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ドラマシナリオ「失踪者」

登場人物
天地雅美(34)東都新聞社会部記者
西郷健吾(40)雅美の上司
田村幸一(70)息子が行方不明の父親
山口梨花(14)中学二年生
糸川恵子(45)家裁調査官
柴山 薫(34)雅美の元恋人で失踪した記者

○ 新宿駅東口・アルタ前
   にぎわう駅前広場。
   待ち合わせの若者。足早に通り過ぎるビジネスマン。
   座り込むホームレス。
   山口梨花(14)が携帯電話をいじりながら、
   大型スクリーンを見ている。 

○アパート「椿荘」外観
   老朽化した二階建て木造アパート。
   古びた「椿荘」とかかれた看板。
   
○同・田村家
   外階段を登る天地雅美(34)。
   昼でも暗い中廊下。
   「田村幸一」と書かれた表札の前で、立ち止まる雅美。
雅美「すみません。東都新聞の天地です」
   ドアがあき、田村幸一(70)が顔を出す。
田村「なんだ、また、来たのか。もう話すことなんかないのに」
   田村がドアを閉めようとする。
   雅美、ドアを足で押さえて
雅美「ちょとだけ。お話しても、ね。」
   人懐っこい雅美の笑顔。

○ 同・田村家・中
   六畳一間の部屋。座っている田村と雅美。
雅美「まだ、警察は動いてくれないんですか」
田村「ああ、事件性がないんだってよ。もう、あきらめるしかない。あんたの新聞に載ったって、今さら、どうなるもんでもなし」
雅美「でも、息子さんは借金を返すために外国船でイラクに行くって言っていたんでしょう。それなのに、それから八年もなんの連絡もない」
田村「だが、そういっても、誰も信じてくれなかった。
息子は失踪したんだと。失踪しなきゃならない事情があったんだろうって。確かに、こんな俺の暮らしをぶりをみたら」
雅美「いいえ、これはただの失踪事件じゃない、裏には何かがある。
私はそう思っていますよ。」
田村「そんなこと言われたって、俺には皆目見当もつかない」
   力なく微笑む田村を見つめる雅美。

○東都新聞社・外観
   「東都新聞社」のプレート。

○同・社会部
   あわただしく記者が動き回っている。
   部屋の中央に西郷健吾(40)と雅美。
   西郷の机の上に「社会部デスク」のプレート。
   記事のゲラを読んでいる西郷。
西郷「だめだ。これじゃ、格差社会を考えるっていう特集の
論点がボケてくる」
雅美「でも、この記事がでることで、真実にせまれたら」
西郷「いいか。格差社会ってテーマが、なぜ反響が大きいって思う。
明日はわが身だからさ。確かに失踪と貧困には関連はあるだろう。
だが、自分とは関係ないと思ってしまう話は興味はひかない」
   不満そうな雅美の顔。
西郷「俺たちはマスコミなんだ。俺たちが相手にしているのは
社会であって事件じゃない。特集記事には子どもの貧困問題に
ついてのネタをもってこい」
   雅美にゲラをつきかえす西郷。
   ため息をつく雅美。

○東京家庭裁判所
   「東京家庭裁判所」のプレート。

○同・廊下
   雅美と糸川恵子(45)と並んで歩いている
雅美「家庭裁判所の調査官からみて、子ども
の非行の問題と貧困問題がどう絡んできているか。
現場からの声として取り上げていきたいんです」
恵子「そう、言われましても、何分デリケートな部分のある
問題ですから、細かな内容は広報を通していただかないと」
二人の反対側から梨花が歩いてくる。
   梨花、小走りで恵子に近づき、
梨花「先生、あれ、なんで、このひと?」
   恵子、あわてて梨花をさえぎりながら、
恵子「さあ、なんでもないの。早く部屋に戻って。
 それじゃ、わたしは、ここで失礼します」
   恵子、梨花の手を引っ張りながら、立ち去る。
   梨花、振り返り面白がって雅美に目配せをする。
   梨花、恵子の腕にぶら下がるようにして
梨花「マスコミの人ってさ、なんで、私は記
者ですって一目でわかるような格好してんのかな。
あのお姉さん、新聞社、それともテレビ局?」
恵子「そんなことはいいの。それより、これからの目標は書き終わったの。来週から、学校にもどるんだから、ちゃんとして」
   恵子と梨花が面談室に入っていく。
   その後姿を見ている雅美。

