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【レビュー】現出した"積み上げ" - 2020 J1 第22節 柏レイソル vs 浦和レッズ

浦和レッズサポーター間での戦術的な議論活性化のきっかけを目指す、浦和レッズ戦術分析、マッチレビュー。試合後1~3日後にアップされます。今回も読んで頂けること、Twitterで感想・意見をシェアして頂けること、感謝です。ありがとうございます。

この記事でわかること

・原則 - 相手を動かして空く場所を利用する
・トランジションの落とし穴
・希求してきたトランジション・ラッシュの実現
・原則適用の"リアクション"保持
・期待したい継続性と再現性

はじめに

久々に1週間空いて迎えた鳥栖戦で劇的な勝利を収め、4試合ぶりのゴールと結果を拾った浦和。再び3連戦に突入し、ミッドウィークはアウェイ柏戦となりました。

結果は1-1の引き分け。しかし、鳥栖戦で見せた光明をそのままに、人への意識を強く持っている柏の特性もあって浦和はボール保持、トランジション攻撃と内容の濃い試合を展開しました。

多くの方が「良い試合だった」と感じたのではないでしょうか。個人的にも今季のベストゲームと言っても過言ではないと感じました。

その「良かった」が一体どこから来ているのかを理解し、今後の試合で継続性・再現性を確認するためにも、今節の原則通りにプレーできたボール保持、ずっとやりたかったことができたトランジション攻撃を中心に振り返っていきます。

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縦横無尽。相手を利用した保持

開始10秒で決定機を迎えたことが象徴するように、この試合の浦和は今季ずっと取り組んでいた、最終ラインで数的優位を形成して立ち位置を取り、相手の構造上や、相手のリアクションを見て空くスペースを攻略することを何度も実現します。

その裏には、柏が人に対する意識が強いこともありました。しかし、相手の特徴を利用して急所をついていくボール保持は、今季継続的に取り組んできたことです。中3日のアウェイ連戦の中でこれをしっかり表現できたのは非常にポジティブな事象だったと思います。

柏の非保持は4-4-2、場面によっては江坂が下がり目のポジションを取ることもありました。オルンガの貢献はそこまで高くはありませんが、SHが積極的に前に来ること、ボランチもヒシャルジソンを中心に前がかりに人を捕まえに来るような守りでした。

これに対して浦和は、いつも通り2トップに対して優位を得ることからスタート。今節はエヴェルトンが最終ラインに参加する頻度が高かったです。

"3"となった浦和最終ラインに、柏は2トップ+SHがプレスをかけにきます。ここで浦和は、サイドでしっかり幅を取ること、長澤が2トップ背後に入ることや、前線から1枚、主にSHが動く柏のSH周辺やボランチとの間に降ろすことが次の一手。

柏のSBやボランチを引っ張り出すとすかさずその裏、SBの裏や、MF背後にスペースがあることを利用してフィードを入れることで、柏の陣形が再び狭くなる前にゴールまで迫る形を何度も作りました。

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10:30や21:20はその具体例で、エヴェルトンが最終ラインに参加することで槙野が2トップ脇でボールを持つと、幅を取った宇賀神、降りてきた汰木で相手のSBやボランチを前に引き出します。その結果生まれるスペースを狙うのは2トップ。ここへのフィードで前進すると、そこにSHのスピードが加わって素早くゴール前まで持って行きました。

10秒の決定機と合わせて、10:30は興梠に決めて欲しかった場面。前回は中村でしたが、今回はキム・スンギュが立ちはだかりました。

それでも、その後の切り替えも今節の浦和は良質で、この決定機のあとも押し上げたSBやボランチが参加して球際の勝負。失ってもすぐにトランジションに移行し、波状攻撃を浴びせました。

また、最初の立ち位置上、"発射台"となるのは岩波と槙野が多かったですし、前線の役割も降りるSHと前を狙う2トップ、という役割がシーンとしては多かったですが、これも今季の積み上げ通り固定化されていたわけではなく、誰がその役割に収まっても同じような攻撃を行うことができていました。

38:00ではエヴェルトンが"発射台"となり、SB-CB間にランニングした武藤にボールが出てネガティブトランジションからチャンスを作りましたし、41:00は興梠が降りる役をこなした場面もありました。

