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【J1 第13節 vs 大分】狙いと引き換えに差し出したリスク

浦和レッズサポーター間での戦術的な議論活性化のきっかけを目指す、浦和レッズ戦術分析。試合後1~3日後の18時にアップされます。今回も読んで頂けること、Twitterで感想・意見をシェアして頂けること、感謝です。ありがとうございます。

この記事でわかること

・ビルドアップに対する浦和の狙い
・大分の回避策
・許容したリスクを巡る攻防
・浦和のボール保持

はじめに

再開後初めて前後1週間の日数が空く大分戦。スタメンやベンチのメンバーが固まり始めて徐々に序列が見えてきました。片野坂監督の大分は後方から丁寧に前進してくるチーム。4-1-5可変はシンプルな4-4-2に対して最も効力を発揮するのは我々がよく知るところです。

結果は2-1で勝利しましたが、ゴールが決まってもおかしくない決定機を複数回作られました。大分のビルドアップに対してどういう狙いを持って、どこまで効果を出せたのか。得点に繋がるボール保持はどうだったか、振り返っていきます。

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ハイプレスとシャドー降ろし

まずは戦前から注目されていたであろう、大分の保持にどう立ち向かうかという局面から。GKを含めて優位を確保して後方から丁寧にビルドアップを始め、相手が前に出てきたらその裏を取って"擬似カウンター"で一気に盤面をひっくり返してくる大分。いわゆるミシャ式にも通ずる難解な今節の相手に対して、浦和は明確に前に出ることを目指しました。

1(GK)-4-1-5に可変する大分に対して、2トップのみならずSHも前へのスライドでSB化するCBにプレッシャーをかけ、中央経由の肝となるアンカーにはエヴェルトンを付けるダイヤモンドのような可変を採用した浦和。
前線からひとつずつ前に出て大分の出しどころを埋めてサイドに誘導、予測を持ってボールサイドのSBも大分のWBに出ていくこと、それに合わせて逆サイドを捨てて最終ラインもスライドし、誘導したエリアで押し込める狙いだったと思います。【図1】

ピッチに広く人員を配置してボールを動かす大分ですので、浦和の縦と横のスライドは広範囲に及びました。また、前に出る引き換えとして、最終ラインの数的同数や不利、柴戸の周りのスペースをリスクとして受け入れました。

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【図1】ハイプレスの狙い

開始直後からこの構造が見えますが、浦和の意図通りにボールを誘導し回収できたかというと、手放してYESとは言い難いと思います。ハイプレスからロングボールを蹴らせて回収できる場面や、サイドに押し込め切れる場面もありましたが、大半の場合はボールの前進を許しました。

大分は浦和がリスクとして許容している場所を見逃してはくれず、使われたら嫌な場所を明確に狙ってきました。具体的な方法としては、前線のシャドーが柴戸の周りのスペースでボールを受けること。そのためにWBが幅と深さを取る立ち位置で浦和最終ラインの押し上げをしっかり牽制していました。

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【図2】大分の回避策・シャドー降ろし

4:00~ と早い時間帯からこの形で前進され、後半に入っても同様の場面は複数回ありました。(54:30~,70:30~,71:40~) また、大分がボールを付けるのはデン側が多かった印象です。浦和が受け入れたリスクの構造上、最終ラインは純粋な1on1になる可能性が高く、この土俵で力を発揮する槙野を避けていたのかもしれません。

大分はこの前進一辺倒というわけではなく、浦和のハイプレス誘導に穴があると2トップの背後の中央を経由。これを許すと浦和はハイプレスを無効化される形となり、サイドへの中長パスを持っているアンカー化した長谷川や、2トップ脇の岩田にボールを持つことを許すことになりました。ここを使われると浦和としては撤退せざるを得ず、そこから泣き所である大外に振られてしまうと、厳しい局面を迎えてしまいます。

縦・横に大きくスライドしてボールを閉じ込めたい浦和としては、中央を経由されること、長谷川や岩田がオープンにボールを持つことは避けたかったはずです。サイドへの誘導やボールホルダーへの制限をかけられないと、ボールの行方を予測することができず、どうしてもスライドが後手になってしまいます。

しかし、そのような場面も散見され、ハイプレスを敢行しながらもFWの最前線からの誘導は完全にはうまく行えなかったと思います。

撤退後のセット守備のフェーズでは、我々もよく知るミシャ式的構造上ミスマッチを埋めるには至らず。4-4-2の撤退で、ある程度許容しなければいけない大外ですが、長谷川を中心に左右に振られたことで決定機に繋がるクロスが頻発、ゴールにも繋がってしまいました。

