見出し画像

【J1 第10節 vs 広島】必要だった"応急処置" - 止血を終えて再スタートへ

この記事でわかること

・どうしても必要だった今節だけの目的
・目的遂行のための戦術的プラン
・会見内容などから考える今節の選択
・「3ヵ年計画」のためのコンセプト逸脱

はじめに

大敗を喫した名古屋戦から1週間を経て迎えた広島戦。結果として勝ち点3を得ましたが、ホーム埼スタのピッチで繰り広げられたサッカーは「3ヵ年計画」で示されたコンセプトを具体化した内容とは到底言えるものではありませんでした。

個人的には、これで結果を得たとしても意味はあるのか?と試合中は複雑な思いで、あまり納得できないものでした。しかしDAZNで放映された大槻監督のインタビューや試合後の会見内容から読み取ると、今節の試合はどうしても必要だったと納得できましたし、改めてサポーターが論じる場合は現場で起こっているであろう事を補完する必要性を感じました。

あなたはこの試合、どう感じましたか?
今節の試合は戦術的な観点以上に、この試合の意味をサポーターがどう捉えるかが重要だと思いますので、ぜひ最後まで読んでいただき、みなさんも一緒に考えてみてください。

「超守備的サッカーで勝っても未来はない」と表面を見て切り捨てる前に、今節の目的とその策に関する戦術的なレビューに加え、「3ヵ年計画」を続けていくためにこの試合が必要だった理由を考えることで今節の意味を捉えていきましょう。

画像3

とにかく無失点、結果。そのために用意した策

今節の浦和は、とにかく無失点であること、結果を出すことのみに注力しました。一旦、「どうやって勝つか」、「コンセプトを具体化するか」といった点は優先順位を下げた、もしくはタスクから外したと思います。
この理由については後ほど考察していきます。まずは結果を得るという目的を達成するためにどのような策を取ったかを紐解いていきます。

低重心、関根・柴戸に課したタスク

とにかく失点をしないこと。これを達成するために浦和は、広島にスペースを与えないことを徹底する選択をしました。具体的には全体の重心を下げること、PA内ではなるべく4バックが並んで跳ね返すこと。山中ではなく宇賀神を起用した意図も見えてきます。

また、システム上ミスマッチが発生する大外、特に広島で一番危険な柏にボールが出た場合は、関根が最終ラインに吸収されてでもついて行くというマンマーク気味の対応。【図1】
4-4-2のSHの立ち位置を取って中央を封鎖、逆サイドにボールがある時はゾーンディフェンスの原則通りポジションを取り、状況によっては広島の佐々木にチェックを入れながら柏に対応して最終ラインまで下がるという、かなり重いタスクが関根には課されていました。

また、関根が下がることで生まれる周りのスペースをカバーするために武藤と柴戸を配置して運動量を確保。柴戸については、関根が柏に引っ張られることで空くスペースのカバー、橋岡が釣り出された際のSB-CB間カバー、佐々木や青山へのチェックなど、担当するエリアは広範囲に及びました。それでも「タスクが重い」と感じさせない事が今季の柴戸の充実度を物語っています。

全体としてはハーフラインより前から追うのは自重、基本的には右サイドに誘導し、失点を防ぐことを最優先。広島も後ろからそのまま前にパスつける事が多いこともあって(「運ぶ」があまりない)、窒息させることはできました。

画像1

【図1】前半の仕組みと関根のタスク

攻撃面に関しては、ボールを奪えたらエヴェルトンやレオナルドで時間を稼いで汰木らを使ってロングカウンターを実現するルートを目指していましたが、それほど再現はできませんでした。
重心をかなり下げて、ポジティブトランジションの準備よりまず失点しないことに重きを置いていたので、その裏返しとして仕方ない部分ではあります。結果として試合開始直後の1回目でPKまで取れたのは幸運だったと思います。

また、今節の浦和はCKでもFP全員をPA内に入れる徹底ぶり。カウンターやボール保持回復は捨てて、人海戦術でとにかく失点しないことを目指したことがわかると思います。

序盤に1点のリードを得たこともあり、カウンターの実現、陣地の回復、ボール保持の回復などは叶わずとも、まずは無失点で前半を耐えることに成功。後半に繋ぎます。

さらに割り切った後半。90分やり切る覚悟

後半に入った浦和は、「無失点」「勝ち点3」という目的に向けてさらに割り切った策に出ます。

SHの位置から柏のマークへWB、SBの位置まで下がる関根の運動量と、関連して発生する周りのポジション移動のリスクを軽減させること、システムのミスマッチが目に見えないようにするために、5-4-1へと移行しました。【図2】
前半にも増してより一層重心を下げ、殴られ続けたとしても無失点で90分を終えるのだと、完全に割り切った体制になりました。

画像2

【図2】後半の構造

裏返しとして、跳ね返しても前にいるのはレオナルド1人だけという状況で攻撃への移行はさらに厳しい状態に。レオナルドにとってはフラストレーションが溜まる試合だったと思いますが、仕方がありません。
60分に独力でもなんとかボールを収めることができる杉本を投入し、サンドバック状態から一定の時間と陣地を得ることはできましたが、さすがに浦和がひたすら跳ね返す構造そのものを変えることはできません。

そんな状況も「結果」のために受け入れ、最後は岩波も投入。危険な場面をギリギリのところで防ぎながらも、今節における最大の目的であった無失点での勝ち点3を獲得しました。

これで良かったのか。今節の意味を考える

さて、ここからは3ヵ年計画のコンセプトから逸脱しても結果を取りに行った意味はどこにあるのかを考えていきます。

なぜこの選択を行ったのか。まず大前提として私たちが外から現場の全てを知ることは不可能であることを理解しなければなりません。ピッチ上の事象から何が起きているか、何をしようとしているか、どこまで出来ているかを読み取ったり、分析したりすることはできますが、実際の現場、チームの中で何が起きていて、どのような過程を経てピッチ上の試合が展開されたかまでは知り得ません。

