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【議事録】第4回「東京2020問題の本質」

 7/10の第4回真山ゼミでは「東京2020問題の本質」と題して、東京五輪賛成派と反対派に分かれて議論がなされました。真山先生含め、15人の参加者があり、大変盛況でした。

 今回、7/10は東京五輪前の最後の真山ゼミでした。今回の議論と東京五輪の結果を踏まえて、9月に再度議論したいと思います。

 議事録はゼミ中にKがMIROにて作成してくださいました。note議事録は、MIROをもとにOが編集したものです。

1、7/10の状況

 さて、(9月にこの記事を見ている人は)7/10の状況を忘れていると思いますので、簡単に整理いたします。

 まず、連日、テレビでは東京五輪とコロナの報道がなされており、メディアの論調・世論は「五輪反対」に傾いています。その中で、最近まで、政府は「観客を入れた五輪開催」を目指していました。

 しかし、東京で感染者が急増し、7/8に第4回目緊急事態宣言(7/12〜8/22)の発出が決定。(五輪を開催するなら)首都東京で緊急事態宣言が発出されている中での五輪が確定したことになります。さらに、来日したIOCバッハ会長との協議の末、1都3県の施設について無観客開催とすることが決まりました。(バッハ会長は不満のようですが...)

 なお、最近のグッドニュースは、大リーグのホームラン・ランキングで1位を独走する大谷翔平選手です。7/10も33本目のホームランを打ちました。

2、論点の整理

 今回のゼミでは、賛成派と反対派に分かれて、様々な観点から議論がなされました。まとめるにあたって、Oが独断で議論を大論点として①〜⑥、論点として1~13に整理しました。

<オリンピックのメリット>
①オリンピックの経済効果 →3節(論点1〜3)

②オリンピックの意味→4節(論点4〜5)

<オリンピックのデメリット>

③オリンピックによるコロナ感染拡大→5節(論点6)

<政治のあり方>

④政府の五輪に対する態度→6節(論点7〜9) 

⑤国民の五輪に対する態度→7節(論点10〜12)

⑥国際関係と五輪→8節(論点13) 

===以下、議論の簡単なまとめです===

 なお

<賛成派>・・・東京オリンピック開催賛成派が発言した

<反対派>・・・東京オリンピック開催反対派が発言した

という意味です。

3、オリンピックの経済効果はあるのか?

論点1:中止か開催かで経済効果はどう変わるか

<賛成派>
中止に伴う経済的な損失が大きい。野村総研によれば1.8兆円の損失
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2021/fis/kiuchi/0525
・「国益」を考えると、日本社会に属する国民としてはやるべきでは。
すでに「投資」されたものはサンクコストであり、最終的に赤字にはなるものの、これ以降の収支を考えるべき。すると、いまから決断する上で評価する経済効果はプラスになる。

<反対派>
・経済効果があまり見込めない
コロナの感染拡大を防ぐための取組みを行った方がよほど経済効果がある。

※野村総研によると、緊急事態宣言での経済損失は5兆円

・阪神優勝の経済効果があたったことはない。経済効果の予測は注意深く見るべき

・一度、五輪の経済効果を考えよう。無観客開催ではチケット収益も、観光客のインバウンドも期待できない。日本に入ってくるのは、放映権くらい。果たしてこれは経済効果として十分なのか?

・北京やリオ、ロンドンは一度作ったものを大会後に潰している。つまり、価値は短期間で回収される。しかし、日本はメインスタジアムやプールを潰さないため、建設コストは40年で割ればよい。

論点2:そもそもオリンピックの経済効果は大きい

<賛成派>
・オリンピックの開催は経済的に有効であるので、現在にいたるまで行われてきたのではないか?

<反対派>
国債を発行してカツカツな状態の日本において、オリンピックを開催することは本当に意義があるのか
・オリンピックが最後に成功したのは2008北京。2012ロンドン、2016リオは大失敗。五輪が儲からなくなる中で、今後、ホスト立候補はなくなるのではないかとも言われている。もはや、ギリシアでずっとやればいい

論点3:IOCの損害賠償について

<賛成派>

<反対派>
・キャンセル料。日本が中止にしたからといって、IOCは日本を訴えられるのか?
・世界各国の報道機関は保険で損害をカバーできるのではないか

4、そもそもオリンピックに価値はあるのか?

