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AI、IT、経済指標 ~ 令和元年版 情報通信白書を読んだ

オランダの自治体とITについて、以前や前々回のように調べてみたかったのですが時間がかかりそうなので、「令和元年版 情報通信白書」第一部から興味を引いたところを少し調べてみました。
Kindle版無料ということで昨年ダウンロードしたのですが、そのまま忘れかけていたものを使っています。

※白書中ではICTという語が使われています。
IT :Information Technology
ICT :Information and Communication Technology
通信分野を意識して言葉に出すかの違いくらいで、ほぼ同じ意味です。
※以下記載の「白書」の語は、全て情報通信白書を指します。


[AIによる労働生産性向上効果]
白書では、AIによる労働生産性向上効果について、アクセンチュアによる分析が取り上げられています。AIにより「日本では2035年にベースライン比で34%向上するとしている」と書かれています。もとになった文献によると、ここでいうベースラインとはAIが浸透しなかった場合の向上予測で、粗付加価値(GVA)*を予測した数字です。

AIの雇用に対する影響については諸説ありますが、白書中の記載でこの予測に関係するのではないか、と思ったのは「我が国においては、ルーティン業務は機械にではなく非正規雇用に代替された可能性が指摘されている」*17という記載です。

ここでいう機械は、「ICTが機械を含むあらゆるモノの価値を下げることにより、ルーティンタスクの機械化が進む」という文脈でのものです。
脚注では、ICTの進歩により人間を雇うより機械にやらせた方が安くつくようになったいう旨の注釈があるのですが、一方で「日本では、ICTの活用はさほど進んでおらず、ルーチン業務も比較的多い」とも記載があります。

そこで、直接的な経済合理性以外で経済活動に影響する要素を考えたのですが、最近流行のものだと働き方改革があると思いましたので、古いですが、働き方改革の影響を受けていない状況を表しているということで、内閣府のワーク・ライフ・バランスに関する意識調査(H21)を見てみました。

長時間労働なほどポジティブに評価されると考えている割合が、ネガティブに評価されるという回答より多かったりします。
また、今でも「マクロ ずる」で検索してみると、マクロで業務を自動化=「ルーティンタスクを機械化」することに関していろいろネガティブな反応を受けた話、それも比較的新しいものが出てきたりします。
価値観や文化が経済活動に与える影響の統計や文献で面白そうなものが見つかったときにはそこから調べてみたいと思います。

元の話題に戻って、アクセンチュアによる分析では、AIが浸透することによるベースライン比での向上割合はアメリカ35%、オランダ25%だそうです。
アクセンチュア本家にあったベースライン予測とともに表にしてみました。
なお、一人当たり労働生産性は、日本生産性本部の調査研究から引用しています。

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既に日本よりも人が機械に代わっていっている国と、そこまででもない日本、その傾向がAIでももし続いたらどうなるか。日本だけベースラインの数値を使って比較してみると、ある会社の予測よればどうなるのかを、イメージできるところもあるかもしれません。

*GVA+生産品にかかる税-補助金=GDP であり、GVAは概ねGDPと同じとして説明しているサイトもあるようです。

*17 これは、岩田氏山本氏岩本氏の文献にあるものとのことです。


[ITはGDPで測れるか?]
もう一つ興味深かったのは、ソロー・パラドックスです。
白書に記載されたことを抜粋して要約するとこのようなことです。

ソロー・パラドックスというのは「情報化が進んでも、生産性の向上が実現しないという逆説」のこと。
ノーベル経済学賞受賞者のソローが 1987年の書評コメント中に書いたもので、日本では観察されなかった事象である。1990年代になると、情報化投資は生産性向上に寄与する、という研究結果が相次ぐようになったものの、2008年のリーマンショック以降、先進国のGDPが伸び悩んだ状態になっており、ソロー・パラドックスが表れているのではないか、という声が上がっている。

このような考えがある一方、GDPではデジタル経済の計測はできないのではないかという、いくつかの論点が紹介されています。
・無償サービスはGDPに反映されるのか
 検索・地図・動画配信などいろいろ無償のものがあり、それらは直接には使用者からの対価を得ていない
・シェアリングエコノミーはGDPに反映されるのか
 フリマなど、仲介の規模・価値はモノやサービスを提供するB2B、B2Cとは異なるものであり、従来の統計では補足できない。


【雑感】 
ITの影響は、直接的な産業活動にとどまらなくなっているように思っています。
Googleの進める情報の民主化のようなものだと、これまで情報に触れられなかった人が、若年層や制度的な教育の恩恵を受けられなかった人も含め、「無償の」検索エンジンや動画配信、およびハイパーテキストそのものなどによって多くの情報や知識・技術、それも初歩のものから大学相当かそれ以上のものまでを得られます。その人たちが経済活動を始め、ビジネスの中で一定の立場や規模を得るようになったとき、どのような変化が表れるでしょうか。

過去には普通であったような、持たざるものが働いて元手を作ったり借金しながら、あるいは小さなことからこつこつと起業するスタイルではなく、最初から億単位の資金でビジネスを始められるスタイル、しかも破壊的なイノベーションをもたらすことすら期待されているスタートアップ環境などとの相乗効果を考えると、マクロな視点で経済の傾向を長期にとらえようとしたときに、いきなり特異点が現れることが今より見られるようになるかもしれません。
先の、「シェアリングエコノミーはGDPに反映されるか」も、これまでのB2B、B2Cの枠組みの中でふるまわないという意味で特異性のあるものが、無視できない規模になってきたということのようにも思います。

この白書には、ほかにも気になる記載があったのですが、次回?に譲ります。

【小ネタ】
[新興国・途上国(と思われていた)国でのIT活用]
「ファクトフルネス」という書籍によると、統計やデータ上、後進国という概念は過去のものになってきているそうですし、マスメディアなどでも、先進国だと思われていなかった国の先進事例が紹介されることが増えてきているかと思います。
この白書でも「リープフロッグ」として紹介されているものがあります

先進国で既存の仕組みや制度などとの軋轢のために普及が遅れているものであっても、既存のしがらみのない所で先進国を飛び超えて一気に先進の技術やインフラが普及している事例があり、そのような、かつての先行者を飛び越えて発展することを「リープフロッグ型の発展」と呼ぶそうです。

具体的には以下が挙げられていました、

例1)ケニアのモバイルバンキング
銀行口座が普及していないために、口座がなくても携帯電話からSNSで送金できるM-Pesaというサービスが提供されているそうです。(白書平成26年度版にすでに記載されたもののようです)

例2)ルワンダのドローンによる医薬品等配送サービス
携帯電話のメッセージ機能で注文すると、時速120Kmで遠隔操縦のドローンが飛来して、注文した医薬品や輸血用血液のコンテナを投下して去っていくそうです。
注文から配達に平均約30分、1日約50フライト。米国のスタートアップZiplineによる2016年開始のサービスだそうです。

例3)インドの生体認証身分証明
戸籍や個人識別制度が確立していないという背景がある中、指紋や虹彩などを身分証明サービスAadhaarに登録しておくと、Aadhaarの登録証明書と指紋認証だけで、決済や本人確認ができるそうです。SDKやAPIもあって、決済や医療などのアプリやサービスに使われており、普及率は2018年時点で12億人、人口の約90%なのだそうです。日本電気による提供だそうです。

今回はここまで
(2020/1/25)

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アジャイルやDevOpsのことを考えさせられることが個人的に最近多くなっています。また、彼我の差については思わぬところでも耳にするようになってきています。そこで、データや英語文献などをいろいろ当たってみたいと思っています。