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【J1 第12節 vs神戸】求められる強みの表現と"シンプル"

この記事でわかること

・前半、サンペールに対する苦悩
・ボール保持、狙った神戸IH裏
・サンペール交代で何が変わったのか
・後半に主導権を握れた理由

はじめに

ガンバ戦から中3日で迎えた神戸戦。ミッドウィークにさらに試合を控える神戸は大幅にメンバーを変更してきました。デンのスーパーゴールとサヌ以来の宙返りが飛び出し、後半には主導権を握って再三チャンスを迎えるもゴールが遠くセットプレーから失点。もったいない勝ち点の落とし方をしました。内容を振り返ると勝ち点0は少し見合わないかなと思います。

今回は、神戸の心臓・サンペールに対する苦悩と、後半の主導権奪取の過程を追っていきたいと思います。

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前半 - 後出しジャンケンの攻防

大幅にメンバーを変えてきた神戸ですが、ボールを保持して後ろから丁寧に前進することは継続し、浦和のブロックを中央に収縮させてサイドから早いタイミングでクロスを入れるなど、WG化したSBに時間とスペースを与えることを狙ってきました。

浦和としては、今季の基本通り、ミドルエリアでブロックを組み、中央を封鎖して相手が後ろ向きのプレーをしたら前までボールを奪いにいく姿勢。

しかし、前節のガンバ戦ほど成果は挙げられませんでした。神戸のWGが中に入ってきたり、IHがボランチに影響を与えて浦和の前への守備やサイドへのスライドを遅らせるなど、よりチームとしてサイドの幅をしっかり狙ってきました。

そしてセルジ・サンペールの存在。個人戦術と呼ばれる、個人での能力の高さがJリーグの中では抜きん出ていて、浦和も手を焼きました。目立つ部分を見るとアンカーの位置からパスを配球する選手ですが、神戸が最終ラインからのビルドアップする際のポジショニング、ターンする技術、ボールをすぐに離さずに相手を引きつける技術、ドリブルでボールを運べる技術など、浦和の出方を見てプレーを選び次の味方へ優位を届ける、その選択の幅が厄介でした。

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失点シーンも神戸の狙いの通りで、中央収縮をさせられた浦和は、長澤のスライドが間に合いませんでした。その後、同じパターンを許さないためにも、同じような場面で長澤がスライドするのではなく橋岡が初瀬に出て行った場面がありました。すると神戸はすかさずSB-CB間を狙ってきたりと、相手を見てどのエリアを攻略するかという意識やプレー選択がチームとして共有されているようでした。

浦和としては、17:15~ のように神戸のビルドアップ隊の中でも一番足元に不安のある菊池にボールを誘導して奪う場面を増やしたかったと思いますが、中に入るWG、ボランチの前に姿を見せるIHによって柴戸と青木がサンペールに行きづらい環境を生み出されていたので、撤退を余儀なくされる場面が多かったです。

トレードオフ - サンペール対策を取るべきだったのか

では、猛威をふるったサンペールに対して特別に対策を取るべきだったのか、という点について振り返ってみます。

FWのラインを越えられた後に、4-4のブロックの前でサンペールが中央にサイドにと攻撃の起点となっていたわけですが、前述の通りボランチが前に出てケアすることはやや難しい状態でした。ですので、今季の浦和から考えた現実的な策としては、主に杉本健勇がやっていたタスク、4-4-1-1化してサンペールをケアする方法です。武藤にこのタスクを課すことで制限はかけられたかもしれませんが、飲水タイムを経てもこの方法は採用しませんでした。

単純に神戸の攻撃を止めることのみを見て、この方法でサンペールをケアできたかもしれませんが、裏返しとしてポジティブトランジションへの移行、つまりカウンターでゴール前まで迫る確率を低くする可能性があります。

サンペールに対して武藤がケアするということは、ボールを奪取した瞬間のカウンター時は逆に、武藤がサンペールにケアされていることを意味します。また、最前線はレオナルド1人となり、素早くゴールまで迫るための一手目である、前線にボールを預けることが難しくなってしまう可能性があったのではないでしょうか。

この辺りはひとつの局面だけを見た対策というのはなく、試合全体のバランスを見たトレードオフになります。前半、失点含めて2~3回の決定機はありましたが、名古屋戦を除いた最近の試合を見ても、撤退した4-4のブロック守備ではそこまで失点のリスクはないと踏んでいたのかもしれません。

