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台湾ホラー『人面魚』の話(ネタバレ無し感想・紹介)

台湾ホラー映画、好きですか?
私は大好きです。
オバケでは、初めて観た台湾ホラーである『怪怪怪怪物!』の怪物が全てにおいて愛おしいし、コメディやギャグ、ファンタジックな要素無しのガチな恐怖描写ではNetflix限定配信映画『呪詛』の空気がじっとりして良い。

Netflixでは他に『杏林医院』と『呪われの橋』、ホラーコメディ『怪奇温泉旅館』や『第九分局』等を観ましたが、総じてお気に入り度は高いです。

更に、この秋は、夏に映画館に観に行って打ちのめされた例の『哭悲-The sadness-』のサブスク配信が始まり、『紅い服の少女』一挙公開と、台湾ホラー好きには大変アツい日々です。
(一応、(自称)Jホラー『“それ”がいる森』にも駆けつけましたがそれはまた別のお話)

そんなわけで今回は、台湾ホラー『人面魚』の話。
主演は私と同世代なら「ウッチャンナンチャンのウリナリ!」でおなじみだったあのビビアン・スーさんだ!

公開中の『紅い服の少女』とは地続きの世界観なので核心のネタバレは無しで、導入部のストーリーと見所、個人的なムダ知識由来の考察・お気に入りポイントを少しだけ。

『紅い服の少女』をもう観た人も、これからの人も、あわせて『人面魚』をぜひどうぞ。


■冒頭のあらすじ

古い書物に言う。
「人の顔をした魚には霊が宿る」とーー。

台湾・ランタン地方。
かつて“魔神”達が人々を脅かしていたが、300年前、武将が呼び寄せた「虎爺」という神獣が魔神を成敗した……という伝説の残る地。

ある山の水辺で、男が釣り上げた魚を焼いて、仲間達と分け合い美味しそうに食べている。
そこに、どこからともなく声が聞こえる。
「魚は美味しいか?」
そして声は男の名前を呼ぶと……ーー

廟(道教の神々を祀る、神道の神社や仏教のお寺のような場所)「玄虎宮」では、術師ジーチェンが儀式を行い人々を助けていた。
彼は伝説の虎爺を祀り信仰しているが、彼自身はもう何年も虎爺の力を我が身に“憑依”させられずにいるという。

ジーチェンによる悪霊祓いの模様をカメラにおさめ、映像コンクールに出そうと意気込む二人の少年が儀式を撮影している。

刑事が、ジーチェンの元に一人の男性を連れて来た。
「虎爺に会いたがっている」というその人は、家族五人を殺害したという凄惨な事件の容疑者。
ジーチェンは知る由も無いが、彼は、山の中で何者かに名前を呼ばれたあの男性だった……。

□台湾ホラーの魅力完全網羅!

タイトルにある“人面魚”は勿論映画の中にも出てくるが、取り敢えず的なアレとして開始後すぐに絶対
「思ってたのと違う!」
となる人面魚が見れる(笑)。
まあ、これは“つかみ”なのであまり気にしなくても大丈夫。

先にこの映画の魅力を分かりやすく表現しておくと、

『リング』と『コンスタンティン』の中の、日本人がハマれる要素が凝縮された良ホラー

といった感じ。
オバケにも存在と行為に理由がある、とか、じわりじわりと不吉っぽい描写や生々しいジャブを繰り出してくる恐怖の見せ方とか、攻防における呪術的な要素の演出とか。

以前『杏林医院』の感想記事でも触れたが、個人的に台湾ホラーの好きな部分の一つに
“護符や呪文等の呪術や神の力は普通に「実在し効果のあるもの」として描かれている”
という特徴がある。

ファンタジー寄りの『怪怪怪怪物!』では呪術が新聞に載る台湾らしさが出てきたし、恐ろしい『呪詛』でも廟の道士が葉っぱを使った術を見せていた。

日本のホラーで例えば『リング』や『呪怨』に山伏が出てきたら
「ギャグかな?(それとも白石監督作品なのかな?)」
となってしまう所だが、台湾ホラーでは呪術の存在が浮かない。
登場人物の誰もツッ込まないし、霊能力を疑ったり科学を信じるような一般人でも呪術を見ると即座に信じ、頼り、疑う描写は無い。

