【ネタバレ感想】白昼夢の青写真

 白昼夢の青写真は2020年9月25日に発売された美少女ゲームである。Laplacianという若干クレイジーが入っているブランドの第四作品目で、確か三ヵ月ほど延期している。更に言えば、一作品目も二作品目も三作品目も延期しているので、常連オブ常連なメーカーである。
 基本的にはSFテイストな作品を出しているメーカーでこれまでの作品では積極的な広報や童貞弄り、エゴサの鬼などなど話題には事欠かないメーカーである。一方で、作品に関しては今一歩足りないところがある体験版までは面白いなどなど傑作にはやや届かないといったイメージである。俺は第三作目『未来ラジオと人工鳩』からプレイしているが、センターヒロインのルートでいまいち乗り切れなかった印象がある。
 そんな中で発表された『白昼夢の青写真』はメインヒロイン一人の一本道の異色作である。シナリオ構成についても主人公『海斗』とメインヒロイン『世凪』が見る夢という形でCASE-1~3という別の世界の物語を読み進めていくという形だ。今回は、シナリオ構造を踏まえつつ作品について語りたいと思う。

■物語序盤
 主人公『海斗』が白い部屋で目覚めたところから物語は始まる。アンドロイドの『出雲』から現状、『記憶を失っている』『事実上の軟禁状態であること』、について自分が同意しており『夢を見ること』で『実験データを取っている』ことを伝えられる。『海斗』は『世凪』と共に夢を見ていくことで物語が進行していく。

■CASE-1 波多野凛
 この物語は非常勤講師である有島芳と波多野凛の物語である。元小説家志望であった有島が大学の元同ゼミで有名作家である波多野秋房の告別式でその娘である凛と出会い言葉を重ねていく。というのが大まかなあらすじである。
 この物語で魅力的であったのが、有島が秋房にのめり込んでいく過程の描写や結果的に生じてしまった二人の隔絶であり、凛が時折見せる強い嫉妬心だ。既に45歳の有島の妻である祥子と学生をやっている凛であれば大きな年齢差があるが、にも関わらず激しい嫉妬を見せるのである。祥子の愛など既に別のところにあるのに。彼女のこうした激情は自らの家庭環境に由来しているのだが、既に成熟した大人である有島とまだまだ子供の凛の差がより鮮明に浮かびあがり、凛の女性としての魅力を非常に引き立てていたと思う。
 また、声優である神代岬の快演も個人的には評価したいところである。今作において神代岬はCASE-0~3のヒロイン4人を一人で演じているのだが、それぞれを演じ分けており、その能力の高さが伺える。そして、こと演技に関してだけ言えば、個人的には凛がずば抜けていたように感じた。普段は演技にはそこまで気にしないのだが、少女と女の切り替えは凄まじいの一言だ。
 ここからは完全に好みとなってしまうのだが(つまり、シナリオ構成上仕方ないことは重々理解している)凛の決断に関しては若干好みから外れてしまう展開だった。
 凛は物語終盤において有島の子供を妊娠するのだが、彼女は有島に相談せず、自らの決断で出産を決意する。彼女の心理としては
 1.母親という存在に対しての憎しみ
 2.自己の再生産への恐怖
 3.愛した男の子を宿している
 4.教え子を妊娠させるという有島への醜聞
 の四つが主に挙げられるだろう。いずれにせよ、彼女が自分の意志で選択したことが不満ではあった。あくまでこの物語の主人公は有島であるのだから、そこに彼の意志を介在させてほしかったというのが本音(この辺りはおまけエピソードで描写されるし、構造上仕方ないのだが)である。

■CASE-2 オリヴィア・ベリー
 舞台は16世紀イギリスであり歴史に名を遺す作家ウィリアム・シェイクスピアとオリヴィア・ベリーの物語だ。この物語は何だかんだ非常にお気に入りである。第二作品目である『ニュートンと林檎の樹』についてはプレイしていないのだが、緒乃ワサビ(本作のメインライター)は歴史の再解釈が非常に巧みなのだろうと感じました。『真夏の夜の夢』『ハムレット』『ロミオとジュリエット』と作品の選定も物語への没入度を上げるうえで非常に効果的だったと思います。
 親友を殺された復讐と『ハムレット』、イギリスの法によって引き裂かれる二人と『ロミオとジュリエット』などなど物語と作中劇がリンクしており、その辺りの構成が非常に巧みだった。
 正直、ここに関して言えば、特に文句のつけようがない、というのが正直なところである。おまけシナリオのオリヴィアは正直可愛かった。