○ 東都新聞社・社会部(夜)
   パソコンに向かい、記事を書いている雅美。
   記事の題名は、「孤独な子どもたち」とある。
        ×  ×  ×
   西郷、雅美にゲラを差し出す。
西郷「よし、OKだ。校正にまわせ」
   雅美急いで立ち去る。
西郷、雅美の後ろ姿を見送りながら、つぶやく。
西郷「失踪者か…柴山もどうしてんだか・・・」
   考え込む西郷の顔。

○ 雅美のマンション・外観(夜)
   新しい賃貸マンション
○ 同・雅美の部屋
   雅美が、ベットに倒れこむ。雅美、大きく伸びをしながら、
雅美「あー、疲れた」
   雅美、ベットサイドにある写真たてを手に取る。
   雅美と柴山薫の写真である。
雅美「必ず、探し出してみせるわ。もう少しで…」
   雅美、写真をそっと抱きしめる。
     ×   ×    ×
   ベットで眠り込んでいる雅美の顔に朝日がさす。
   携帯電話が鳴る。眠気眼で電話に出る雅美。
雅美「はい、東都新聞の天地です」
西郷の声「なにやってんだ!火事だぞ。
お前が取材してたアパートが燃えてるぞ」
雅美「えっ、ど、どうして!」
   思わず飛び起きる雅美。

○ 椿荘・全景
   炎に包まれる椿荘。消防車と救急車の
   サイレンで騒然としている。
   野次馬の群れの中に梨花の姿がある。
   そこに駆けつける雅美。警察に規制さ
   れ、近づくことができない。
雅美「(警官にむかって)田中さん、田中幸一さんはどうなりましたか」
   むなしく押し返され、呆然とする雅美。
   野次馬の中に、梨花の姿を見つける雅美。
   思わず、梨花に近づく雅美。
雅美「あ、あなたは、確か・・・」
梨花「あれ、遅いわね。マスコミの癖に」
   不適な笑みを浮かべる梨花。
梨花「友達から、メールきたの。火事だって。
 でも、ほとんど、終わっちゃった」
雅美「そんなふうに面白がるもんじゃないわ」
梨花「へー、一番面白がって、大騒ぎするのはマスコミじゃない。」
   むっとする雅美。挑戦的な梨花の顔。
   雅美の携帯電話が鳴る。
西郷の声「死傷者はどうなった?お前の取材してたじいさんはどうした?
 がん首、持ってるなら、すぐ送れ」
雅美「そんな、まだ、確認はとれていません!」
   沈痛な表情で電話を切る雅美。
   少年少女たちが、携帯電話で、火事現場の写真を取っている。
   その中に梨花の姿もある。雅美、思い直したように、
   取材陣のなかに飛び込んでいく。

○ 椿荘・全景
   焼け落ちた椿荘。
   ブルーシートで覆われ、立ち入り禁止のテープが張られて
   いる。その前で、花を手向けて、手を合わせている雅美。
   その様子を見ている梨花が近づいてくる。
雅美「こんなとこにいていいの。学校は?」
梨花「まだ、学校にいっちゃダメなんだ。わたし、悪い子だからさ。もう、いいよって言われるまでいけないんだ」
   さびしそうな梨花に、はっとする雅美。
   雅美、梨花に名刺を渡して、
雅美「あなたの話が聞きたいの。気が向いたら電話ちょうだい」
   にっこり笑って立ち去る雅美。
梨花「なにさ、かっこつけちゃって」
   雅美の後姿が見えなくなるまで見送る梨花。
   そこに、タクシーが止まり、柴山薫(34)が降りてくる。
梨花「へー、イケメンじゃん」
携帯電話を取り出し、こっそりシャッターを切る梨花。梨花に気づく柴山。
柴山「ご近所さんかな?」
梨花「まあね。おじさんは誰?」
柴山「この花も、ご近所さんがそなえたの?」
梨花「違う、それは、今、この人が持ってきた、新聞記者だってさ」 
   雅美の名刺を差し出す梨花。その名刺を見て、驚く柴山の顔。

                 つづく

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