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【レビュー】軌道上への復帰 - 2020 J1 第20節 浦和レッズ vs 名古屋グランパス


浦和レッズサポーター間での戦術的な議論活性化のきっかけを目指す、浦和レッズ戦術分析、マッチレビュー。試合後1~3日後にアップされます。(今節は無理でした・・・)今回も読んで頂けること、Twitterで感想・意見をシェアして頂けること、感謝です。ありがとうございます。

この記事でわかること

・回帰 - 原則を適用したボール保持
・2手目 - 運ぶと降りる。ポジショニングの改善
・2手目の課題 - 最適解の選択
・非保持 - 名古屋の個、密集、リスク回避
・個性 - 原則の範疇での柏木

はじめに

2連敗で迎えた過酷な5連戦の締め括りは、前回対戦で2-6の大敗を喫した名古屋との再戦。

メンバーは今季初めてマルちゃんがスタメン。11日で4試合フル出場した柴戸はさすがにベンチ外となりました。名古屋には金崎、マテウス、前田と浦和サポーターの頭が痛くなるような名前が今回もメンバーに。

結果としては0-1の敗戦。しかし、前回対戦時のようにボコボコに殴られたわけではなく、横浜FC戦やFC東京戦から内容は改善したのでは、と感じた方も多かったのではないでしょうか。

今回はその内容面で、前2試合と比較して何が起きていたのかを中心に振り返ります。

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原則へ回帰した保持

FC東京戦、横浜FC戦では今季やってきたことをあまり表現できなかった浦和。その中でビハインドの展開となり、個人に依存して結果を求めるような形になりました。

そうして迎えた今節。名古屋のスタイルもあって、やはり浦和はボール保持を問われる試合となりました。

メンバーの変更もありつつ、大敗を喫した名古屋相手に今季の積み上げである原則、相手の構造上・アクション上空く場所を取って優位を取ることはある程度表現できていたと思います。

名古屋はここ数試合の相手と同様の4-4-2。最初のステップで空く場所はやはり2トップ脇。この場所でスペースと時間を得られるよう、CBに対してプラス1がサポートに入る仕組みは引き続き見られました。

直近では柏木がどの場所でもボールに絡むようなシーンが多く、配置が詰まることがありましたが、今節は今季のチームがトライしてきた原則に立ち返った様子が見て取れました。

具体的には、特定個人を基準にしたパターン化ではなく、2トップに対して優位を取る原則に沿って各選手が立ち位置を取ること。最終ラインで優位を形成するのは、その時々に応じて主にCBとSB、エヴェルトンでした。

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また、FC東京戦では相手のSHが積極的にプレッシャーに来たこともありますが、最終ラインの横の距離の取り方があまり広くなく、角度をつけられずに苦しくなりましたが、今節はしっかり距離を取れていました。

浦和は優位を活かして最終ラインがボールを持つことに成功すると、次のアクションは「運ぶ」と「降りる」。前者は今季最初からトライしてきたことで、槙野を中心に、すぐボールを離すのではなく、"運ぶドリブル"で前進し、優位を前に届けようとします。

後者はこの試合よく見られたアクションで、2トップ脇でボールを持つと、前線から1枚、FWや、SHがインサイドに立ち位置を取っている場合は名古屋のボランチ-SH間周辺に降りてボールを引き出していました。

最終的な狙いは、レイオフ、いわゆるはたいて落とすことで、常に2トップの背後を意識していた長澤に時間とスペースを与える狙いだったと思います。また、降りた選手に対して前線は横移動して距離感を合わせる動きも見られました。

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また、降りる選手が名古屋のSHに影響を与えて陣形を収縮させることで、大外に1on1を作り出す狙いも見えました。今節は大外のポジションを取る選手の立ち位置が改善。なるべく名古屋のMFラインと同じか背後に立つよう修正されていて、16分30秒のシーンでは大槻監督から関根へ高い位置で幅を取るように声が飛んでいます。

大外の位置を取る選手は、こちらも今季の「同一レーンに立たない」原則通り、状況によってSHとSBが入れ替わっていました。とはいえ、ドリブルに強みを持つ選手がSHでしたので、比重はSHに置いていたと思います。

この恩恵を存分に活かしたのが、スタメン出場となったマルちゃん。マッチアップする吉田豊に対して圧倒的な質的優位を発揮し、何度も1on1を制し、決定機を創出。PKは取って欲しかったですし、序盤の興梠のシュートシーンは、ここで得点が入れば試合自体もかなり違う展開になっていたはずですので、決め切りたかった場面でした。

