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『謗法~運命を変える方法~』 『呪呪呪』へ続く少女呪術師の物語

このところ、少年漫画のモチーフになったことで呪術ブームだそうで、本屋の民俗学系のコーナーにも若者・一般層向けの呪術解説本や、新たにそんな帯をつけられた既刊本を見かける。

私のnoteでは映画に絡めて何度か書いてきたが、日本人は呪術とか神仏といったモチーフのサブカルチャーにかなり感受性豊かだ。ゲームや漫画のキャラクターがきっかけでその神仏由来の信仰地にまで足を運んだり、サブカルチャーで興味を持った人々で博物館が賑わったり。
良くも悪くも宗教や歴史に関して“ミーハー根性”や“オタク根性”な接触傾向があり、しかしミーハー・オタクにとどまらない行動力や研究心を持っている人も多い。
やはり、宗教的におおらかで、歴史由来の社会問題が現在進行形でマジョリティを苦しめていない(生活の中で苦痛を感じている人が少ない)という日本人ならではの感性や興味の特色だ。
それが今や、願い・祈りにとどまらず時に人を殺そうとまでする妖しい文化である“呪術”にも及んでいる。

こうなると、呪術関係の文化や場所のブームだけでなく
“呪術ブーム乗っかり売り”
をするモノが現れるのも常だ。

『呪術召喚カンディシャ』(原題:KANDISHA)ポスターより。一緒に観たアニメ好きの友達に教わったのだが、日本語字幕にわざわざ「領域を展開する?」という言葉を用いたのは少年漫画の影響との事(領域を展開する、は少年漫画の用語)
『呪術大戦』(原題:大幻術師)ポスターより。タイトルだけでなくフォントもやばい

日本でのマーケティングのため、作品そのものが「そんなつもりじゃない」のに呪術乗っかり売りされてるこれらが代表的。
こういうのマジで作品に失礼なので一番嫌い。クソ邦題やクソ日本版ポスター、明らかに内容きちんと観てないか釣りのクソキャッチコピーも嫌い。
(ちなみにどちらも独自の雰囲気があり面白いのでパクり呼ばわりは見当違いだし観ないのは損。特に後者はトンチキジャパンも観れるのでいいぞ)

で、ですよ。
原題『謗法:在此矣』という韓国の映画がこの2月から日本でも公開されたのですが、これの邦題は
『呪呪呪』
(読みは jujuju)。
いやもうわかった、映画氷河期の日本においてお客さんに来てもらうためのタイトルは大事なものだし、謗法:在此矣が分かりにくい(直訳すると、在此矣はゾンビみたいな意味らしい)のも理解できる。

でもさあ!
これが『謗法~運命を変える方法~(原題:謗法師)』という連続ドラマの続編って事はさあ!
言っといた方が良かったんじゃないかなあ!

ドラマは映画公開現在もNetflixで観れるんだし。

そんなわけで、今回はこの、呪術乗っかり売りタイトル+前作紹介無しで映画館に降臨することになった映画『呪呪呪』の前日譚にあたるドラマ『謗法~運命を変える方法~』のあらすじと魅力をちょっとだけ書こうと思う。

『呪呪呪』を観た人も、これからの人も、このめちゃくちゃ個性的なドラマが気になったらぜひ。

※先にあらすじと主要キャラクターについて書き、警告文を挟んでネタバレ有の感想となります


『방법』イメージビジュアルより

■『謗法~運命を変える方法~』あらすじ

熱血女記者のジニは、躍進中の話題IT企業「フォレスト」が退職者に暴行を加え、隠蔽しようとしている事件を取材していた。
ジニが「フォレスト」の会長・チンの情報を集めるためにネットで募集をかけると、そこに情報提供を名乗り出る書き込みが。
ジニは書き込みの主と対面するが、現れたのは15歳の高校生少女・ソジン。彼女は
「チン会長は人間ではない」
と言い、やがて
「自分は謗法(この作品の中では“呪い”のような意味)を使える」
と打ち明ける。

物語は、気鋭のIT企業会長・チンの陰謀を突き止めるべく行動する少女謗法師ソジン熱血記者ジニ、ジニの夫で生真面目な刑事ソンジュン達を主軸に動き出し、やがて、ソジンの駆使する謗法と、韓国、そして日本に存在するおそるべき呪術を解き明かしていく。

■用語とキャラクター

謗法
ほうぼう。本来は仏教の言葉らしいが、このドラマの中では“呪い・呪殺”のような意味。ニュアンスとしては日本語(民俗語彙的なほうの)ゲドーとかそういう感じを受ける。
力や念や祈りにより、対象に災いを与える呪術の技のようなもの。
本来は対象を恨む人間の頭髪などが媒体として必要だそうだが、主人公ソジンの場合は特殊な方法で行う事ができる。
一つは、対象の「名前の(ハングルでない)正式な漢字表記」「写真」「所持品」を媒体として呪う技。
もう一つは、「対象に直接触れる事で」念を流し込み呪う技。

主要キャラクター
ペク・ソジン
巫女(巫堂。韓国の民間シャーマン)の娘として生まれた少女。ドラマ時点では15歳。
とある理由から「フォレスト」のチン会長を追っており、チンの情報を集めているジニと知り合う。冷静沈着で無表情、大人びたというより孤独さを思わせる。
黒目がちの可愛らしい顔立ちをしており、ショートカット。
他に類を見ない強力な謗法の使い手。

