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【レビュー】反攻への自信 - 2020 J1 第24節 浦和レッズ vs セレッソ大阪

浦和レッズサポーター間での戦術的な議論活性化のきっかけを目指す、浦和レッズ戦術分析、マッチレビュー。試合後1~3日後にアップされます。今回も読んで頂けること、Twitterで感想・意見をシェアして頂けること、感謝です。ありがとうございます。

この記事でわかること

・20分間の攻防 - 浦和の準備とセレッソの修正
・反応 - 浦和が見せた失点後の振る舞い
・自信 - 引きずり込んだトランジション勝負
・継続 - "ビハインドサポート"
・明暗 - 拠り所になった2トップの交代
・手にした自信と立ち返る場所

はじめに

継続性を持った内容と結果が伴って大勝を収めた仙台戦を経て、今節迎えるのは2位・セレッソ大阪。局面移行をスローに展開して極力トランジションを排除するクローズドな試合を志向する相手に対し、トランジションに最も強みを持つ浦和のサッカーがどこまで通用するかという試合になりました。

前節までのようにそううまく試合は進まないだろうと予想した通り、前半に先制を許しますが、逆転して3-1。それも完成度の高い相手に自分達の強みを出して結果につなげた会心の勝利となりました。

メンバーは出場停止の宇賀神に代わって山中がスタメン。それ以外は直近で結果も内容も表現できているメンバーで挑みました。

1巡目になかなか勝ち点を得られなかった上位陣相手に、どこまで浦和は戦えたのか、その内容を振り返っていきます。

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準備と修正、20分の攻防

セレッソの保持の狙いとして、中盤背後から降りてくる清武で局地的に優位を得てボランチに時間とスペースを与えることで、相手のボランチを動かしたり、陣形を収縮させることで大外や中央に決定的な機会を提供することがあります。これは前回対戦でも見られた仕組みですが、浦和は構えた時は2トップが前から行き過ぎないこと、清武が降りて捌く瞬間を長澤を中心にケアすることが相当意識されていたと思います。

その甲斐もあって、例えば清武の落としを受けたボランチを起点に裏への配球を許したり、大きく展開されて大外に時間とスペースを与える、ということは多くの場合防ぐことができていました。

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しかし、別の方法も持っているのがセレッソ。浦和は相手がバックパスをした時には前から行く姿勢を見せましたが、セレッソはこれを逆手に取ることで前進。バックパスへのハイプレスはこれまでの試合でも見せてきたもので、その時におけるバックラインでの数的同数や、ある程度のスペースを空けることに関してはリスクとして許容していますが、セレッソは的確についてきました。

おそらくこの展開を見越してスタメン起用された豊川の裏への抜け出しで取る深さ、その後ろで待つ奧埜との縦の関係性、そのふたつのスペースへ正確にボールを落とすキム・ジンヒョンのフィードは4:00や17:40のシーンで確認できます。

また、6:00のように、降りる清武に合わせるようにポジションを下げた丸橋に橋岡がついていくと、それを使わず裏で豊川に受けさせる狙いも。セレッソがボール保持において一番やりたいことは封鎖できていた浦和でしたが、「そうくるならこれで」という選択を見せるセレッソはやはり上位にいるチームという印象でした。

とはいえ、浦和もずっと押し込まれていたわけではありません。10:20ではルーズボールがエヴェルトンにこぼれると、即座に前につけ、SHの切り替えの早さ、スピードを加えてシュートまで到達。19:30にはバックラインの保持から降りる興梠を起点にして惜しいシーンまでと、「武器は持っているよ」という怖さは見せられていたと思います。

そんな中、セレッソはベンチから指示があったようで、19分に保持の配置を明確に変更。ボランチ1枚をはっきりと最終ラインに落として浦和の2トップに優位を取り、その脇で起点を作ることで裏のスペースを利用することや、起点に対して浦和のボランチを引き出すことで周辺のスペースを空ける、最初の狙いが機能するように修正。

また、ボランチを最終ラインに下げることで足りなくなる中盤には清武が参加することで解消。幅取りはSBが行い、2トップと坂元を加えた3人が中央で間と背後を狙う役割を担いました。

浦和が準備してきた策に対してわずか20分で更なる対策を打ち出してきました。序盤は封鎖していたボランチ周辺ですが、セレッソが配置を変更した直後から立て続けに前進を許します。21:30では浦和から見て左サイドの2トップ脇でデサバトに起点を作られると、豊川に裏抜けを許して決定的なピンチ。22:30でも3枚目の最終ラインになったデサバトから中盤に降りてきた奧埜の中央への落とし、そして補充に入った清武が起点となり大外の坂元に時間とスペースを与える、セレッソの狙い通りの形を作られました。

