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鐘の音の記憶

夏休みの終わりが近づくとき、あなたはどんな気持ちになるだろうか。楽しかった日々が過ぎ去り、待ち受ける新学期の不安と憂鬱が胸を締め付ける。それとも、同じ教室でまた誰かと笑い合えることに、ほのかな期待を抱くのだろうか?でも、考えてみてほしい。もし、あなたがその教室に戻ってきたとき、そこに見知った顔がひとつもなかったら? いや、もっとおそろしいことに、あなた自身のことを誰も覚えていなかったとしたら・・・?

影の始まり

最後の夏休み。目が眩むほど焼き付くような日差しの中、日陰を求めて古びた図書館へふらりと足を運んだ。そこには埃っぽい空気と、古い本の香りが漂っている。ずらりと並ぶ本棚の奥隅に目をやると、そこには少女がひとり佇んでいた。彼女はどこか憂いを帯びた目で本のページをめくっていたが、目を上げるとじっと見つめて言った。

「この図書館に来るのはあなただけじゃない。」

一瞬、何を言っているのか理解できなかった。あなただったらどうだろう? 言葉の意味を探りながらも、どこか心の奥に小さな不安の影が忍び寄るざわつきを感じないだろうか。

蝉の音が鳴り響く夜、気味の悪い夢を見る。薄暗い学校の廊下、無人の教室。そこに閉じ込められ、外からは耳をつんざくようなチャイムの音が響く。黒板には赤いチョークで書かれた言葉。「最後の鐘が鳴る時、すべてが終わる」。その文字を目にした瞬間、思わず小さく声を上げながら飛び起きる。とても不快な目覚めだ。今日から2学期が始まるというのに。

その日から、周りで奇妙なことが起こり始める。日を追うごとに友人たちが次々と姿を消し、クラスメートも誰も彼らのことを覚えていない。まるで彼らは最初から存在しなかったかのように。

消える存在

自分が記憶から消えていくとしたら、それはどれほど恐ろしいことだろう?
ある日、夢で見たのと同じ教室を学校で発見する。こんな場所、現実の学校にもあったっけ・・・?本能で立ち入ってはいけないとうすうす感じつつも、無意識に吸い込まれていく足。そこに入ると、囁き声が聞こえ始める。「忘れられた者たちの声」とでも言うのだろうか?背後に伸びていく影、それは誰のもの・・・?

家に帰ると、家族にさえ存在を忘れられ始めているような兆し。旅行の時に撮ってもらった家族写真の中に姿はない。毎日使っていたはずの歯ブラシも、母の日に描いたはずの絵の中にも、不自然な空白がぽっかりと空いていた。一体何が起こっているんだ?いつからおかしくなったんだ?

手がかりはきっとあの場所だ。無我夢中で家を飛び出し、図書館へと向かう。閉館間際の遅い時間だったからか、たまたま利用者は誰も居なかった。いや、そんなはずはない。本棚の奥におそるおそる近付くと、やはり夢で見覚えのある例の少女が待っていた。目が合った瞬間、「消えゆく者の最後の足跡を辿るしかない」と彼女はつぶやく。そして、その姿が徐々に透明になり始める。

鐘の音が響く度に、夢と現実の区別がつかなくなっていく。世界がいくつもの層に分かれて重なり合い、その裂け目に飲み込まれそうになる。

閉ざされた世界

気づくと同じ一日を繰り返している。あなたもそうなったら、何かが狂っていると感じるだろう?時間が止まっているような感覚、または無限に回り続ける時計。記憶も、感情も、全てが溶けていくようだ。

図書館の鍵をこじ開けて入ると、そこはもう現実の場所ではなくなっている。壁は歪み、棚は迷路のように配置され、少女の声がどこからともなく響く。「終わりは始まりの中にある…」

たまたま手にした古い日記帳は、過去にこの学校で起こった儀式について語っている。恐ろしい儀式、誰もが忘れたがっている真実。生徒たちの失踪は、犠牲ではなく、存在そのものの消失だったのだ。

そして、再び鐘の音が鳴り響く。出口を探しても、全ての道が閉ざされている。逃げ場はない。全てが終わる時が近づいているとでも言うのか?

永遠の終わり

あなたなら、何を感じるだろう?無限に続く回廊を、終わりのない道を、出口のない空間を彷徨い続ける恐怖を。体は薄れていき、足元の影もどんどん淡くなっていく。

きっともうだめなのかもしれない。最後の瞬間、再び少女を見つける。しかし、彼女はもう幽霊のように透けている。「あなたも私たちの一人になるのね」と彼女が囁く時、すべてを理解する。存在は忘れ去られることで終わるのだと。

そして、最後の鐘が鳴る。全ての記憶が、存在が、消え去る。席も空のまま、存在を覚えている者はもういない。


あなたに問いかける。夏休みの終わりが訪れる時、あなたは何を覚えているだろうか。何を忘れてしまうだろうか。もしかしたら、あなた自身が存在しなかったことになるかもしれない。鐘が鳴る時、すべてが終わる・・・それは誰の物語だろう?

おわり

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