イム・ジニ
報道記者をしている女性。
柔らかな雰囲気とは裏腹に強い正義感を持ち、弱者の代弁者たる記者であろうとしている。
やや感情的なため、真面目で堅実な夫とは意見が食い違う事もあるが、仲のいい夫婦。

チョン・ソンジュン
刑事でありジニの夫。
部下達から慕われているチーム長で、後輩を庇って脚を負傷したため杖をついている。
佐藤健さんと竹野内豊さんをあわせたような男前。妻からは“生真面目な男”とからかられているが、刑事としての強い誇りと執念を持つ。

タク・ジョンフン
大学教授。講義は人気がない。
食いしん坊の太っちょで、来客に栄養ドリンクを出すなどの気のいいおもしろ人物。
しかし、知識と研究は凄まじく、世界中の民俗に詳しい。

大友先生
有名な日本の画家。

チン・ジョンヒョク
躍進中の人気IT企業「フォレスト」の会長をしている中年男性。
残酷な性格が見え隠れするせいで彼を不気味がる社員も存在する。
腹心の部下のイ常務と、相談役のような妖しい中年女性を身近に置いている。


※以下から内容や描写に触れる感想になります。ネタバレ注意!!



連続ドラマを観る習慣がないのでかなり長く感じはしたけれど、めちゃくちゃ面白い!
日本妖怪とか民間伝承、世界の呪術に詳しい人は特に楽しめると思う。
『呪呪呪』を観に行くのでと要所要所を観返していたのだけれど、本当に丁寧な構成で、観ていて「結局あれってどうなったの?」みたいな空白が生まれない。
伏線回収も「ここでこれか!」って感じのあざやかさでタイミングが絶妙。

演出も独特で、何と言っても、禍々しい技である謗法を行うときの雰囲気がかなり見事。化粧品のCMみたいなオシャレ音楽(タイトル曲)と静謐なムードの中で、呪いの対象に起きる目を覆いたくなるような異変や、ソジンの手に現れる聖痕の変化が痛々しく不気味にグロテスクに描かれてるのがマジで良い。

日本の描かれ方も良い感じ。8兆ウォンの付喪神にはちょっと笑ったけど、
“人が人を呪うため、人の手で作り出した最悪の呪詛神”
への言及に関してはかなりグッときた。サイコパスの神(笑)。
大友先生のただ者じゃなさ演出がギャグにならない世界観の作り込みよ……!

キャラクターも全員個性的(韓国の男性のヘアスタイルは日本でいう“坊っちゃん刈り”のように前髪を一直線に揃えるスタイルが多いのか分からないんだけど、前髪の揃った後輩刑事が顔も似ていて、名前もジンスとジンソンだったのは最初区別つかずに混乱した以外は)で、中でも私のお気に入りはチン会長側の巫堂の例の女性。
岸本加世子さん似のチョ・ミンスさんという俳優さんが演じてるんだけど、流暢な日本語や飄々とした世渡りから鬼気迫るトランスの儀式、豊富な知識をちらつかせる凄味までどのシーンもインパクトあって素晴らしいナイスキャラ。
躍進中の最先端企業のアドバイザーとして幅をきかせ大金を巻き上げており、年齢も素性も不明、不敵な態度で、各所に謎の人脈があり、登場するごとに奇抜なファッション、その能力は完全に本物とか最高じゃないですか!?こんなおばさんになりてえ(笑)!!!!

ちょっとお馬鹿な弟子も含めて面白いな~と思ってたら、そこにも後々ドラマがあってびっくり。
登場から最後まで全部素敵だったけど、何かマリモみたいな服で白昼堂々呪符を使うところとか凄く良い。

あとは主人公のソジンの佇まい。
トレードマークの赤いパーカーと、呪詛返しから中盤までの眼帯の物静かで小柄な少女、というキャラクターも勿論のこと、まだ子供である彼女が(変な書き方になるけど)しっかり手を汚す、というシビアな作風が好き。
この作品も暴行や捏造等のシーンは“韓国ノワール”的なダーティさがあり、逃げのない醜悪さをもって描かれているが、先にも書いたように人を呪う謗法のシーンは反対に静謐で美しい。しかし、それを行うのが年端もいかない孤独な少女である、という救いのない暗さ、ダークヒロインとしての強さが良い。

そして最後は、邦画の『来る』に勝るとも劣らない多流派呪術の競演シーンもあり楽しめた。

作品全体を通して、謗法というおぞましい外法・人を呪う事の闇が強調されていくが、並行して描かれ突きつけられていくのは、謗法など使うことができない我々人間でも“人を憎み、傷つけ、呪う”という醜い感情を好き放題に発露しているという現実。
きわめて現代的な種明かしこそ、荒唐無稽にして核心を突いた「呪い」の本質だった。


さて、『呪呪呪』はゾンビものということで『謗法』に携わった『新感染』のヨン・サンホ監督の新作ゾンビがまた観られるのはとても楽しみ。しかも愛着のある『謗法』のキャラクター達が絡んでの映画だなんて。

ゾンビに対してソジンやジニ達がどう関わり、どう戦うのか。
『呪呪呪』、楽しみに観てきます。

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