論点4:オリンピックに価値はあるのか

<賛成派>
・そもそもオリンピックには「国際平和」「国際協調」「スポーツ選手の活躍の場」という価値がある

<反対派>
・そもそも私(=発言者)はオリンピック競技に興味がない
・ところでパラリンピックってどうなってるんだ

オリンピックの金権的構造についても議論されていない。IOCは多額の賄賂で貴族のようだとの批判もある
・IOCは「マイナースポーツを守るためにオリンピックが必要」という。たしかに、マイナースポーツは五輪収入で4年耐えているようだ。しかし、それは本末転倒ではないか。なぜマイナースポーツを救うために大金を払わなくてはいけないのか

論点5:そもそも「東京」オリンピックに価値はあるのか

<賛成派>

<反対派>
・日本はオリンピックを誘致するためにIOCに賄賂を贈った。架空の会社をヨーロッパに作ってIOCに賄賂を贈ったことが一時期取りざたされかけていたが、結局うやむやになった


5、東京五輪でコロナの感染拡大は起こるか?

論点6:五輪でコロナ感染拡大は進むのか

<賛成派>

国内で各種スポーツ競技が開催されていて、クラスターは起きていない
・オリンピックではより厳格にやるからより問題ない
・選手にとっては自国にいるよりむしろ安全ではないのか

<反対派>
専門家は皆「感染が拡大する」と言っている、そのロジックを切り崩せるのか?
・選手は選手村に隔離されている。選手村の中でクラスターが起きる恐れがある。検査して見つけた段階では手遅れ
・オリンピック選手がルールにしたがうとは思えない


6、政府に問題はあったか?

論点7:政府の意思決定する態度はどうか
<賛成>

<反対派>
・政府からは、「やる、やらない」を本気で議論する姿勢が感じられない
・ロックダウンをして、感染者数を減らすくらいのことをすればよかった
・コロナの予測、経済効果もあると思うが、数字に基づいた議論されていないのはおかしい
ダラダラと自粛を求められ、飲食店は苦境に立たされているのに、なぜオリンピックは開催されるのか?


論点8:世論の大半が東京五輪に反対しているのをどうとらえるか 

<賛成派>
・「オリンピック開催すべきしないべき」と「世論」は、一旦、別に考えるべき。

・世論の7割が反対している、とされているが、どこまで7割という数値に重みをもたせるのか。雰囲気に飲まれて判断している人が多いのかもしれない

<反対派>
・コロナ対策はもちろん大切だが、国民感情を置き去りにした議論がなされていることが問題
・国民が置き去りにされている状態での開催には反対

・最終的には多数決が有効とされる中で、現在の日本の社会において多数を占めると思われる反対派の民意が反映されていないのはおかしい。

・産経新聞でさえも五輪反対が半分との世論調査がでている。その中で「国民は反対していない」というのはロジックとして弱い

論点9:なぜ政府は世論が反対の中、開催を強行するのか

<賛成派>

<反対派>
・自民党が世論を気にしないのは、自民党は負けないと信じているため。理由は、野党が複数に分裂しているに加えて、小選挙区制だから。

7、国民に問題はあったか?

論点10:国民の立ち位置は結局どうであったか

<賛成派>

<反対派>

実は国民も興味がない、当事者意識がない
・国民は「消費者」だからの受け身の立場なので、生産者として盛り上がるはずがない
・それに開催されたらされたで盛り上がってしまう
・例えるなら、子どもではないのか(自分らも含めて)

論点11:国民の敵はなにか

<賛成派>

<反対派>
・Twitterでもあまり盛り上がっていない
・検察庁法案改正とは異なり、「反エリート」的な反発ができない
・国民の間に分断ができているため、国民として統一的な意見を持てない
・菅さんは「横綱」に見えないので批判しづらい?

論点12:むしろ、どうすればオリンピックの開催を止められるか?