最序盤に江坂のライン間受けによって前進を許したり、マルちゃんのプレスバックがイマイチでクロスを上げられたりという場面はありましたが、ボール支配率は五分五分ながらも概ね浦和が主導権を握る展開でした。

トランジションの落とし穴

今節の浦和は保持だけでなく、ボールを奪ってからも速く前へという今季やろうとしていることを表現できていました。しかし、その際に前がかりになるため、シュートやゴールエリアまで到達する前に失ってしまうと一気にピンチになります。

うまくいっていたはずの40:00にそんな落とし穴が待っていました。

自陣深くからクリアしたボールを興梠がうまく収めてマルちゃんにボールが渡ると、浦和は一気に加速。FWとSHに加え、エヴェルトンと橋岡もオーバーラップしますが、前線の動きも乏しくマルちゃんがボールをロスト。

直後に発生するネガティブトランジションの局面では、ボールより前に多くの人を割き、マルちゃん周辺のサポートも手薄で一手目の強度を出すことが難しい状態でした。それでも前へ重心をかけた岩波の逆を江坂にとられ、西川もニアを抜かれてしまいました。

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それまでのネガティブトランジションは良く機能しており、11:00や38:00では波状攻撃に繋げたり、すぐに柏を追い込んで回収して攻撃をやり直すことができていただけに、もったいない失点。

保持で相手を動かして速くスペースをアタックし、トランジションも機能していて、うまくいっている感覚もあったかもしれません。「攻守に切れ目なく、相手を休ませないサッカー」を実践できていましたが、その流れで前への比重をかけすぎて次の局面への準備が十分ではない瞬間でした。

連続性のあるトランジション攻撃

前半最後に失点を喫してしまった浦和でしたが、感じていた手応えそのままに後半開始直後は怒涛のトランジション攻撃。46:30に、サイドに追い込んだことで予測を持てた槙野がインターセプトするとそのままカウンターに移行。

48:30ではマルちゃんのカットから大きなサイドチェンジを入れると、SBやボランチも一気に前に進んで汰木がスペースと時間を得るとクロスから武藤の決定機。50:00も前からの規制で予測を持った槙野がオルンガからボールを奪うと、相手の秩序が形成される前にエヴェルトンの惜しいシーンまで。

53:00でも柏のゴールキックを拾った宇賀神から興梠にパスを入れると、長澤へレイオフして前進。そのまま相手が再配置する前にシュートまで持っていきました。宇賀神からパスが入る前に長澤も前に上がって落としを受ける準備ができていましたし、縦・前を意識して全体が動けていました。

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一手目でボールを受ける2トップとその落としをもらう選手、それを見越して前に走る3人目の選手と、速く前にいくこと、前を向かせること、それに呼応して3人目も参加することが良くできていたと思います。

その流れの中、57:00の保持からスローイン、コーナーキックを獲得。ここの保持は少し狭い方で回して詰まりかけますが、割り切った長いボールで前進することができ、今季あまり取れていないコーナーキックから同点に追いつきました。

相手に合わせる"リアクション保持"

前半、手応えのある内容だったボール保持は後半に入っても、その質を継続。柏のSHがプレスをかけて形が変わった瞬間はその裏を利用するなど、パターン化されたボールの運びではなく、「相手のアクションを見てリアクションで空いている場所を利用する」今季の取り組みが良く出ていました。

52:00はその具体例で、2トップに対して"3"を形成して優位を得て前進する流れだけではないことがわかるシーン。クリスティアーノが3枚目の宇賀神を捕まえに、柏ボランチがそれぞれエヴェルトンと長澤を捕まえに前に出た際、興梠が降りることで局地的に数的優位を形成。相手に選択を強いることで前進しました。

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58分の同点ゴールから数分後、柏はシステムを変更。神谷に替えて山下を投入し、非保持を5-4-1気味に変更します。1トップ気味になった柏を見て、浦和はエヴェルトンを必要以上に最終ラインに落とさないやり方に変更。

76:20のようにオルンガの周辺でボールを出し入れすることで相手を引き出して長いボールを送ったり、オルンガ背後でボランチがボールを受け、前を向いて裏へのボールを供給するようになりました。

