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厄祓い後のハプニング

息子と2人、一時帰国からドイツに戻って来た時のできごと。

舞台は、日本からの長時間フライトで到着したばかりのフランクフルト国際空港、税関。

怪しい荷物も見当たらないのか職員の緊張感も感じられず、列はスムーズに流れていた。日本からの直行便は安心安全、信頼されてるんだろうな。と感心しながら通過しようとすると私だけ(つまり息子も)呼び止められた。えっ、なんで…?

母と幼児1人なのに大きなスーツケース2個が不釣り合いに見えたのか?真相は謎だがとにかく税関に引っかかった。

パンパンに荷物の詰まったスーツケースを泣く泣く開ける。できれば途中で開けたくなかった。閉めるのに一苦労だったから。あんまり荒らさないでねとの願いも通じず、税関職員は無造作に中身を手に取り、確認したり質問してきたり。まあ、それが仕事だから当然だけど。

衣類や食品の他、荷物の大部分は書道セット、算数セット、お道具箱などなど。息子の小学校(日本人学校)入学準備に購入したドイツでは入手困難な物ばかり。ママ友からも頼まれていたため同じ道具が2セットあったり、やたらとかさばっていたけど決して販売目的ではないし健全な物だ。

墨汁をしげしげと眺める職員に食品か?と聞かれ、「食品じゃなくて、えっと…これは日本の書道カリグラフィーに使う道具で、インクって言えばいいのかな…」と説明にしどろもどろになったり、大人買いした自分用の化粧品は商売用ではないことを必死にアピールしたり。

ほぼノーチェックで流れていく人達の中で足止めを食らう母子2人。どうしたって目立つ。同じ便に搭乗していた人達が、横目で私のスーツケースの中身をチラ見しながら通り過ぎて行く。

「この親子、何を持ち込んじゃったんだろう?」とか「ここで引っかかって、ついてない…。」とか思っているはず。私が逆の立場でもきっと見るだろう。周囲の視線が痛い。

別の職員に手荷物も見せるよう促され、バッグを開ける。職員が手にしたビニール袋。それは…!全く怪しくないけど他人に見せる物ではない…成田に前泊した際に着替えた洗濯前の下着類だった。それ、ランドリーだから開けないで…と思ったがもう開けられていた。もうこれ以上見られて恥ずかしい物もない…はずだったが、まだあった。

「これ…何?」

職員がおもむろに手にした物は、神社の御札おふだと神社名が入った木のしゃもじだった。バッグの中から出てくる木の御札としゃもじ。それを掲げて不思議そうに眺めるドイツ税関職員と横に佇む親子。場面が日本だったとしてもシュールだ…。コントみたいな光景に、私がそこを通りがかった日本人だったなら絶対吹き出してると思う。「この人一体何でそんな物を手荷物に⁈」と。

「えっと…宗教的な物で…神様の…うーん、オーナメントっていうのかな…?」

間違ってはいないが何とも胡散うさん臭い説明。曖昧に言葉を探している間に職員が今度は御守りの袋に手をかけている。

「あっ、あっ‼︎それ開けちゃダメ!悪運バッドラックが起こるかも…!」

とこちらが慌てれば相手は入念に調べようとするのは当然で、御守りの中に入っていた紙の包みまで開き始めた。日本人ならそんなことバチが当たりそうでまずしないが、知らない人にとってはただの紙に過ぎない。あっあっ…と思っているうちにためらいもなく剥き出しにされ、怪しくないと判断されたら今度は雑に折り畳まれ、御守りの中に乱暴に突っ込まれた。

神の冒涜だよ…!と言えればよかったがびっくりし過ぎて言えなかった。言葉もわからなかったし。いや、ほんと、そこに、変なドラッグとか入れてませんけど!

なぜそんな物が手荷物に入っていたのか?実は一時帰国中に、厄年ということで同級生数人で神社に行き厄祓いをしてもらった。信心深くなかったので厄年だということも実は知らなかったし、厄祓いという儀式も初めての体験だった。

そこでいただいた御札や木のしゃもじ等一式を滞在していた実家の神棚に保管していたのだがしばらくするとその存在を忘れてしまっていた。…既にこの時点でバチ当たりかも…。

出発直前に母が気づき手渡してくれたが、スーツケースはもう事前に成田に送ってしまった後。こういう物こそ先に預け入れ荷物に入れるべきだったのに。

一瞬、そのまま神棚に置いていこうかとも思ったが、それでは効果ないよね…と仕方なく手荷物で持ち込むことにしたのだ。本来なら手荷物は機内で使う物だけに留めたいのだけど。正直、「お荷物」だなぁ…と感じていたのは確か。それがいけなかったんだろうなぁ…。まあ、厄祓いグッズを持ち歩いていたのはそんなわけだ。

…けっこう綿密に取り調べられ、気がつけば放送で私の名前が何度も呼ばれている。住んでいる街まで直通の航空会社手配のバスを予約していたのだが、他の乗客はもう揃って、あとは私と息子だけを待つ状態なのだろう。外国の空港で連呼される自分の名前。迷子のお知らせみたいで本当に恥ずかしい。

結局、何も没収されず、別室へ連れていかれることもなくやっと解放。不備はないのに荷物をぐちゃぐちゃにされ、時間も取られ、放送で呼び出しされ…。スーツケースがやっぱり閉まらず、焦るあまり半ば強制的に職員に手伝わせて無理やり閉めた。

その後は大荷物と息子ととにかくバス乗り場までダッシュ。バスには間に合ったというか私と息子を待っていてくれたが、乗客はきっと心の中で皆、ああ、あの税関に引っかかってた親子か。と思ってただろうなぁ。

その後無事に帰路に着いたし、面倒なことにならずこうやってネタになっているのだから別に良いけど、あの時税関に呼び止められたのはただの職員の気まぐれだったのか、密輸入している親子にでも見えていたのか…知りたい。厄祓いしたのに…なぁ。








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