大分の保持vs浦和の非保持という局面は、浦和が選択したビルドアップを潰すためのハイプレス、その実現のために差し出したリスク、そのリスクを狙い撃つ大分、この辺りを巡る攻防となりました。
浦和がこれに見合ったリターンを得られたかどうかを評価する必要がありますが、成功とは言い難かったのではないでしょうか。

何かを起こせるレオ・興梠の2トップ

浦和としては非保持の時間帯が多くなると思われましたが、大分が先制したこともあり、ボールを持つ時間も増えました。最終的なポゼッション率は49%で、いつもより長くボールを持つことになり、結果としてボールを持っていた失点〜逆転の時間帯が大分の保持に対する最大の防御になっていたかもしれません。

ただし、そうなると問われるのはボール保持。大分は5-4-1でシャドーが2列目に並びすぎない配置。5バックがしっかりラインを押し上げてボランチと接近することで縦に狭いコンパクトな組織を構築していて、浦和の保持の基本的な狙い、2列目の背後を取るためにはかなり狭いエリアでの打開を迫られました。

しかし、この狭いスペースでDFを背負ってても何かを起こせてしまうのがレオナルドと興梠。CBにSBやボランチが斜め前のコースを確保しつつも、大分のように大胆な可変や前進をする方法は採りませんが、中央に絞ったSHでコースを開通させると2トップに対して積極的に楔を入れました。

わずかなコースを通す楔のパスは強く速い、扱いが難しいボールが多くなりましたが、それを難なく収めたり、フリックや反転を行える2トップが半ば強引にこじ開け続け、これが同点ゴールに繋がりました。【図3】

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【図3】浦和のボール保持

これで決定機を作れるなら、ポジションを可変したり離れたりするリスクを冒してまで相手組織を大きく動かす必要がなく、ボールロスト時の対応が安定します。外から見るとチームで最後まで崩しているようには見えず、評価が難しいかもしれませんが。

また、清水戦の得点同様、相手陣内での素早いスローインのリスタートもひとつのパターンになってきました。2点目について、先制点後の勢いと相手GKの動揺もあったと思いますが、ハイプレスから敵陣深い位置でスローインを得ると、素早いリスタートでレオナルドが2点目に繋がるFKを獲得しました。

"攻守に切れ目のないプレー"を標榜する浦和、相手が秩序を取り戻す前に攻め切る思想を持つ大槻体制にとって、ひとつのパターンになってくれそうです。

結果のための現実的なスペース埋め

後半も前半と同じような構造で試合が進んでいきましたが、70分あたりから前述の大分のシャドー降ろしによる前進の回数が多くなり始めます。また、前線での規制がかからなくなってきたこともあり、75分あたりからは武藤が予め最終ラインに入って後ろのスペースを埋める対応を取る場面が増えてきました。

大槻監督も言及していましたが、現実的に勝ち点3を狙いにいったこの時間帯、特に杉本の貢献は高かったです。ロングボールやクリアを確実に収めて陣地・時間の回復は相当にチームを助けました。また、75分以降に前へのスライドができなくなり、SHが最終ラインに吸収されてからは、そのスペースを埋めるために中盤としての振る舞いも行いました。

前へのトライをギリギリまで行い、運動量の問題と勝ち点3獲得が現実的に見えてきた時間帯からは後ろのスペースを埋めることに切り替え、なんとか守り切って浦和の勝利となりました。

まとめ

前から大分のビルドアップを潰す目論見は完全には嵌まらず、ゴールが決まってもおかしくない決定機を複数回作られました。大分がお金持ちであったら、つまり最後のゴールを決める質を持った選手がいたら負けていたかもしれません。

反対に、多くはないチャンスも決め切る選手、セットプレーという飛び道具を持った選手たちがしっかりとその能力を発揮した浦和が最後にはゴール数で上回り、勝ち点3を獲得。前半の長澤の決定機など素早い切り替えからの決定機創出も継続して行えました。

相手の秩序を崩していくことより、自分達の秩序を崩さないこと、相手の秩序が整う前にゴールを奪うこと、あるいは相手の秩序が崩れやすい状態へ、ボールを持たずに誘導することに優先順位を高く置いている今季のサッカーを評価することが難しいのか分かりませんが、何だかんだとメディア・外野の声はありながら、勝ち点はACL出場権獲得圏内のペースで積み上がってきました。(内容から見た結果期待値よりは結果が出ているとは思います)

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