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シンプルな"力負け"で見えた現在地【2020 J1 第14節 浦和レッズ vs C大阪】

浦和レッズサポーター間での戦術的な議論活性化のきっかけを目指す、浦和レッズ戦術分析。試合後1~3日後の18時にアップされます。今回も読んで頂けること、Twitterで感想・意見をシェアして頂けること、感謝です。ありがとうございます。

この記事でわかること

・質の高いC大阪相手でも出せた速攻
・大半は隠せた弱点
・練度不足と自滅で招いた失点
・足りないものと次へのステップ

はじめに

今節の相手は安定した戦いで上位に位置するセレッソ大阪。今季の浦和と、大枠で同じような方向性を目指しているチームとの対戦となりました。上位対決と盛んに煽られましたが、尹晶煥からロティーナ体制に移行して2年目のセレッソと今季から新スタートを切った浦和、そういった意味では挑戦者としての立場での試合となります。

今季の浦和は、相手の秩序が整う前に狙いを設定して、ゴールの大半をこの局面で奪ってきました。しかし、今節はその秩序をいかなる時も崩さないことに長けたセレッソが相手。それでも僅かな綻びを突けるか、試合前の大槻監督の会見でも言及されていたセットプレーで結果を出せるかが、ゴールを奪うという点では重要になるのではと予想されました。

失点を防ぐという観点では、やはりリスクとして許容している大外。特に今節は、セレッソのストロングポイントである坂元の攻、浦和の弱点である山中の守が重なる構図となり、ここをどう隠すかが焦点となりました。

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僅かな綻びを狙う浦和の速攻

ルヴァン杯でも得点を阻まれたセレッソの質の高いセット守備は、この試合でも浦和の前に立ちはだかりました。PAに入るか入らないかの位置で4バックが構え、その前の4枚も立ち位置を崩さずに危険な中央のスペースと経路を確実に封鎖するセレッソ。

それに対して浦和は、やはりポジティブトランジション、カウンターを中心にゴールを目指します。

5分や25分のシーンでは、「相手の秩序が整う前」の状態でシュート一歩手前まで迫りました。5分は関根へのパスが合わなかったこと、25分は一手目でボールを持ったエヴェルトンから興梠に縦パスが入りますが、この時レオナルドも同じスペースで受けようとしてたことで、その後の展開がスローダウンしてしまいました。

なかなか隙を見せない相手に掴みかけたチャンスでしたが、もっと速いスピード感で、セレッソに組織を整える時間を更に与えずに最終局面に移行することができたら、シュートまで持っていく可能性が高かったと思います。

また、前半終了直前の46分、西川からのスタートでデンがボールを持った際、柿谷が一瞬見せた隙で背後のエヴェルトンが空きました。ここにボールが入ると、ターンして、前線もスピードアップ。高精度のクロスを持つ山中にスペースと時間を与えることに成功し、レオナルドが触れたらゴールという場面を作りました。これが直接の原因かは分かりませんが、この後ハーフタイムで柿谷は交代します。

そう多くはありませんが、前半の浦和は、今季得意とする得点パターンの局面でゴールに迫ろうかという場面を作ることができました。しかし、ボールを保持しても、その後のトランジションで秩序を崩さず、最後は必ず危険な場所を確実に埋めるセレッソの質が高かったことも事実です。それ故に、複数回、僅かに秩序が崩れている隙を突くことができていた前半のチャンスで、1点は決めておきたいところでした。

大外を巡る攻防、降りる清武と浦和のスライド

では非保持の局面で今季最もピンチが多い、大外を使われる展開はどうだったでしょうか。先述の通り、今節は坂元と山中が対峙する形が最も危険なため、浦和がリスクとして許容しているエリアを効果的に使わせないことは、より重要となりました。

大外のエリアに対しては、4人でピッチの横幅を埋めるのは不可能なため、スライドをする必要があります。このスライドが間に合わないと、どうなるかはご存知の通り。かといって最初からSHを埋めてしまえ、ではゴールを奪うためのポジティブトランジションを犠牲にすることになります。

スムーズにスライドを行うために避けたいのは、中央を経由されたり、一発のサイドチェンジを許すこと。中央を使われると陣形は収縮せざるを得ませんし、人よりボールの方が速く動くので、長いパスが出せる時間とスペースを与えてしまうと、一気に大外に振られてしまいます。スライドを間に合わせるためには、中央を経由させずに迂回させることが求められます。

