見出し画像

『TripleS』:リアリズム溢れる世界観とITを活用したユニークなシステムが支えるKPOPガールズグループ

ここ数年、激戦が繰り広げられているK-POPガールグループ界隈で、ユニークな運営方式で注目を集めているグループが一つあります。
24人という大所帯、NFTを導入した独自アプリの活用、現実主義に溢れる世界観など、今までのKPOP文法をいい意味で破壊しているグループ『TripleS(トリプルエス)』について紹介したいと思います。

『TripleS』は、23年2月にデビューした24人組のKPOPガールズグループです。デビュー当時はNFTやブロックチェーン、ファン参加型などと言ったキャッチなワードだったり、24人という人数、メンバーの順次公開など型破りなことで注目を集めました。今は全てのメンバーが公開されており、その独特な運営システムもファンに受け入れられているように思います。

5月頭にリリースされた「Girls Never Die」でキャリア初の音楽番組1位を獲得、厳しい現実でもあきらめずにもう一度挑戦しようという歌詞が特にアイドル市場の主要な消費層である若い女性たちに共感を呼びました。

ソーシャル・少女・ソウルでTripleS

『TripleS』そのユニークさ他にも、『LOONA(今月の少女)』などで有名なプロデューサー「Jaden Jeong(本名:ジョン・ビョンギ)」がプロデュースを手掛けることでも知られています。「Jaden Jeong」は『TripleS』の所属事務所『モードハウス (Modhaus)』の代表も務めています。KPOPの1世代A&Rとも呼ばれている彼は20年以上KPOP業界に従士し、様々なアーティストの制作やプロデューシングをやってきた人でオタクの感性を刺激する重みのある独特な世界観とそれを具現化したビジュアルで名を知られています。彼の作品世界に魅了されたファンも少なくないでしょう。

彼が手掛けた代表的なグループの中で『LOONA』が宇宙を題材に緻密で広大な世界観を持っているのと対照的に、『TripleS』の世界観は極めて現実的です。グループの名前でもある3つのSはそれぞれ、ソーシャル・少女・ソウルを意味しています。
目まぐるしく流れるソウルの日常。厳しい現実と闘いながらも、心の片隅に希望と絆を失わずに今日を生きる少女たち。彼女たちが繋がっているソーシャルネットワーク。限りなく灰色に近い甘くて苦い現実味が『TripleS』が表現する世界であり、メッセージそのものです。

『TripleS』の曲「Girls’ Capitalism」のMVカット。
悲しい現実の少女たちに向けた自分を大事にするための資本主義だそう

前述した「Girls Never Die」は世界市場のトレンドに頼りすぎずメロディーや歌詞のメッセージを重視していて数世代前の多少懐かしK-POPムードを感じさせる曲です。今までのKPOPで見たことのない24人という大人数のステージで話題になっていましたが、そういう一時的な話題だけでなく、デビュー時から重ねてきた曲、映像、それらた伝える一貫性ある世界観など、クオリティあるアウトプットが重なってきた結果なのではないかと思います。
「Girls Never Die」が収録されたアルバム「Assemble24」について有名K-POP評論サイトの『IZM』はこのように述べています。

厳しい現実に根ざした歌詞に支えられながらも、世界各地から取り寄せた音楽を最終的に『TripleS』はどこでもないソウルの都心に引きずり込む。
…(中略)…
素晴らしいサンプルと奇抜なソースが乱立するK-POP市場で「良い音楽」とは、まさにこのようなものである。

Neo Music Community IZM

ブロックチェーンの土台に構築された民主主義なファンダム

突然ですが、ブロックチェーンと言えばどういうイメージを持たれますか?
やはり「透明性」「非中央集権」といった言葉が思い浮かぶのではないでしょうか?イマイチよく分からないと思われる方も多いかもしれません。

実は『TripleS』の所属事務所である『モードハウス』は単なる芸能事務所ではなく、ブロックチェーンを基盤としてITスタートアップ企業でもあります。ブロックチェーンをベースにした独自プラットフォーム『Cosmo』を用いて様々な推し活ができるようになっていて、グループの運営に積極的に参加できるように設計されています。ファンは『Cosmo』のアプリでNFTを購入し、「Gravity」と呼ばれる投票システムでアーティストの活動に関わる様々な意思決定に参加できます。最近の推し活では欠かせないフォトカードもデジタル化されてこのアプリの中で写真撮影などができるようになっています。このデジタルフォトカードは「Objekt」と呼ばれています。

「Objekt」はNFTで固有ナンバーを持っているため各カードの販売や移動の履歴が全て残るようになっています。アプリ内では所持している「Objekt」を鑑賞できるだけでなく写真撮影やデコレーションに活用できます。トレードもアプリ内で簡単に行えるので場所に関係なくリアルタイムに交換できるのも大きいメリット。
「Objekt」は定期的なものからシーズナルなものや誕生日など記念日など様々なコンセプトで販売されていて、デジタルだけでなく現物があるフォトカードもありデジタルとの連携も可能です。ただ、種類が多いので管理しやすいデジタルのほうを好むファンが多いようです。

アプリ内で「Objekt」を使った写真撮影の例
右側のフォトカードが撮影時にフレームのように入ります。
(ARフィルターのようなものだと考えるとイメージしやすいかも)
所持しているフォトカード設定やデコも可能で、光が反射せずキレイに撮られるところが好評

「Objekt」を購入するともらえる「COMO」という通貨で、前述した「Gravity」という投票ができます。この投票はメンバーの人気投票ではなく、主にグループの運営の様々なことを決めるもので、例えばコンテンツのコンセプトだったり、タイトル曲だったり、ペンライトのデザインだったりしたもの。プロデューサーが行う意思決定の役割を分担したようなもので、グループの運営方針にファンが直接的に関与できることを押し出しています。

ブロックチェーンやNFTを活用しているけれどファンの立場からはそのような要素はあまり感じられず、難しいところなく推し活ができるます。難解でどこか怪しいと思われがちなNFTやブロックチェーンを身近いところでユーザーフレンドリーに活用するいい事例と言えるでしょう。

さらに、この「Objekt」の収益は『TripleS』のメンバーに精算されるので、メンバーたちは毎月一定金額の精算を受けていると言われています。(メンバーによっては大手企業の課長の給与くらいはもらっているそう)
一般的なK-POPアイドルは精算を受けるまで数年がかかることもよくある話なので、その精算システムはファンや業界からポジティブに評価されています。

業界の課題解決に向けた一歩

画期的な試みの多い『TripleS』ですが、まだまだ課題はあります。
例えば、多くのメンバーが練習生として過ごした期間が短いため発生する歌唱やダンスの実力不足問題や、一部の投票が結局は人気投票に近いものになるなど不満の声も見られます。しかし精算問題や育成コストの軽減、新しい技術の取り入れなど、まさにK-POP業界の課題を解決するためのチャレンジとして大きい意味を持つと考えています。

華やかな舞台の裏には様々な課題を抱えているKPOPアイドルの界隈だからこそ、解決に挑む企画力がますます重要になってきています。
この企画力はグループ全体を貫通する、いわゆるコンセプトや世界観の企画だけではありません。激しい競争の中で持続可能なシステムを作る企画もそれと同等なくらい大事になっています。

『TripleS』は一つのチャレンジとしても現行KPOPシステムに新しい提案を投げかけました。この一歩が今後どのように業界を変えていくか、今後に期待しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?