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不惑の韓流女優シリーズ⑫チョン・ユミ~映画マニアのアイドルの破壊力~

韓国では、映画を中心に、活躍していたので、日本の韓流ファンにはあまり馴染みがなく、チョン・ユミと聞くと「トンイ」などに出ていた同姓同名の女優さんのほうと間違われることも多かったくらいです。
しかし、韓国では、こちらのチョン・ユミのほうがずっと有名で、いわゆる映画マニアにとっては、それこそアイドル的な存在だったそうです。
チョン・ユミ  1983年生まれ 

でも、これが、映画マニアとか映画オタクと呼ばれる人たちが好きなアイドルタイプの女優と思ったら大間違いで、メジャーな韓流ドラマに、ちょっと出演しただけでも、このチョン・ユミの破壊力が凄いことがわかります。
前回のnote記事「主役がくわれそうになった韓国ドラマ3作品」を書きながら、つくづくそう思い知らされました。

何度も比較してなんですが、「キム秘書はなぜそうか?」では、大衆路線の韓流ドラマの代表的ヒロイン女優であるパク・ミニョンであっても、チョン・ユミの前では、まるで強力な恋のライバルが出現したかのように、顔色をなくしてしまうのがリアルすぎました。

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パク・ミニョンがなぜそうなったかというと、チョン・ユミが、その作りこんでいない自然な美しさと、各種映画賞の華々しい受賞歴が証明する演技力で、主人公のパク・ソジュンにいくらでも合わせられる女優だからだと思います。
これが、1回きりの友情出演だから、良かったものの、出番が長くなればなるほど、その魅力を発揮するチョン・ユミですから、下手したら危うく、パク・ソジュンとベストカップルといわれてしまうところだったでしょう。

チョン・ユミは、映画マニアのアイドルでありながら、魔性の魅力も併せ持つ、これからますます注目される女優だと思います。

チョン・ユミは、韓国の社会現象にもなったベストセラー小説「82年生まれ、キム・ジヨン」が映画化されて、主演をつとめました。
この映画により、「大鐘賞映画祭」で主演女優賞を受賞しています。

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Kポップアイドルが、この原作の小説を読んだと、SNSにアップしただけで、バッシングにあったくらいですから、映画化すれば、当然物議をかもすといわれた「フェミニズム映画」です。
にもかかわらず、誰に訴えたいのか(もちろん一般大衆にですが)ターゲットを明白にして、大向こうを巻き込んだ商業映画にしてしまう戦略と戦術が韓国映画の凄いところだと思いました。

そのために、まず、主役にチョン・ユミを持ってきたところ、その目の付け所に脱帽です。
もし、これが、チョン・ユミでなかったなら、「フェミニズム」に興味のない人たち、また「フェミニスト」と聞いただけで拒絶反応を示する人たちも一定数いるわけで、果たしてその人たちの話題にのぼったでしょうか。
しかし、ちょっとオタク気質もある映画マニアにとっては、自分たちの女神であるチョン・ユミが出るとあっては、これは観ないわけにはいきません。そのあたりの映画マニアの心情を上手く利用して、フェミニズム支持層以外の観客を取り込んでいるわけです。

加えて、夫役は、あのコン・ユですから、どうしたってそれは話題にのぼります。しかも、コン・ユがカッコよすぎて、あんないい夫がいたら、テーマがぼやけるんじゃないのという声もあったくらいでしたが、あえて、この夫役をコン・ユが演じることで、フェミニズムは男は敵だって言ってるわけではないこと証明してみせているのです。

そして、そのうえで、原作の意図がぼやけないように、このコン・ユの演じる夫を、家事を手伝うったって、子どもをお風呂にいれるくらいで、料理をするようなシーンもなく、妻を愛しているけど、現実的にはあまり頼りにならないどこにでもいる男性として描いているところが凄いと思いました。
また、コン・ユも、あの尋常じゃなくカッコ良かったトッケビとはうってかわって、普通の男をサラッと演じているのですが、オレ様感がどこにもなくて、女性に反感を持たせないところもとさすがだなと思わされました。

この映画「82年生まれ、キム・ジヨン」は、その意味で、フェミニズム啓蒙映画でありながらも、多くの観客を取り込むことに成功したのです。
チョン・ユミ演じるキム・ジヨンのどうしようもない悲しみとそれに負けまいとする健気さがきわだつ迫真の演技でしたが、精神的に追い詰められて、病に侵されながらも、どこか清々しいところがあって、それが救いと希望となっています。

しかし、それとは、全く逆の視点から、女性を描いた映画にもチョン・ユミは出演しています。それが「ソニはご機嫌ななめ」です。
ここで、チョン・ユミは、映画監督を目指す?内向的だが、頭がよく、うちに野望を秘めているものの、今一歩踏み出すにはどうしたらいいかわからなくて、イライラしているソニを演じています。

ソニは、男性から見たら、ちょっと小憎らしいけど、とにかくかわいい、いい子なわけですが、彼女自身は「わたしはいい子なんかじゃない」とイラついているわけで、そんなソニに振り回される男たちを描いています。
ソニに夢中な男たちの、結局、ソニは何を考えているのかわからない、だけど、もうほおってもおけないという自己矛盾を描いています。
監督は、ホン・サンスですから、もちろん、フェミニズム映画ではありませんが、小悪魔的なソニのイライラは、実はキム・ジヨンに通じているのだという見方もできるとても面白い映画です。

ユ・アインも、パク・ソジュンも、そして、コン・ユからも、「大好きな女優」「理想の女性」と賛辞が向けられているモテモテのチョン・ユミ。
でも、そんな彼女が、案外、韓国フェミニズム映画の旗手となる日が来るのかもしれません。これからの活躍に期待したいです。



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