その中で、ピッチ上だけを見て「こんなサッカーじゃ未来はない」と切り捨てるのは簡単ですが、監督や選手からメディアに向けて発信された内容(もちろん、全てを発信するわけではない)からある程度仮説を立て、想像してここまでの過程を補完する必要があると思います。

そのために、今節を終えての大槻監督の発信を振り返っていきましょう。

■DAZNの試合後インタビュー

先週非常に難しいゲームをして、選手のメンタルのリカバリーの面で非常に難しい週を過ごしました。ですので必ず勝ち点3を取りたかったし、勝ち点3を取らないと内容のところにも言及できないと思うので、内容については良いとは思ってないですけど、3を取ってまた次に進みたいと思います。

試合後の会見

前節で非常に難しいゲームをして、非常に難しい1週間を過ごして迎えたゲームでした。選手のメンタルのリカバリーのところも含めて、非常に難しいゲームでした。今日のゲームに向かうところの準備も、非常に難しかったです。
その上で今日のゲームでは準備したことというよりは、我々はこれまでやってきましたけれども、この暑熱下の中で、予想はしていましたけど、今のやり方で広島さんのやり方に、スライドをしたりとかいうところで、試合の途中でいろいろなことを試行錯誤、修正しながら、選手もよくやってくれたと思います。

これらのコメントを読むと、前節の名古屋戦が現場に与えた影響は相当に大きなものだったことが伺えます。特に選手のメンタル面への負担は甚大だったのだと推察できます。
外から見てる分には、「そんな時もあるからキレイさっぱり忘れて次からまたコンセプトに沿ってやり直して行こう」「今季は降格がないから内容を優先できる」なんて思えるのですが、実際に戦っているのは勝負事の世界にずっと身を置いている、プロの監督・コーチ・選手で、そう簡単な話ではないのでしょう。

理論上で、理詰めで「正しい」要因はいくらでも挙げられますが、最終的に人間は感情で判断や選択を行います。
勝負事の世界で日本トップまで上り詰めてきた選手たちが名古屋戦のような試合を経験し、何事もなかったかのように切り替えることはできないのだと思いますし、同じような試合を繰り返したり、連敗してしまえば、コンセプトに沿ってチームを作って行くという大前提を信じる事ができずにチームが瓦解してしまうリスクもあったのだと思います。

そこから「回復」するために、今節は何が何でも「無失点」と「結果」が必要だった。そのためにはなり振り構っていられなかったのだと思います。
ひいては、これが「3ヵ年計画」におけるコンセプトを具体化したチームづくり、キャンプから行ってきたチームを継続させることに繋がる試合だったのかもしれません。
戦術的には道から外れても、戦略的には外れない選択です。
まさしく、予期せぬ事故で出血してしまった2020年の浦和が倒れてしまう危機を、一旦止血して再スタートを切るための応急処置だったのではないでしょうか。

とはいえ、大槻監督にとっても賭けの度合いが高い選択だったと思います。コンセプトからのチーム作りという大目標を一旦捨ててまで結果を取りに行った挙句、取れなかった時にどのような空気がチームを取り巻くかは、浦和レッズというクラブの特性から考えても容易に想像できます。

ひとまず賭けには成功した形ですが、これは今節が終了した直後での視点で、この先3ヵ年計画が無事に軌道に乗ればの話です。その場合、後から振り返るとより意味を持つ試合になっているのではないでしょうか。
故に、中3日でやってくるG大阪戦やそれ以降の試合でどのように振舞うかも、同じ文脈上でしっかり観察していく必要があります。

今節にフォーカスした観点における総括としては、前節の大敗から応急処置に成功したことが現場に与えるであろう影響を鑑みて、ポジティブに捉えようと思います。

あなたは今節をどう捉えたでしょうか?ぜひ、下記のTwitterリプライや引用RTなどで感想や意見を聞かせてください。匿名希望の場合はこちら

私たちサポーターが、プロとまったく同じ土俵に立って物事を見ることはできませんし、今回のように発信から仮説を立てたり想像することしかできませんが、これを忘れない事が大切だと思います。

もっとも、フットボールは感情的で情熱的なものであり、ピッチ上を見て一次的に感じたものをそのままぶつけることもまた正しいし、魅力でもあるし、それこそがフットボールそのものでもあるとも思っています。

おわりに

今後も、浦和レッズの試合からピックアップして、「どうしてこうなったの?」がわかる分析をTwitterやnoteなどで行っていきます!
面白いと思っていただけたら、ぜひフォローやRT、拡散をお願いします。

このコンテンツは浦和レッズサポーターの間での戦術的な議論を活性化し、その理解を持ってクラブと向きあう文化を醸成することを目標にしていますので、感想や意見、質問なども大歓迎です!
Twitterでの引用RTやリプライ、DMなどお気軽にどうぞ!
匿名が良い場合は下記までどうぞ。Twitterで返信します。
匿名質問/リクエストはこちら

お知らせ
浦和レッズについて戦術的な議論をするためのSlackグループが稼働しており、メンバーを募集中です!
文字数や情報集約に限界があるTwitterではなく、閉じた環境でしっかり議論できる場所を目的に複数の有志で始め、試合前、試合中、試合後に意見交換をしています。
戦術的な知見を得たい、自分の考えをアウトプットしてみたい、試合を戦術的に予想・振り返りたいなど、ご興味のある方はTwitter @maybe_km までDMを送ってください。招待リンクを送らせていただきます!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?