです。

今週は、AppleのWWDCが開催されており、新しくApple Inteligenceなるものが発表されました。

発表によると、次期OSから、ChatGPTの最新モデルであるChatGPT-4oが組み込まれ、ユーザーは無料で使えるようになるということです。

これまでAIは一部のモノ好きのものだったかもしれませんが、これからは世界で18億人いると言われるiPhoneユーザーの標準装備となりそうです。

そこでぼくが疑問に思うのは、一体誰がそのコストを負担するのか?
ということです。


以前の記事でも少しだけ触れたのですが、今のところ、こうした大規模言語モデル(LLM)によるサービスの収益構造ってまだそんなに明確じゃないよね?と思っていたのですが、今回のこのAppleの動きは、その流れにある方向性を持たせているような気がします。

どういうことかというと、今、最新の大規模言語モデルと言われているChatGPTは、サブスクで月$20です。つまり、最新のAIにはだいたいそのくらいの価値がある、あるいはコストがかかる、と言っているわけです。

それを無料でiPhoneユーザーが使用できるということは、今後は、AIサービスそのものに課金するのではなく、それに付随するなにかで費用を回収するモデルがデファクトになるのではないか、ということです。

ではいったい、Appleはどうやってその費用を回収するつもりなのでしょうか?

いくつかの可能性を探っていきましょう。


もしかすると、次期OSが搭載された端末以降、Appleは端末の値段を上げるのかもしれません。

しかし、仮にiPhoneの買い替えサイクルを2年とすると、単純計算でChatGPTの使用料月$20は、$480, 日本円で72,000円します。

ただでさえ高いiPhoneが、さらにそんなに値上げしたら、さすがのiPhone大好き日本人も、みんな他の端末に鞍替えするでしょう。

それに、例えばSiriにしたって、現時点で利用している人はほんの数%がいいところで、きっと多くの人が、AIが搭載されていたところでそんなに使わないと思います。

というわけで、端末代で回収するというシンプルなオプションはなしです。(それとは関係なしに、ただただシンプルに値上げしてくるとは思いますが。。。)


次に、Appleお得意の、広告で回収するという手段があります。
つまり、AI経由で回答される内容に、さりげなーくいろいろな広告が交じるようになる、ということです。で、広告主からお金を得る、と。

そうなると、今回の基調講演でAppleが強調していた「Personal Context」(パーソナライズされた文脈)というフレーズは、本当はユーザーではなく、広告主に向けての甘い営業文句であったかもしれないのです。

だとしたら、もう、これはホラーです笑。怖すぎる。

「デートにぴったりなレストランを提案して」とお願いしたら、1位にマクドナルド、2位にバーガーキングをおすすめされるような世界です。

それが明示的なものであれ、ステルスであれ、もしそんなビジネスをされたら、さすがに消費者はたまったもんじゃありません。

それに、Appleも情報はきちんとセキュリティ管理されていると言っているし、これをバレずにやることは不可能なので、広告でカバーする、という選択肢も恐らくナシです。


となると、残る選択肢は、「Appleが負担する」ということです。

しかし、またもや単純に計算すると、18億人分のChatGPT利用料をOpenAIに支払うとなると、1年で5.4兆円します。このコストをAppleが慈悲の心で負担するとは思えません。

つまり、AppleとOpenAIの間で、もっと現実的な、ChatGPTの使用に関する契約が結ばれているということです。

そこで注目したいのが、OpenAIという組織の成り立ちです。

OpenAIは当初から、営利目的ではないというスタンスで動いている組織です。ちなみに、イーロン・マスクも設立者の1人です。

そこに、ビジネスとしての可能性を見出したMicrosoftが大規模出資を繰り返し、ChatGPTという実用レベルのAIが完成しました。

Microsoftが出している、BingのAI機能も、ChatGPTをベースに独自のチューニングを加えたものです。

OpenAIは、基本的には今でもAIのオープンソース化を志向しています。そのため、Appleも同様に、ChatGPTベースのLLMを安価に利用して、独自にチューニングしてiPhoneに搭載するということが可能なわけです。

つまり、AppleとOpenAIの契約も、かなり安価なものであることが推測されます。

ということは、Appleも、そんなにお金は払ってない、ということになります。

じゃあ結局、いったい誰がお金を払っているんだ。。。。


ここから、導かれる結論は、ほとんど誰もお金を払っていない、ということです。

なぜそのようなことが可能なのか。

ここで、一つの経済用語を持ち出します。
それは、「限界費用」というワードです。

これは、あるモノやサービスを大量生産しているとき、ついでに一つ追加するのにかかる追加費用のことです。

自動車の場合であれば、1万台作るついでにもう1台つくるのにも、原材料費や人件費などが絶対にかかりますよね。でも、AIサービスの場合、もはやそのための追加コスト(限界費用)がほとんどゼロだ、ということを示しているのです。

とはいっても、完全にコストがゼロというわけではないはずです。
何が消費されているのか?

それは端的にいって、「電気」ではないかと思います。

LLMの学習・チューニングには、大量のNIVIDIA製のGPUによって行われています。そして世界中にデータセンターやGPUステーションが建設され、せっせとトランジスターがOn/Offを繰り返して、電気を消費しているわけです。

ちなみに、NVIDIA製の最新チップには、わずか一辺20mmの中に、トランジスタが495億個乗っています。年々技術は進歩し、チップ単体の省エネ化が進んでいます。

しかし、かつて石炭でも同じことが起きたように、「エネルギー効率が上がると、その分新しい使い道が広がって、かえってエネルギーの消費量は増える」というジレンマを人類は抱えています。これを「ジェヴォンズのパラドックス」というそうです。

AIという新たなアプリケーションによって、電力消費量が増大するのは、このパラドックスの典型と言えます。

こうして、世界のAIサービスの実質的なコスト負担は、ユーザーからは見えない形で、世界の電気消費量の増加に転嫁されている、というのがぼくの今のところの結論です。もちろんそれは、化石燃料を燃やしていることとほとんど同義です。

つまり、AIサービスにおいて、犠牲を払っているのは、人類のうちの誰でもなく、地球であり、自然資源の消費によって賄われているのです。

ぼくが今日の記事のタイトル「いったい誰がAIにお金を払うというのか?」にこめた意味は、「誰もが本来支払うべきコストから逃れて、地球に犠牲を強いているだけではないか?」ということでした。

これは、斎藤幸平さんがマルクスの読み直しを通して、指摘しているように、「モノやサービスの『使用価値』を軽んじている」結果だと思います。

もし、AIサービスに価値を認めるのであれば、その価値に応じて、我々はお金を企業へ支払うべきだし、企業はその収益を用いて、例えばエネルギー循環型社会に向けた技術投資をすべきだと思います。

秋に発売されるであろう最新iPhoneを買う気まんまんのぼくは、背後で地球が燃えていることに気づかずに、AIに頼って生きていく道を選ぼうとしているのかもしれません。


むむむ、最初はただWWDC面白かった!っていう記事を書いていたつもりなんだけど、なんかこんな社会派な記事になってしまった笑。変な批判が来たら嫌なので、批判したい方はこちらの本を読んでじっくり考えてからお願いしますね~。(もちろん普段よんでいただいているみなさまの感想や質問はとても嬉しいのでぜひぜひお願いします)

最後までお読みいただきありがとうございました。


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