しかし、降りることで相手の陣形に影響を与えて、次の選手に大きな時間とスペースを与えるこの流れは弊害もありました。

それは、今季取り組んでいる「運ぶ」場面でも降りてしまうことでノッキングを起こしてしまうこと。ここ数試合、槙野を中心に改善が見られるこの運びによる前進ですが、運べるスペースがある場合も前線から降りてしまい、結局ボールを渡すだけだったり、運びを見て背後に下がり直すと距離を合わせにきた前線と被ってしまうというシーンも散見されました。

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このあたりは、再開直後からトライしている、前線がMF背後に留まり、後方から楔のパスを通すやり方との共存、つまり場面に応じて最適な選択が求められます。

現状としては最終ラインの時間とスペースの確保、運びに対して全幅の信頼を置けない状態のようで、前線の選択と後方の選択が噛み合わない場面が散見されます。トミーと槙野がCBの時は運べる、刺せる場面が増えてきているので、もう一歩ステップアップできればスムーズさが出てくるのではないでしょうか。結果が出ていないのでプレッシャーは強いかもしれませんが。

試合後のインタビューで、槙野とマルちゃんが揃ってある程度の手応えと、ブレイクスルーがあればもっと安定して勝てるようになるのではという主旨の発言をしています。

これは特定個人を基準としたり、決まった型、パターン化されたプレーの精度を極めていくやり方ではなく、原則という枠をチームで共有してその範疇でプレーする方法を採っている以上、その中で各選手が最適なプレー選択と共有が行えるようになってくれば、という意味なのではないでしょうか。

名古屋の左サイド密集

浦和がボールを持つ展開が長くなりましたが、名古屋の保持について見ていき、失点の要因を探っていきたいと思います。

名古屋はボールを持つと、リスクをかけて攻撃することはせず、主に左サイドから密集と個人技での打開。試合開始直後の3分から金崎、前田が左サイドに密集してポイントを作られるとあわやゴールの場面。

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マルちゃんが1回は守備に参加するのですが、自分の後ろにボールが行ってしあった際の2度目の守備意識はあまり高くなく、その不足から組織がズレて前田をフリーにしてしまいました。

とはいえ、41分30秒のようにロングカウンターから前へ出ていくスプリント、その後のドリブルはマルちゃんの特長で、PKを獲得したと言っても差し支えないでしょう。特徴がはっきりしている選手なので、起用は一長一短です。この試合のトータルで見れば起用はプラスだったのではないでしょうか。

また、前回対戦で完全に質的優位を取られ、これでもかと金崎に起点を作られたトミーですが、今節はアジャストしてそれほど仕事をさせなかったように思います。

前半は浦和のボール保持が長い時間問われたこともありますし、名古屋がそれほどリスクをかけてこないため、序盤以外はそれほど危ないシーンはありませんでした。

それ故に、後半開始直後の失点は浦和にとって重くのしかかりました。前半同様、マテウスが名古屋の左サイドに流れてきて密集を形成。そこから個の力でエヴェルトンを振り切ると、マルちゃんの謎の守備も効果は発揮せず、浦和サポーターにとっては親の顔よりも見たマテウスと金崎にやられる光景がまたも目の前に広がりました。

この試合、やられるとしたら個人の強引な突破やシュートだったのでその通りに失点したことは改善の兆しが見えていた内容からしても痛恨でした。

原則の範疇で輝く柏木

ビハインドになった浦和は、ここ最近の采配パターンである、ボランチ・柏木を実装。しかし、ここ2試合のように全て柏木に預けて何とかしてもらう、という様子はなく、あくまで前半からトライしてきた原則の範疇での振る舞いで、属人や依存ではありませんでした。

あくまで組織のひとり、原則の中のひとつの立ち位置を取ることで、トミーが縦パスを刺す場面も多かったです。72分のシーンは興梠の「降りる」動きが奏功した例でもあり、名古屋のボランチを動かすことでパスコースを開通し、レオのポストからレイオフで前を向いているマルちゃんに落とすことに成功。その後の伊藤で繋がりませんでしたが、良い攻撃でした。

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また、前半に長澤が担っていた2トップの背後にいる役割を柏木が引き継ぐことで、特長を活かせる場面も。73分20秒のシーンでは、トミーから2トップ間を通すパスが入ると、彼にしか出せないパスでチャンスクリエイト。

マルちゃんの降りる動きで吉田を釣り出し、そのスペースを橋岡がアタックしており、全体の配置も良かったと思います。また、槙野によるとチーム内ではボール保持において、後方の役割を「発射台」と呼称してるようです。近くで細かくパスを繋ぐのではない、この柏木のようなプレーのことを指すのではないでしょうか。

