見出し画像

【J1 第11節 vs G大阪】"遅効性の守"で徐々に追い詰めた浦和

この記事でわかること

・ガンバを追い詰めた「スピードを上げない」ゾーンディフェンス
・見た目ではわかりづらい、今節の主体性
・前節とは違う5-4-1
・ここだけでも見返したいピックアップシーン

とにかく結果が必要だった広島戦を経て中3日で迎えたガンバ大阪戦。前節と比較して、より自分たちがやろうとしていたことが表現できたのではないでしょうか。特に、ボール非保持の局面ではゾーンディフェンスの原則通りに守備を実行できた時間帯も多かったと思います。

先制点はその非保持局面がら生まれたもので、完璧とは言わずとも、理想に近い形のゴールでした。したがって今回は、その先制点の分析を中心にガンバ相手に浦和が何を狙ったのかを振り返っていきます。

画像1

"スピードを上げない守備"とスイッチオン

広島戦では想定以上に押し込まれ、主導権を握ることは叶いませんでしたが、今節は今季やってきたこと、4-4-2のゾーンディフェンスでボールを持たずに主導権を握る主体的な表現ができました。

全体の重心は今季の基本である、ハーフラインあたりからコンパクトな陣形をセットする設定。3バック+アンカーでビルドアップを試みるガンバに対して、2トップでのプレスは数的不利になるため、左右のCBにボールを持たせることを許容しました。しかし、2トップが背中でアンカーの矢島へのコースを消したり、アプローチをかけられる距離を取ることで中央の経由は許しません。中への経路を封鎖することで、サイドへ迂回させることを基本としつつ、後ろ向きのプレーに対して選択肢を限定できた際には一気にボールを奪いにいきました。

試合中に細かく指示が飛んでいたポジショニングについても、FW-MF-DFが味方の斜め後ろでジグザクに立ち位置を取り、ボールが組織の中に入っても予測が可能になるように整理されていました。【図1】

画像2

【図1】中央封鎖とゾーンディフェンス

また、今節は横浜FC戦や柏戦のように前からスピードを上げ、追い込んで選択肢を奪っていくのではなく、セットした守備からジリジリと相手を追い込み、チャンスが来たらスイッチを入れて奪いにいく方法を採用。

最終ラインがボールが持った際、レオナルドと武藤は「奪いにいく」のではなく、「ラインを越えさせない」動き。大槻監督からも再三、声が飛んでいましたが、ファーストディフェンダーがボールホルダーにスピーディーに、積極的にアプローチするのではなく、「スピードを上げすぎない」ことで、自らは組織を崩すことなく徐々にガンバを追い詰めていきました。

この結果、ガンバが中央からゴール前に侵入したり、経由してサイドに振ったりする回数は数えるほどでした。慌てず焦らず、それでいて中央を封鎖しながら徐々にガンバの最終ラインから選択肢を奪い、後ろ向きのプレーが出た瞬間にボール奪取へ移行。その後のカウンターにつなげて素早く背後を取ることを目指しました。

最初から激しくスプリントをかけて追い詰めたわけではないので、見た目に派手さもなく、ガンバがミスしただけのように見えるかもしれませんが、十分にこちらが主体的に守備を行えてたと思います。また、このパターンから先制点にも繋がりました。【図2】

この先制点は 22:00~ ぐらいから見てください。ハイライトやDAZNキーモーメントでは、浦和の守備がガンバを追い詰めていく過程が入っていません。また、大槻監督やベンチの声にも耳を傾けてじっくり見ると、ハーフラインからのセット守備、FWの背後を消しながらの立ち位置や、それに合わせたMFとDFの組織でガンバを徐々に追い込んでいることがよくわかると思います。

画像3

【図2】徐々に追い詰めた先制点 (5枚/5秒変化)

まず、2トップに対して「ちょっとずつ、ちょっとずつ」と、ポジションを崩さないように指示が飛びます。中央を消しながら徐々にビルドアップの経路を減らしていき、左CBの昌子がボールを持った時点では、前進のためのパスコースを探しても見つからない様子が伺えます。

その時点でボール奪取の準備が整ったと判断、後方か高尾へのパスが予測できるため、ボールが出る前に「タカ(関根)準備!」と声がかかっています。
ここで高尾にボールは出ませんでしたが、ガンバがサイドを変えることも、中央を経由することも阻止しています。

その結果、2トップの背後でボールを扱いたいはずの矢島もポジションを下げ始め、ガンバは仕方なく横や後ろにボールを動かします。これに対して浦和はラインを上げ始め、GKか高尾への選択肢しかなくなった時点でボール奪取のフェーズへ移行。
関根が高尾から奪うのが理想だったとは思いますが、その流れからボールを奪取、ショートカウンターで先制点を獲得しました。

人を捕まえに前からスプリントをかけて追い込むのではなく、「正しい立ち位置」で相手の選択肢を緩やかに奪い、窒息に追い込んだと見たらボール奪取に移行する。今季の浦和がやろうとしていることを表現できたシーンでした。