当然セレッソも、坂元という強みと浦和の弱みが重なっている箇所を活かさない手はないため、大外はを効果的に使うための準備を行っていました。

サイドに長いボールを振るのは主にボランチの藤田や清武。特に清武がFW-MF間、MF-DF間を出入りする動きは非常に厄介で、浦和からすると、橋岡がどこまでも付いていくことはできませんので、背後から現れる清武を対応するかどうかの選択を長澤と柴戸が迫られます。また、長澤が中央に絞らざるを得なくなり、大外への対応も一瞬遅れることになります。この降りる動きで清武は中盤に優位を作ることで、自身が起点となったり、藤田へレイオフ(落としのパス)を供給していました。

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試合開始から早い時間帯で少なくとも3回(7:50、14:00、21:30)はこの形がありましたが、飲水タイムを経て浦和も2トップがよりボランチをケアしたこともあり、回数は減らせました。しかしそれを見た清武は、今度はSB-CB間にランニングして橋岡を引きつけ、SBの片山をフリーにする動きを見せるなど、相手の出方を見て後出しジャンケンをしてくる質の高さはありました。

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とはいえ、強みと弱みがぶつかる大外をスライドでしっかり隠そうという点に関して、試合の大半ではうまく対応できていたように思います。序盤は複数回ありましたが、セレッソに1発でサイドを変えさせることなく、迂回させることでスライドの時間を稼ぎ、SHとボランチのサポートを得た山中が坂元との1on1に晒される回数は少なかったです。

しかし、その数少ない"うまくできなかった"時をきっちり活かされ、失点に繋がったのもまた事実で、そのような状況を作らせてしまう練度ではJ1上位相手に勝ち点を取ることはできないということを、今節はまざまざと見せつけられました。

局面の練度不足が招いた弱みの露見

1失点目は、今季重点を置いているポジティブトランジションでのロストからでした。後半開始直後の47分、セレッソのボール保持に対するブロック守備で危険な中央を効果的に使わせず、迂回させることに成功。ボールは左サイドの大外に来ますが、関根のスライドが間に合っています。

クロスをブロックして相手ボールのスローインとなりますが、柴戸が奪取してポジティブトランジションに移行。預けどころのエヴェルトンと興梠でポイントを作ると、密集から抜け出してオープンな右サイドへボールを運ぶことに成功し、ゾーン3まで迫ります。

今季浦和が最も得点を狙う局面なので、人数をかけてゴール前に迫ろうとしますが、ここで橋岡がパスミス。相手にボールを渡してしまいます。とはいえ、直後のネガティブトランジションの初動は悪くありませんでした。

デンが奥埜を潰すことはできませんでしたが、橋岡、柴戸、長澤が帰陣し、奥埜と清武に対し十分に数的優位を確保できたので、時間を稼いでセット守備に移行するはずでした。しかし、瞬間的に3人が奥埜に引き付けられる形になり、清武がフリーに。

質の高い大きなサイドチェンジを出されると、一番避けるべきだった、坂元にスペースを与えての山中との1on1という局面を作られてしまい、クロスを都倉に合わされて失点。

相手の強みと重なる弱点を晒すという避けるべき局面を作られ、セレッソのタレントをフルに発揮されてしまった非常にもったいない失点でした。それまでは大崩れすることなく対応できていたので、一瞬の隙と言えばそれまでですし、あのクロスをゴールにねじ込めるFWは都倉以外にそうそういませんが、ロスト時の橋岡のパスの質を含め、チームとしてカウンターを完結させる再現性、清武にサイドチェンジを許した局面など、それぞれの練度不足がそのまま結果に直結してしまいました。

自らの選手交代で混乱した2列目

そしてゲームの流れを決定付けた2失点目は、浦和が自ら混乱を引き起こし、その中で晒してしまった弱点での残念な失点でした。失点の流れは汰木が長澤との交代で投入されたところから始まります。

右サイドからピッチに入った汰木が左SHの位置に就く前にセレッソがリスタート。代わりにエヴェルトンがSHの位置で対応にあたりますが、汰木もそのままSH的な立ち位置に移動しています。

その結果、もともとエヴェルトンがいた位置が空白となり、そこを使われてプレスを回避されたことで、柴戸と武藤が横に移動して中央を埋めることになりました。そこで右SHが不在となったエリアにサイドチェンジを入れてくるセレッソ。この時点で浦和のMFラインは、左から汰木、武藤、エヴェルトン、柴戸と、汰木以外は担当ポジションではない配置となっていました。

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そのまま現在いるポジションの役割を遂行するのか、元に戻すのか混乱があったのかもしれません。右サイドでボールを持たれた藤田に対してプレッシャーはかからず、大外の坂元へサイドチェンジを許し、山中が対応にあたります。