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前半から、西川が参加した際などは2トップの間や背後に立ち位置を取っていたエヴェルトンですが、長澤とともに、この位置でボールを受けてスペースがある時はターンする意識も上がっていたように思います。

配置を変更した柏はより直線的な攻めとなりました。3バックに加えて三原がビルドアップに参加することで、浦和の2+1のプレスに優位を形成。大外のWBを使うと、中央で構えるオルンガ目掛けてクロスを送ったり、周りで割と自由に動くクリスティアーノと江坂をシンプルに使う場面が増えました。

浦和もそのクロスを跳ね返した後に素早くカウンターに出ますが、相手が3枚のDFを並べていることもあり、時間を追うごとに単発に終わる場面も増え、徐々にボールが行ったり来たりするオープンな展開になり始めました。

しかし、試合後のコメントからもわかるように、勝ち越しゴールを狙ううえでオープン展開は両チームともある程度許容。柏の前線3枚は非常に怖い存在でしたが、槙野を中心に良く守れていました。

レオナルドや健勇を投入し、前線を変更して最後までゴールを目指しますが、不発。勝ち点3に値する試合をしていたと思いますが、1-1の引き分けで試合は終了しました。

まとめ - 具体化したコンセプトと次の課題「再現性」

今節は、これまで本レビューコンテンツでも触れてきていた、今季の取り組み「原則に沿ったプレー」で多くのチャンスを作れていた良い内容だったと思います。

ボール保持に関しては、直近の積み上げで見ると名古屋戦から続いている4-4-2に対する原則の表現ではないでしょうか。4-4-2はバランスよくピッチ上に選手がいるため、そのままの構造上、空くスペースというのはなかなか見つかりません。そのため、最低限の人数で優位を取ったあと、前線が立ち位置を動かすことで相手を動かし、空いたスペースをアタックする狙いがあるのではないでしょうか。

名古屋戦から続く「幅」を取ること、前線が1枚相手の隙間に降りることでアクションを起こさせ、それを見て"リアクション"でボールを運ぶ。柏が人に強く意識が向いていることもありましたが、今節は良く表現できたと思います。

そして、これも連戦後の会見で言及があった、主体性のある非保持守備からトランジションでゴールに迫る形も多分に表現できました。特に後半開始直後から同点ゴールまでの時間帯で見られたトランジションラッシュはまさに今季もっとも目指してきた形ではないでしょうか。

それでも、失点シーンはその勢い余っての結果だったので、反省は必要です。トランジションは2つあり、守→攻のチャンスに過剰に傾倒したあまり、攻→守のネガティブトランジションで隙を見せてしまいました。やはり強力なタレントを要する上位チームは見逃してくれません。

また、個人のレベルでも成長が見られるのは、非常に楽しい要素です。槙野はシーズンが進むにつれて「運ぶ」ドリブルを実践できるようになってきたことは言及してきましたが、今節はさらに左足のフィードが冴え渡っていました。開いた立ち位置を取ってギリギリまで相手を引きつけ、スペースができたらそこに良質なフィードを逆足で供給。守ってもオルンガにほぼ仕事をさせなかいどころか、前線のプレスによる予測をもとにインターセプトをして、そのままポジティブトランジションへ素早く移行してカウンターに参加したりと、頼もしい限りでした。

3年計画のコンセプトや今季の各試合の事象、監督・選手のコメントからシーズンスパンで観察・分析して捉えようとしていた「何をやりたいのか」「何をやろうとしているのか」というチームの概念や方向性、コンセプトから、抽出・具体化されたと思われるシーンを多く観測できた今節は、個人的にはここまでのベストゲームだと思っています。

しかし、忘れてはならないのは、そんな試合を今節見ただけということ。ここから求めらるのは継続性と再現性です。ここから、また逆戻りせずに同じライン上と思える試合を見せられるか。残り2ヶ月となった今季、このまま軌道に乗っていけるかどうかの重要な局面を迎えます。

次節は相性の良い仙台戦、その次は強敵・C大阪戦と続きます。願わくば、シーズンが終わった頃に「あの試合がきっかけだったね」と今節の試合を振り返れていればと思います。

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