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映画『MAD GOD』鬼才の血と執念が炙り出す、生々しい退廃美を喰らう!(ネタバレ無し感想)

長らく楽しみにしていた『MAD GOD』観てきた!
初めてシー・イット(宣伝やポスターに登場してる、あのギョロ目凄歯プリケツクリーチャー)のビジュアルを見てからどれくらい経っただろう。
秋からは公式Twitterさんのカウントダウンツイートに一日一日と待ちきれなさを刺激され、満を持して行ってきました新宿武蔵野館さん!

感想を一言で表すと、もう期待を何倍も凌駕してくる凄さしかなかった。
良デザイン・抽象的ストーリーの映画としては自分でもビックリするくらいの衝撃でオールタイムベストに食い込んで来た傑作。

模型とストップモーションと俳優により構築された世界には、一秒一秒の光と影の角度、ものの動きや生物の仕草や微細な揺らめきにも、巨匠フィル・ティペットの血が通う。
音声がそれを脈動させ、そこにある世界、そこに息づくものを、不穏ながら生々しい存在感をもって見せつける。

そんな、血の通ったカットが繋ぎ合わされ形を成したこの映画は、まさにフィル・ティペットという鬼才の中に宿る内臓。

そして……その、内臓の奥の奥から生まれいづる混沌……に触れる映像体験。

退廃的で暗く、残酷な暴力と理解しがたい世界は醜悪な地獄にも見え、同時に私には、闇と鉄と怪奇の限りない耽美をも感じさせた。
今見ているものは、映画の舞台となっているあの世界なのか?今目の当たりにしたものは生か死か?
全てを感覚で感じながら頭では分からなくなる。

私が観た回には、主食は山田洋次監督作品ですよね?みたいな、超穏やかで仲良く会話しながら座席探して座った老夫婦らしきお客さんがいてめちゃくちゃ驚いたんだけど、どうやら各種新聞にもこの映画が紹介されたようで、それの影響かなと。
退出時に私の前にいて
「良く分からなかったね」
「筋が分からなかったね」
的な会話してたご年輩の二人連れもいらっしゃった。

これは、山田洋次層とかご年輩には分からない!みたいな意味ではなく純粋になんだけど、完全に好き嫌いは分かれる作品だとは思う。
特に起承転結や謎解きを追うのが好きな人にはもしかすると「?」しか残らなくても不思議じゃないかも。

かといって、考察向け!とも言いたくないというか、考察しようみたいな目で観てしまうと、世界観の洪水を存分に浴びたり浸ったり出来ないんじゃないかな、と思う。

オススメとか参考とまではおこがましくて言えないけれど、結果的に『マッドゴッド』世界とその住人を満喫できた私は
“NHKの野生動物番組を観るような感じ”
で観ていた。

「おや?向こうの暗いところから何かが出てきましたね。
不思議な姿をしています、道具を使えるようですが、何をしているのでしょうか?
あっ、先程あそこにいた、あの生き物が近づいて来ました」
みたいな。
いや冷静に観察しようみたいな鑑賞が出来てたわけではなく、もう、どんな世界なのか、どんな奴等が出てきて何をするのかが全部楽しみすぎて、開幕から自然と始終こんな感じでワクワクしてたってだけなんだけど(笑)。

アヒル宇宙人ハワードもミクロキッズもハット族もドレイコも大好きな映画コドモだった私が、それらを世に送り出し命を吹き込んだ巨匠そしてーーもう何番煎じか分からんくらい皆が言ってると思うけど敢えて私も書きたい、書かせてくれーー“狂える神”フィル・ティペット、彼の頭の中を、いや、彼の内に秘められていた血であり内臓でもある凄まじい世界を、それを一秒一秒炙り出すように描ききったその執念を、観ることが出来て、この上なく幸せだ。

狂える神の想像し創造した、狂える世界を、そこに生きる恐ろしくも美しくどこか愛らしい命達を、私はきっと一生忘れない。
忘れられないだろう。
シー・イットちゃんの歯並び、しばらく夢にでそう。

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