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その流れの中、局面としては違いましたが先制点を許すことに。浦和としてはお馴染みの、ゴールキックで橋岡の高さを活かすパターンが裏目に出た形でしたが、セレッソは木本をマッチアップさせる配置を取っており、失点シーンに限らず珍しく橋岡が高さで優位を得ることができない試合でもありました。

岩波が目測を誤ってしまったことや、豊川の質が高かったことも事実ですが、セレッソという相手を考えれば、より与えたくない先制点を前半で許してしまいました。

自信と充実が反映された失点直後の振る舞い

先制点を奪われるとほとんど勝てずにいた今季の浦和。直後からパフォーマンスが落ちたり、手詰まりになってしまうことが多かったのですが、今節は直近の充実感を表すかのようにすぐに反転攻勢に出ます。

浦和がまずどこで流れを取り戻しにかかったかというと、やはりトランジション局面でした。失点直後の28:30、まずは長いボールでプレーエリアを相手陣地に設定し、相手にボールを渡してもネガティブ・トランジションで即座にカウンタープレス。

セレッソが失点直前に行っていた、ボール保持の配置に移行する時間を与えずに浦和のプレスが発動すると長澤がボールをカット。発生したポジティブ・トランジションで素早く前に進むと、全体が押し上げてゴール前への侵入とクロスを連発。最後はマルちゃんのヘディングシュートまで持っていき、先制点を与えた後でも「やれるぞ」という雰囲気を見せます。

その後のゴールキックでもハイプレスで前への意識を見せると、31:30も同様に槙野から長いボールで相手陣地でプレーを始め、こぼれ球が片山に渡った瞬間にプレス開始。またしてもセレッソが配置を整える前にプレッシャーをかけて長澤でカットすると興梠・武藤の裏抜け・降りる動きによって一手目の縦パスを引き出し、汰木の完璧なタッチでPK獲得。

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厳しくなりそうな先制点後に、トランジションを中心に即座にリアクションを見せて早い時間で同点に追いついたことは非常にポジティブな事象だったと思います。

ネガトラ準備のビハインドサポート

さらに42:30、浦和は逆転に成功します。ゴールキックから一度やり直しをする際にセレッソはやや前から追い込みをかけますが、西川のロングフィードを前提としてポジションを取っていたマルちゃんと橋岡がこぼれ球を拾うと、サイド深くでマルちゃんが時間を作り全体を押し上げます。

突破を得意とする浦和のサイドには必ず2人以上、ケアに当たらせていたセレッソ。そのことで空く場所は前のポジションから順次人を下げることで穴を埋めていくのがいつものやり方ですが、その結果として空いていたのが後方にいる長澤でした。

そしてクロスを合わせたのは、これも押し上げていたエヴェルトン。跳ね返りが山中にこぼれますが、中央で彼がボールを拾えたということは、ボランチが離れた中央にしっかり立ち、ネガティブ・トランジションの準備ができていた証拠です。そこから放ったシュートは運も味方につけましたが、そこに至る過程はチーム全体と個人がしっかりとやるべき事をやれていたからこその必然でした。

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柏戦後の定例会見で大槻監督から出ていた「ビハインドサポート」という言葉があります。ボールホルダー後方で逃げ場のパスコースであると同時にボールを失った際の守備者としても機能するように立ち位置を取りましょうということですが、柏戦では不十分なシーンで失点を許しました。しかし、今回は個人個人が常に正しい立ち位置を取るという、今季ずっと監督から発信されている要素を実現できていたからこそ生まれた得点でした。

10/16 大槻監督 定例会見 抜粋
(柏戦の失点シーンについてはボールを失う前の対応と失った後の対応があったと思うが、どの辺りに改善すべき点があったと考えているか?)

「ボールを失う前の周囲のボール状況に対してのポジション取り、サイドのオーバーラップのタイミング、それに対して中の選択で判断が遅れてボールを奪われたところはよくなかったところだと思います。
それと同時に、後方の押し上げのところでビハインドサポートのポジションが取られていない、イコール、ボールを奪われた後の対応のところにすぐ入れなかったというところ。」

選手交代の明暗

後半に入ると、川崎に追いつくには勝ち点1すら許されないセレッソがボールを持って攻勢に。再び前からのプレスでスイッチを入れようとした浦和をキム・ジンヒョンを使っていなしたり、2トップ脇にデサバトが流れて起点を作る事で浦和ゴール前にボールを入れる回数が多くなりました。

しかし、前半同様、クリアしかできずに押し込まれ続けているわけではなく、自陣でボールを拾ったあと持ち出して運べるマルちゃんや一旦保持することの安定性もあって時間と陣地を得たり、かわされる場面がありながらも56:20のようにハイプレスが嵌ったらトランジションでシュートまで完結する力を見せられていました。