■CASE-3 桃ノ内すもも
 飴井カンナと桃ノ内すももの物語である。この作品は第三作目『未来ラジオと人工鳩』の世界を下敷きにしている。この世界においては遠距離無線通信が消滅しているのだが、その設定があまり強調されておらず結果的にこのCASE1~3に共通する別離という部分が軽く感じられてしまう。
 この物語の大筋は、カンナとすもも、スクラップハンター梓姫がカンナの母親が残したスケッチから76年に一度見られるハレー彗星を撮影するために奔走する一夏の物語である。
 俺たちが暮らす現代日本とはまるで異なり、インターネットがなければ電話(電話網があったかないかはちょっと不確定)もない世界で人と出会うことが如何に大変か実感しずらいのである。
 物語はカンナの家のガレージでほぼほぼ展開することもあり、そういった事情が見えづらく悲劇的な別れが理解しずらかった。とはいえ、すももというキャラクターを絡めた掛け合いは魅力にあふれていたと思います。この物語のメイン三人はいわゆるまともな、生真面目な人間ではなく、そうしたはみ出し者たちの更正物語としてもワクワクさせるストーリーであった。
 もう一つ気になった点としては、カンナのベストショットはハレー彗星を眺めるすももであった欲しかったというのがある。物語の構成上、すももの成長の兆しとカンナの成長の兆しが別々に描かれるのは理解できるのであるのだが、CGのことを考えたらそこは欲しかったなぁと思う。
 これはハレー彗星にこだわっていたという未熟さの象徴との決別も込められていたのかなあとは思わざるを得ない。それに加えて、プロの卵としての成長、すももだけではなく、他の人たちでも撮れるという一般化を示唆するものでもあったり?

■CASE-0 世凪
 CASE-1~3をクリアするとCASE-0に自動的に進む。冒頭で描かれていた実験の結果どうなったのかが描かれる。このCASEは主に海斗と世凪の出会いから結ばれていくまでをこの世界の成り立ちやどうやって冒頭に繋がるかに触れつつ描かれていく。
 二人の物語は一抹の危うさを僅かに残しつつ順調に進行していく。それ自体は非常によく出来ており、これまでのストーリーとの兼ね合いもあり、没入感は高い。個人的に気になったのが、不運さが大きく描かれるようになってからである。
 二人にとって大きな不運とは世凪の健忘症である。この作品において語られるのは人格(=個性)は記憶の集積によって構成されるということだ。二人は世界のために、力を合わせていたが、記憶を失うことでこれまでとは違う世凪になってしまい、それを愛することができるのか、変わってしまう自分を許容できるのか、という部分がクローズアップされる。
 いずれにせよ、二人(=正確に言えば海斗)は世界のために犠牲になることを拒否する。それに対して別勢力が強硬手段を取ったのが第二の悲劇であると言える。結果的に世凪は犠牲となった。
 これに関して海斗に対して投げかけられた言葉はいわゆる海斗に関してのブレである。海斗が元々世界を救おうとしたのは、母親に関しての後悔があったからなのであるが、海斗は世凪と世界を天秤にかけ、世凪を選んだことへの批判である。個人的な話をするのであればここでのブレは個人的には問題にしない。物語において間違えないキャラクターというのは得てしてつまらないものであるし、間違えたからこそ正解できる、というのも定番であるからだ。
 個人的に問題に感じたのは、母親に関しての敗北の回収が放棄されている点である。物語終盤で明らかになるのだが、世凪と海斗の母親は基礎欲求欠乏症という病に侵されていることが判明する。この病気は全身の少しずつが動かなくなっていき、最終的には全身動かなくなり死ぬという病だ。
 この病気で母親を失うことが世界を救う動機(=あくまで代替療法に過ぎないもの)になるのだが、最終盤において海斗はそれらを放棄する。
 当初の計画では、世凪を犠牲にして全ての人類が幸せな夢を見ることで基礎欲求欠乏症を解消する時間を稼ぐというものだった。これを海斗は拒否(=基礎欲求欠乏症の解決を諦める)して世凪の夢で眠り、世凪という世界になった少女のことを語り続けることを選択する。
 あくまで個人の好みになるが、海斗は母親を失ったことでの敗北をここで払拭してほしかったと思っている。その上で世凪を救うという完全無欠のハッピーエンドが見たかったという希望だ。
 一方で、一貫し続けた遊馬とブレてしまった海斗、妻を失った遊馬と世凪を取り戻した海斗という対比は美しくはあるので、やはり好みに過ぎないだろう。こうした意識を抱いてしまうのは、海斗が取り戻した世凪は本当に世凪なのだろうか? という疑問があるから。
 あくまで自分の解釈に過ぎないが、海斗が世凪という存在を語ることで夢の中の人々が世凪という存在を認識したことで、世凪という少女が形成されたのだが、他人の解釈が入った世凪を俺は世凪だと思えなかったところがあるのだ。とはいえ、本物の世凪を救う方法など検討もつかないので批判にすらならない好みである。

 結論としては非常によく出来ており、徐々に真実が明らかになる構成はとても面白かったし、CASE-1~3におかるキャラクターを生かしつつ世凪を描いていく手法は良く出来ている。感動ももちろんしたのだが、CASE-0への没入感というか納得感がどことなく薄くなってしまったと思う。まあ、買って損はないのでぜひプレイしてみてくれればうれしい。

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