今節は大槻監督の声がよく中継で聞こえていて、その中で「(動く)スピードをあげるな」「ちょっとずつつ(動け)」という単語がよく聞こえました。
ゾーンディフェンスを採用している今季の浦和にとって、ボールホルダーに対してマーカーが激しく奪いにいくのではなく、組織の網の中で相手を誘導し、意図したエリアでボールを奪うことが原則。
そのための組織の維持、ポジションの修正、アプローチの仕方など、過密日程で練習時間が取れない中で、試合の中でも上積みが行われていました。
25:55~ 34:30~ のシーンなどで確認することができます。

先制点のシーンについて、あなたはどう感じたでしょうか?
ぜひ、ハイライトではなく、22:00~ から見た感想や意見を、下記Twitterリプライや引用RTでお聞かせください。
他のシーンも大歓迎です。

パトリックも封殺。能動的5-4-1で逃げ切り

後半からガンバは配置を4-4-2に変更。SHが中に入り込んでより中央の密度を高めてきました。ボランチに投入した遠藤を起点に打開を図ってきましたが、セットして中央封鎖する形をとっていた浦和にとっては前半より楽になったかもしれません。

相手の配置が変わっても、セット守備の原則は前半から変わらず、安定して継続できていました。選手を変えて運動量を確保しつつ、試合を進めていきますが、終盤になってくると徐々にラインを上げることが苦しくなってきます。

77:05~ では前からの規制が効かず、遠藤からサイドにボールを振られてラインが後退、ゴール前に侵入されるピンチを迎えました。しかし、この直後に岩波を投入して5-4-1へ移行。後ろのスペースをさらに埋めるとともに、パトリックへのパワープレーへの対策も兼ねます。

ガンバは最終盤になると予想通りパワープレーへ移行。パトリックがややサイドに流れ、ロングボールを中央に落とすことを狙ってきますが、5枚の最終ラインを確保したことで、両サイドで橋岡と槙野が対応。宇賀神が狙われた際は、ポジションを交換してでも槙野がパトリックと競りました。また、人数を増やしたことで、ボールがこぼれても中央に最終ライン3枚は残っている形を維持しました。

前節・広島戦では、関根のタスクの重さと主体的な守備構築が想定通り進まなかったこと、それでも結果にかなりの比重置いていたこともあり、ある意味で仕方なく5-4-1へと配置を変更しました。しかし今節は、試合終盤の状況と点差を鑑みて能動的に5-4-1への変更を行い、一つの逃げ切りの策として使用しました。

また、84:15~ のカウンターチャンスではベンチから明確に「橋岡上がるな」と声が出ており、同じような時間帯の同じような展開で、橋岡が前に出ていって失点のコーナーキックに繋がってしまった清水戦の反省も活かされたように思います。

ピックアップシーン

時間の都合上、レビュー内で取り上げなかったシーンの中で、見返す価値のあるものを箇条書きでピックアップ。フルで試合を見返す時間がない場合でも、振り返るシーンとして参考にしてください。

ゾーンディフェンスを理想的に表現できたボール非保持局面
12:10~, 18:45~, 25:40~,  57:30~

狙いどころとしての約束が見えたガンバ最終ライン裏
4:25~, 4:50~,

"宇賀神の内側ポジション"で左サイド裏を取る
21:20~, 45:00~
小野瀬の立ち位置を曖昧にし、高尾を引き出してスペースを創出

パトリック対策もできた5-4-1
84:35~, 85:55~

おわりに

ガンバのボール保持の質にも勝因はあったと思いますが、浦和が今季積み上げてきたものを、特に非保持の局面においては表現できる時間が増えてきたと思います。そこからの切り替え、ポジティブトランジションが安定してくれば、ゴールも増えてくるでしょう。
次節はホーム神戸戦。意図したエリアに押し込んでボールを奪いたい浦和と、ピッチを最大限広く使ってボールを前進してくる神戸の好対照な対戦になります。昨年の天皇杯王者相手にどこまで通用するか、楽しみです。

あなたはこの試合、どう感じましたか?この試合やレビューへの意見、感想を下記Twitterへリプライや引用RTでお聞かせください。

おすすめコラム
今季の浦和が標榜する「ゾーンディフェンス」について解説したコラムです。

お知らせ
今後も、浦和レッズの試合からピックアップして、「どうしてこうなったの?」がわかる分析をTwitterやnoteなどで行っていきます!
面白いと思っていただけたら、ぜひフォローやRT、拡散をお願いします。

このコンテンツは浦和レッズサポーターの間での戦術的な議論を活性化し、その理解を持ってクラブと向きあう文化を醸成することを目標にしているので、感想や意見、質問などは常に大歓迎です!
匿名が良い場合は下記までどうぞ。Twitterで返信します。
匿名質問/リクエストはこちら

Slackメンバー募集
浦和レッズについて戦術的な議論をするためのSlackグループが稼働しており、メンバーを募集中です!
文字数や情報集約に限界があるTwitterではなく、閉じた環境でしっかり議論できる場所を目的に複数の有志で始め、試合前、試合中、試合後に意見交換をしています。
戦術的な知見を得たい、自分の考えをアウトプットしてみたい、試合を戦術的に予想・振り返りたいなど、ご興味のある方はTwitter @maybe_km までDMを送ってください。招待リンクを送らせていただきます!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?