また、一時期あれほど失点していたクロス対応も、ここ最近の浦和は安定を増しています。原則である逆サイドのSBまでしっかりゴール幅に入ることが徹底されていて、跳ね返せることが多くなってきました。もちろん、前回やられた都倉がいなかったこともあり、64:00のブルーノ・メンデス投入はそういう側面もあったと思います。

ハイプレスで狙いながらかわされても帰陣してセット守備に移行し、クロス対応にも安心感が増した浦和は、安定した試合運び。69:00には立ち位置を取ったビルドアップから、山中のインナーラップでマークの受け渡しを強制させて裏を狙うとスローインを獲得。このタイミングで2トップを交代すると、汰木の個人技でゴール前に進入して交代したレオナルドがファーストプレイでシュート、こぼれをマルちゃんが押し込んで大きな3得点目を獲得。

いきなりゴールという結果に結びついた選手交代でしたが、その効果はこの後、より発揮されます。72:00に3枚替えをしたものの、スタック感が強くなったセレッソを尻目に、健勇はボランチがスライドしたスペースのケア、奪取後の収めによる時間と陣地の回復で効果を発揮。また、ボールを拾った後にクリアしか選択肢がない状況でも、そのボールを収められるレオナルドが同様の働きをすると同時に、セレッソにカウンターの恐怖をチラつかせます。

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押し込まれていも時間と陣地を回復する拠り所や、「カウンターがあるぞ」と武器を見せられるのとそうでないのとでは、押し込まれている意味が違ってきます。それでいて、81:00のシーンが象徴するように、長いボールで一旦プレーエリアを前に設定し、ネガティブ・トランジションで追い込んで長澤やエヴェルトンの強度を活かす方法も最後まで継続。

リーグ2位の完成度を誇り、前回対戦で練度不足を痛感した相手に3-1の勝利を収めました。

まとめ - 自信と立ち返る場所

前節まで、"積み上げ"を内容に反映して結果も得始めていた浦和。同じようなサッカーを志向しているように見えて、トランジションや局面の循環という観点において真逆となるセレッソ相手に、そのトランジションで自分たちの強みを発揮して勝利に繋いだ今節は、明らかにチームが一段階ステップアップした事を示す結果になりました。

ユニットとしての練度も上がってきていて、まずは縦の選択肢を持つこと、それを受けるために降りる選手と裏に抜ける選手の関係性や、強い縦パスを1列後ろの選手に"落とす"ことで安定して前を向くこと、トライアングルやダイヤモンドを作ったり、相手から離れたうえで引きつけてボールを離す立ち位置など、これまでなかなか安定・継続して現れなかったチーム・個人の原則が明確に確認できるようになりました。

試合の内容としては、全ての面でセレッソを上回ったわけではありません。失点したことも事実ですし、非保持局面で危ないシーンを作られたり、保持で多くの決定機を作れたかと問われると手放しで褒められるわけではありません。

それでも、チーム最大の特長であるトランジション勝負に持ち込んでゴールを奪ったこと、押し込まれる時間帯でもクロスを含めて最後はやられないことや、ハイプレスとセット守備の使い分けをしながらカウンターでシュートまで完結することなどに象徴されるように、劣勢に立たされたり、押し込まれている時でも、自分たちの強みで反攻する力が今のチームにはあると証明できた試合でした。

特に失点直後のチームの振る舞いは非常に良かったと思います。これまでの試合では先制されたら厳しい、という雰囲気をチームもスタジアムも纏ってしまっていましたし、実際、結果としてもほぼ絶望的な数字でしたが、今節見せた反応は立ち返る場所とその力を誇示したものでした。

試合後会見で大槻監督が発していた「もっと自信を持てと言っている」というコメントがありましたが、直近の結果や内容から得た手応えで少しずつ自信をつけているチームが、自分たちの強みを発揮する土俵に相手を引きずり込み、逆転勝利を収めたという事実はさらに自信を与えてくれるものだと思います。

チームに植え付けてきた原則が現象として分かりやすく見られるようになったおかげで、スタジアムでの理解も進み、観客も増えて太鼓によるサポートとの相乗効果も感じられるようになってきました。

故に、このタイミングでアウェイ4連戦は少し残念です。また、次節はここの所ずっと続いていた4-4-2との相手からうってかわり、保持で可変システム、非保持では柏戦で少し苦戦が見えた5-4-1気味になる大分が相手です。

幸い、1週間の準備期間が取れるので、自信と強みを得たチームが大分に合わせた対策を表現することを楽しみにしたいと思います。

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