問われたボール保持

また、結果として浦和がボールを保持する時間も多くなりました。前半のボール保持率は48%と、今季の傾向から見るとやや多い数字。非保持の局面では一定の成果と安定を得ている浦和ですが、ボール保持はもう一歩という評価をする方も多いでしょう。

この試合では、神戸の出方を見てどのスペースを取るかという点はチームとして共有できていたと思います。神戸は4-1-4-1の配置から、FWに合わせてIHが積極的に前に出て浦和のCBにプレッシャーをかけてきました。場面によっては両IHが同時にポジションを離れていることも多く、サンペールの周りや、MF背後のスペースが空いている瞬間も多かったです。

浦和もこれを認識していたようで、武藤や関根が空いたスペースを使えた場面は数回ありました。 12:45~ の西川から関根が受けたシーンは象徴的です。

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ただし、その後に神戸の最終ラインを困難に陥れられたかという部分では疑問符がつきます。MFラインの背後を取るところまではできて、前線にレオ、武藤、長澤、橋岡がいることが多かったですが、誰が、もしくはどのグループが最終ラインと勝負する体勢を整え、最後にどのスペースを攻略してシュートまで到達するかという部分までは表現できませんでした。

後半 - 今季の強み、非保持から主導権を奪回

後半、58分の選手交代から試合の流れが変わります。サンペールを含めた3枚替えを敢行した神戸は3バックに移行しますが、これに対する浦和の非保持守備がハマり始めます。

神戸はCB1枚とGKを並べて4バックのように可変した形でビルドアップを行ってきましたが、2トップでの方向付けで予測ができるようになり、ボランチ2枚に対して柴戸とエヴェルトンがケアに出たり、SHやSBも前向きにプレスをかけられるようになりました。その結果、ボール非保持から主体性を発揮する浦和の強みを活かせるようになり、ゲームのコントロールを取り戻していきます。

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それでも繋ごうとする神戸から、高い位置やサイドに追い込んでボールを奪ったり、素早いスローインや、高い位置からポジションを離れてプレスに来る神戸の裏を西川のフィードで一気に取ったりと、ビッグチャンスを数回作りました。しかし、あとは決めきるだけの場面で尽くゴールを奪うことはできず。

結果として、その代償を支払うこととなります。

79:50~ 前からきた神戸に対してシンプルに長いボールを使わなかった浦和はその流れからCKを与えてしまい、ここから失点。60分あたりから約20分、ゲームの主導権を握っていた時間帯にゴールを決めきれず、一瞬与えてしまったチャンスから失点してゲームを落とすという何ともやり切れない試合となってしまいました。

試合中、大槻監督から「シンプルに」とよく声が出ていましたが、そもそも今季の浦和は最終ラインから丁寧にひとつずつ前進する設計はしていないので、失点シーンに繋がるCKを与えてしまった場面はシンプルに前に送っても良かったのかなと思います。

おわりに

サンペールの交代を機にゲームの構造が大きく変わったこの試合でしたが、あなたはどう捉えたでしょうか。下記Twitterに感想や意見などリプライ・引用RTでお聞かせください。

さて、もったいない形で勝ち点を落としてしまった今節。特にサンペールに手を焼きましたが、非保持のブロック守備、後半から見せたボール奪取の仕組みは着実に練度を上げられていると思います。

ボール保持については、相手を見てどのスペースを取るかというトライは見えました。その後の最終局面についてはまだまだチームとして仕組み化・共有はできていない印象です。

やはり現時点で得点の可能性を高く感じるのは、非保持からのポジティブトランジションでのカウンターや、保持からシンプルに相手陣地にボールを置いてのネガティブトランジションでしょうか。

ビルドアップ時に、シンプルに割り切れずに失点に繋がる場面がこの試合に限らずこれまでにもあるので、最終ラインは最低限の数的優位で繋ぐ姿勢(MF背後を取る)を見せつつも、ギリギリまでトライはせずに橋岡の高さや裏へのロングボールを使うという判断がより的確になれば、もう少し試合をコントロールできるのではないでしょうか。

次節は大分戦。神戸同様に後方から丁寧に繋いでくるチームとの対戦になります。

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