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今節は積み上げの過程に戻ってきたものの、結果的にゴールまで結び付けられなかったのも事実。得点を奪うことはできず、トミーの退場もあって無得点。0-1の敗戦を喫しました。

まとめ - 絶対と相対

厳しい日程の5連戦でしたが、1勝4敗。ホーム4試合は全て無得点でした。さらに横浜FC戦の後半あたりから内容に関してもブレがあるのでは、という見方もありました。

今節はそんな中、今季の軌道上に戻ってきた印象で、ある程度「やれるかも」という印象を抱いた方も多かったのではないでしょうか。実際、最終ラインで優位を取って、空いた場所に立ち位置を取った選手が時間とスペースを得ることに関しては今季を通して見ても明らかに進歩が見られます。

その先の「運ぶ」ことに関しては槙野を中心に個人での改善も見られますし、降りる選手だけになってしまっていた前節と比べて、高い位置で幅を取る選手らのポジショニングも改善していたと思います。

今節の試合後のインタビューは槙野とマルちゃんでしたが、受け答えを読むと手応え自体は感じているようで、ポジティブと自己肯定の塊みたいなふたりですがチームとしては上積みを実感しているのだと思います。

ただし、これは過去の自分達と比べた絶対的な感覚で、サッカーに限らずスポーツは相手がいて勝敗がつく相対的なもの。それ故に、このふたつは比例しないため、内容と結果の狭間でどう捉えるかが評価になりますし、プロである以上、結果が出なければ絶対的な進歩は意味を成さなくなります。

上積みの感覚、事象はあれど、結果としては相手を上回ることができない。これをどう捉えるかは、サポーター各々、考えがあると思います。3年計画の1年目、リソースや日程の面から考えても妥当な内容と結果と捉えるか、もう十分に時間は与えたと見るか。

どちらにしろ、日程面で戦術的な練習ができない、というエクスキューズはありますが、今節はあくまで外れていた軌道上に戻ってきただけにすぎないと思います。

個人的には、ここ2試合はあまり納得できるものではなかったので、今季の線の上に帰ってきたことはポジティブに捉えていますし、納得感もあります。結果はついてきていないですが、正直なところ、妥当な順位だとも思っています。(ここの捉え方次第で意見の違いがあるとは思います)

また、ボール保持について求められることが多かった5連戦後半でしたが、鳥栖戦前の定例会見で、大槻監督は以下のように発言しいます。

(ボールを持つ時間が長くなり、最終ラインからボランチまで安定してボールを持てるようになったと思うが、そこから見ていて入るのではないかと思うようなシュートシーンを作る回数を増やしていけるかということになると思う。そこに対してどういうアプローチしたいと考えているか?)
「そもそもの話、ボールをゆったり持って攻める回数が多くならない方がいいと思っています。ボールを安定して持てることは悪いとは思いませんが、そうなる前に攻め切る場面が数多くあった方がいいと思っています。

その中で先に取られるとどうしても相手に引かれてしまうので、そこに対して押し込むような形で言うと、幅をしっかり取ることと、幅を取った上で中に入れたボールからの展開、顔を上げたときにどういう形でボールを裏まで届けるか、ということはランニングがないといけないと思っています。そのランニングのタイミングやスイッチをどうやって入れるかということは大事だなと思っています」

(ボールをゆったり持って攻める展開にならない方がいいということは、ボールの取り方に関わってくるのか?)
「ゆったりでも良いのですが、スペースと人がたくさんあった方がいいと思います。名古屋戦の前半でも中盤から相手のボールを引っ掛けた形や、我々が構えたところから奪った後の1つ目でトップに起点ができて前向きの選手がスペースにボールを入れられる、もしくは1本パスが通ることでスペースに走っていくタイミングが作れた、というようなことができる方がいいと思います。ボールの取り方を含めて、そういう形が多い方がいいとはずっと思っています」

今季の思想や志向、一貫して何を目指してきたかが読み取れると思います。

久々に1週間取れたことで、より今季の軌道上に戻す作業を行っているのではないでしょうか。それは、ボール非保持で主体的に相手を追い込むこと、ボール保持でもゆっくり回して相手に穴を開けるのではなく、空くスペースを使って速く前でプレーすること。そうして発生させたトランジション局面で相手を上回り、ゴールを目指すサッカーです。

軌道上に戻った今節から迎える鳥栖戦。線の上での表現を目指したうえで、チームの上積みという絶対的な感覚が早く結果に繋がることを期待しています。

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