試合の大半、同様の状況では、SHに加えてボランチがカバーを担当することで、1on1のリスクを隠していましたが、この時に同サイドのボランチの位置にいたのは武藤。ボールサイドには寄らずに中央に留まり、エヴェルトンもどっちつかずの立ち位置に。

また、ヘルプに向かった汰木の位置もカバーとしては成立しない、疑問が残る立ち位置でした。結果的に負ける可能性の高い1on1を作られ、実際に負けて、そのカバーを誰もすることができずに、ゲームを決定付ける2失点目を許しました。

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1失点目と同じように隠していたリスクを晒してしまいました。しかもその起因が自らの選手交代で、今季の生命線である”正しい立ち位置による味方とのカバー関係”を崩してしまった点であることは非常に残念です。

停滞する保持、次のステップ

リードしたセレッソは、ますます"秩序を崩して"攻める必要がなくなり、浦和のトランジションによるゴールエリア進出は難しくなったためボール保持も必然的に増えました。

今節もこれまで見せてきた展開同様、相手MF背後でボールを持つこと、受け手が正しい立ち位置を取ってボールを迎えること、前にスペースがある時はしっかり運ぶことにトライしました。

長澤や関根がSH-CH間に降りてビルドアップの出口になることや、ボールを持ったら運ぶということは試合を追うごとに徐々に表現できるようになっており、ある程度、前進することはできています。

しかし、その後の最後の崩しの部分、ゾーン3でどうするかという点では、個人に依存する部分も多く、相手を動かすという意図はあまり感じられません。大抵の場合、狭い中央をなんとか突破しようとしたり、苦し紛れにクロスを入れる場面が多く、堅守を誇るセレッソのブロックから得点を奪うことはできませんでした。

ただ、狭い中央に突っ込んでロストしたとしても、その後のカウンタープレッシングはそれなりに安定していて、再奪取して前に出ようとした相手の秩序が崩れたところを再び襲う場面は多少作れましたが、相手の秩序を意図的に崩してシュートまで到達することはできませんでした。

セット守備でセレッソほどの質を持たないチーム相手には、前節のようにレオナルドや興梠の質で殴ることはできますが、上位チーム相手、特に安定したセット守備を持つチームに対しては通用する確率が低いということが現実でした。

それ故に、槙野が試合後インタビューで発言していたように、ボール保持で相手の秩序を壊して得点を奪えるようになることが"次のステップ"になるのだと思います。

まとめ

浦和が目指すような、自らの秩序を崩さずに失点を防ぎ、相手の秩序が崩れている局面で得点を奪うクローズドな試合を志向しているセレッソを相手にした今節は、ある意味試金石のような試合でした。

もし逆の立場なら、セレッソは1失点目、2失点目のような状況を簡単には作らせないはずです。この試合でもなるべく配置を崩さずに攻め、ボランチがボールより前に行くことは少なく、トランジションの備えをしていわゆるオープンな展開に対して常に気を使っていました。特にセット守備の質は圧倒的に高く、決定的なスペースや時間は与えてくれませんでした。

浦和としては目指している内容を表現できている時間も多分にあったものの、表現できない時間が結果に繋がってしまいました。それぞれの局面での練度不足を上位チームは見逃してはくれず、それがゴールや勝敗という結果に繋がってしまいました。

2年目のロティーナ体制、更に遡ると、尹晶煥体制時代も含めた積み上げの差でシンプルに力負けをした印象です。ある程度同質の方向性を目指すチームとの対戦で、現在地がよく見えた試合でした。

これまでの試合、ポジティブトランジションで得点に繋がる場面を作ってきましたし、前節のようにゴールに繋がるセットプレーを獲得する流れも、非保持から前で相手を追い込んだり、セット守備から奪ったボールを素早くゴール前まで運んだトランジションでした。

今節もゴールに繋がりそうなトランジションでのチャンスは複数回あったので、ここで得点を奪いたかったです。ただし、最後の質が出ない、ラストパスが合わない場面が多いこともまた事実。せめてシュートまで到達する回数が増えれば、前線のレオナルドや興梠なら決めてくれる確率は高いはずです。

ここから中2~3日で試合がやってくる5連戦に入ります。選手の回復には最低2日間は必要ですので、先述した、保持に関する"次のステップ"を踏むために割ける時間はそう多くはなく、課題として認知していても、実際に時間を使って手をつけるかどうかは現場で判断されるので、引き続きピッチ上の事象から追っていきたいと思います。

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