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「書くための文章読本」

たまたま見つけて読み始めた本が、翻訳者にも役に立つ内容だったので紹介します。巧い文章とは何かが言語化されている本で、冒頭を試し読みできるのでまずは読んでみてください。

読みたくなりましたか? 今日取り上げるのは、第三節の「主体性から見た文章技法」にあった文章の視点について書かれた箇所。日本人なら誰もが知る川端康成の「雪国」の冒頭は、

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。

川端康成「雪国」

ですが、この文章の視点はどこにあるでしょう? と著者は問いかけます。

正解は「この文章だけでは分かりません」です。でも先を読み進めていくと主人公の島村の視点であることが分かります。映像でいえば、主人公のPOVカットです。

「雪国」を英訳したのはエドワード・ジョージ・サイデンステッカー氏で
この書き出しは以下のように訳されたそうです。

The train came out of the long tunnel into the snow country.

”Snow Country”

視点、変わってもうてるやん!

そう、カメラは列車が出てくるトンネルの出口を狙っています。

これにはれっきとした理由がありまして、英語は主語をはっきりと立てざるを得ず、その主語が汽車なのか島村なのかを明らかにしなくてはならないため、視点を変えるという方法を取ったのでした。

ちなみにこの話、どこかで読んだなと思ったら「翻訳のレッスン」のP162にも書いてありました。

尚、サイデンステッカー氏は、敬語を駆使して主語を省いたことで有名なあの「源氏物語」を英訳した方なのだとか。何という偉業でしょうか。サイデンステッカー氏をググってみたらこんなステキな記事も見つけましたよ。

上記の記事にもあるように、日英翻訳は頭のいい人(あるいは勘が鋭い人)しかできないよなあ、と思うことがあります。その理由の1つは日本語ではあいまいにされがちな主語が何かを言い当てる必要があるからで。たとえば抽象的な話をしている日本人アーティストのインタビューなどは、(編集の具合にもよりますが)日本人の私でも言わんとしていることがよう分からん…ということがあるのですが、翻訳者はきちんと文脈をくみ取って、ピシッと主語を決めて訳してくださるので、感嘆してしまいます。

ちなみに「翻訳のレッスン」も翻訳者の必読書だと思います。あの深井先生が著書の1人ですので、皆さん1人1冊、購入してくださいね!ww

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