<賛成派>

<反対派>
・止める権限はどこにあるのだろうか、組織委員会か国か
・過激な行動に出たとしても、自分に不利益が生じるだけなので行動に移せない

差し止め訴訟に効果はあるのか→一旦止められるが、すぐに反論されていたちごっこになり、最終的に決着が出るのは数年後になりそう
・国民の生命が脅かされているとして「違憲」を主張?

東大生なら安田講堂の占拠

・日本は世界各国と比べると感染者数が少ないが、必ずしも感染対策が良いわけではない
⇒外国人が渡日した際に何が起こるのかはわからない

・上野千鶴子、内田樹らが反対署名を集めているが、普段から自民党を評価している人が反対する、という形でないとインパクトがない

8、国際関係をどう考えるべきか?

論点13:国際政治に悪影響はないのだろうか
<賛成派>
・ホスト国が独断で中止を判断してよいものではない。国際社会における開催国としての責任がある。

<反対派>
「G7が応援してくれている」というが、それは建前。日本政府がやるという以上、反対することは外交問題になる。参加国はボイコットできない。ボイコットは東西冷戦のときの現象。外国選手に被害が出た場合、国民感情に悪影響を与え、損賠賠償の請求もあるだろう※1

・そもそも、日本ではワクチンの接種が進んでいない。「やる」方がリスクが高いことは確実な中で、断行することは国際政治的に許容されるのか?

・「安全」な国でないとオリンピックのホストにはなれない。開催を「決めた」ということよりも、ホストとしてのホスピタリティを発揮する大前提としての「安全」を担保しないといけない

9、議論の総括

 見ていだければわかる通り、議論では五輪賛成派は圧倒的な劣勢でした。人数的にも「どちらかといえば反対」という人が多数派を占めていました。

 賛成派は経済効果やオリンピックの価値を積極的に主張できず、コロナ感染リスクについて評価できない時点で負けが確定していました。

 一方で、反対派はパンデミック下でのオリンピック開催に対する反対に加えて、強行的な政府への不信感が反対立場をより強固にしていました。

 議論が後半戦に突入すると、全体として「とは言え、なんだかんだ開催されるんだろうな。」という諦念、「そもそもオリンピックに関心がない」という無関心、「オリンピックが開催されれば盛り上がるのだろうな」という楽観的な予測を共有していることが明らかになりました。

 結果的に「なんのための議論なのか」と脱力感が広まり、議論は低調になったのが印象的でした。

 なお、ゼミ終了後のアンケートを見る限りでは、国際関係に関する論点13の※1の意見を多くの人が興味深いと感じたようです。その他にも、経済効果について興味深く感じた人がいました。

10、個人的な感想

 個人(=O)的に今回における最大の根本問題は、やはり最終的にコロナ感染拡大予測を適切に行えないという不確実性にあると感じました。

 「リスクの存在」は自明ですが、「リスクの量」は明確に計測できません。計測できているのかもしれませんが、すくなくとも国民は「誰が正確に計測しているのか」について判断できません。

 その結果、社会的メリットと社会的コストを考慮し、国益を最大化する最適点を導出できません。導出できない最適点は意思決定に反映しようがなく、交渉力がものを言う均衡点で社会は動きます。国民の大部分が反対する中で五輪が強行されるのが最たる例です。

 一度、最適な意思決定、合意形成の作法、専門家との関わり方を考える必要があるかと思います。

 まあ、最終的に社会で生きていくなら、均衡点の破壊なんて戦う生き方よりも、均衡の中で利己的に処世をしていく方が合理的なんでしょうけどね!

 最後に私の好きな(ホントは嫌いな?)言葉をひとつ。

正義は議論の種になるが、力は非常にはっきりしている。そのため人は正義に力を与えることができなかった。(パスカル『パンセ』)

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12、今後について

 これからも真山ゼミは、重要なテーマについて専攻を超えた大学生の議論の場として活動していきます。8月以降の日程は不明ですが、またやっていきたいと思います。おそらく、9月にもういちと東京オリンピックについて取り上げることになると思います。ぜひこれからもよろしくお願いします。

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