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広く浅い関係

翻訳の仕事を始めた当初、仕事に熱中するあまり、平日の昼間は翻訳会社で働き、平日夜と週末はずっと翻訳をしていました。まだ20代後半で、今考えると信じられないほど長時間集中して働けました。

翻訳会社は5年で卒業してフリーランスになりました。フリーランスになると極端に人に会う事がなくなりました。たまにテレビ局や制作会社などの現場で働くこともありましたが、基本はテレワークです。テレワークなんて言葉がない頃から自宅が職場でした。通訳と違って翻訳は孤独な職業ですが、私にはそれが合っていたように思います。

会ったり話したりするのはクライアントか翻訳者仲間のみ。当時は仕事のプライオリティが断然高く、友達からの誘いはほぼ断っていました。当時はお酒もほとんど飲みませんでしたし、友達は減る一方でした。

翻訳を始めて10年ほど経ったある日、前職の上司が連れて行ってくれた恵比寿のバーで、シバジムの柴田陽子さんのプチ講演を聞く機会がありました。当時からイケてる女性経営者だった柴田さんの話を間近で聴ける会だったので、自分と同年代の女性たちがたくさん聴きに来ていました。そこで名刺交換をした女性がとてもまめな方で、その後もそのバー出会った女性たちと定期的に会うようになりました。

その女子会はどんどんメンバーが増え、一時期は数十人になったこともありましたが、現在は10人前後の同世代のコアメンバーで集まっています。出会った時は、まさか10年来の友人になる事になろうとは思いもしませんでしたが、今ではメンバーのことを心配し合ったり、互助会のような会になりました。

彼女たちは普通に翻訳の仕事をしていたら、出会うことのないような人たちです。大手企業にお勤めのエリート、バリバリの外資営業、金融関係、士業など、職業はそれぞれバラバラで、この利害関係のなさが心地良い関係の秘訣です。みんなの話を聞くのは毎回楽しくて、世の中にはいろんな人生があるものだ、と社会勉強をさせてもらっています。

若い時は仕事ばかりしていて友達がいないのがコンプレックスでした。それは自分の中に友達とは狭く深く付き合うものだという先入観があったからだと思います。

この素敵な女性たちと付き合ってきて、広く浅い関係も悪くないと思えるようになりました。こんな時代におかしな話ですが、リアルで何度も会ったことがあって、自分のことを知ってくれている人がいるというだけでありがたいと思うのです。

今は彼女たちを友達と呼ぶことに抵抗はありませんし、これからも一緒に年をとっていくのだろうな、という予感があります。人と人との関係は面白いですね。

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