これは台湾の人々にとって道教廟や有り難い神々、護符や風水、縁起かつぎ等がかなり身近で普遍的な日常のものであるが故だろう。

ギャグ要素の無いマジメホラー『杏林医院』でも、病院内で起こる怪異(割りと見た目も怖い死者の霊)に対して陰陽説の理論によるアイテムだとか、護符で対処していく。
キョンシー等コミカルなオバケ以外にも普通に「おふだ」が通用する世界、それが台湾ホラーの強烈な個性であり、何が出てきても納得させられてしまう勢いの良さだと私は思っている。

□少し楽しくなる(かもしれない)トリビア

①オバケや魔物に「名前を把握されるのはマズい」という俗信

様々な文化圏の呪術的思考において、名前というのは特別なものとして扱われる。
台湾では、オバケや魔物に名前を知られる事を忌む。
『返校(Netflixドラマ版)』でもコックリさん的な儀式を試そうとする学生が「やめろ名前を呼ぶな!」と制する場面がある。『呪詛』などもうこのタブー視を持つ人々の恐怖を刺激する最たるものが描かれていた。

オバケに名前を知られる事は、オバケからの危害を受ける事、この世ならざる力の影響を受ける事につながる。
……つまりもしも「自分の名前を知ってる人がオバケになってしまったら」…それはもう、激ヤバ以外の何ものでもない。

②「南に鳳、東に植物、南西に水晶(中略)風水が施されている」という台詞

南は神獣で朱雀、東は五行で木なので、多分それらの方角の気をそのまま補強するような風水的インテリアの配置がなされている、という事か。
南西に水晶、は流派にもよるので私の勉強している範囲内では不明だった。
南西は八卦では「坤」、属性としては土、数字は2。これらとあの家の立地、ないし暦から何らかの風水理論で導きだしての水晶だろう、とは思われる。
(ちなみに南西を裏鬼門といって特別視するのは風水ではなく日本の家相とか方位、陰陽道の考え方)

③虎爺(フーイエ)

道教と、道教由来の民間信仰における神聖な虎。“爺”は「土地爺」とか「七爺八爺」のように、道教の神につけられる敬称。
虎爺は正確には道教の神様、ではなく、神様の仲間・味方に位置する神獣のような感じ(虎爺を主祭神とする廟が台北にあり、メインの神として祭祀されているのは珍しいとの事)。
道教廟で見る虎の像は虎爺である事が多い。大抵黄色に黒縞の普通の虎の姿をしているが、“黒虎将軍”という別名がある。

④トリビアではないけれど、エンディングは最後まで見逃すな!!

ストーリーが終わり、黒い画面にキャストが表示された後、ちょっとした“おまけ”がある。
時は2015年、『人面魚』本編から8年後だと示唆されている。
とある場所にいる若い男女カップル、二人は楽しく山登りの話などをしている。
女性が呼んだ男性の名は、ジーウェイ。

□目を覆いたくなる程のトラウマ的恐怖やグロテスクさ、ゴア描写、性描写等の過激さは無し!たくさんの人が楽しめる作品

『人面魚』は、ホラー映画としては感情や恐怖、嫌悪を激しく揺さぶるタイプの過激さは無い。
ストーリーもキャラクターも分かりやすく、テンポも良く、考察ありきみたいな難解さも無い。

繰り返しになるが、
『リング』と『コンスタンティン』の良い持ち味を足したかのような作品
である。
あまり映画を他の映画を出して良さをたとえる事は本来したくないのだけれど、ネタバレせずオススメするにはもう、これしか言い方が思いつかない(笑)。

『紅い服の少女』を観た人も、これからの人も、また『紅い服の少女』は予告観たけど怖そうで無理だ~って人でも『人面魚』は観れるかなと思う(リングは怖くてもコンスタンティンが観れれば観れると思う)ので、ぜひぜひ。

『人面魚』観て、皆で“好きな呪術シーン”の話をしましょう。
そしてポケビよりブラビ派だった同志とも話したい事が山ほどあるんだよ。

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