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スーパーマーケットで食品ロスが簡単には減らせない理由を期待値計算から解説します

まだ食べられるのに捨てられる食品を指す「食品ロス」は、日本の最新の統計で年間570万トン発生しています。
そのうち約11%を占めるのが、スーパーマーケット・コンビニなどの食品小売業におけるロスです。期限が近い食品、売れ残った食品が廃棄されることで発生しています。

スーパーマーケットでは様々な商品が扱われていますが、そのなかでもロス率が高いのが「惣菜」です。
ここでは、惣菜を例に、販売する小売企業・お店の視点になって食品ロス(廃棄)がなかなか減らせない理由を解説します。

多くの小売企業の皆さんのお話を聞くなかで共通していたのが「食品ロスは当然減らしたい。」「一方で、チャンスロスが怖い。品切れを防ぎたい。」という心理です。

実は、廃棄ロスをゼロにすることは簡単です。明日から、惣菜の作る量を減らす。絶対に売り切れる数しか作らない、と決めるだけです。
現実にはそう簡単にはいかない理由が、前述のチャンスロスの概念です。

数字で考えるとわかりやすいので、ごく単純化したモデルを考えます。
あるスーパーマーケットで、1日に惣菜が売れる個数を誤差範囲±10%で予想できるとします。例えば、50 ±10%個、つまり「今日は45個〜55個売れるだろう」という状態で1日が始まります。
このとき、あなたが責任者なら、惣菜をいくつ作りますか?

この惣菜の単価が1個300円。
作る量の選択肢が、45個、50個、55個の3択。
売れる量の可能性が、45個、50個、55個の3パターンだと仮定すると、それぞれの場合の売上・廃棄ロス・チャンスロスの金額は次の表のとおりになります。

それぞれの可能性における売上・廃棄ロス・チャンスロスの金額

ここでの廃棄ロスは、売れ残る個数 ✕ 単価のこと。
チャンスロスは、本来なら売れたはずだが品切れしていたことで売り損なった個数 ✕ 単価のことです。

当たり前ですが、作る量と売れる量がぴたりと合致した場合がBESTです。廃棄ロスもチャンスロスも発生しません。ただ、毎日そのように当てることは困難で、必ず上振れや下振れが発生します。

単純化して、売れる量の3パターンが1/3ずつ等しい可能性で発生するとした場合の期待値(ここでは3パターンの平均)を計算したのが次の表です。

作る量を45, 50, 55個にした場合の期待値

表の通り、期待できる売上が最も大きくなるのは、「廃棄ロスの発生可能性も最も大きい」55個作る選択肢です。チャンスロスの観点からもベストなので、どうしても多く作ることに気持ちが引っ張られることが想像できるかと思います。

これが、食品ロス(廃棄)を最小化する選択を小売企業がなかなか簡単には選べない理由です。

結果的に、「売れそうな範囲の中で少し多めに作る」「売れ行きが悪ければ値引きして売れ残りを減らす」ことが合理的になり、
「閉店間際に値引きシールが多く貼られた惣菜売り場」を私たちがよく見かけることに繋がっていると言えます。

改善への動き

もちろん、すべての小売企業がこの状態を良しとしているわけではありません。

多く作ることは「売上重視」「品切れ(チャンスロス)回避重視」の方針においての最善であり、これは従来の業界文化としては一般的でした。
しかし、品切れを許容し、廃棄ロスをなくすことに方針を切り替える企業も現れています。

また、売上ではなく「粗利高」で見ることでも、先ほどの表において50個作る選択肢がベストに変わります。(多く作ると原価も余分にかかるため。)

食品ロス問題への意識が高まり、「品切れ回避」から「廃棄ロス回避」へと重心を置く企業が増えること。

「サステナビリティの観点でベスト」だけでなく、「経済合理性の観点でベスト」も両立できるような仕組みが普及すること。

この2つが食品小売業における食品ロスを減らしていくために重要だと考えています。


自社の話になりますが、ハルモニアは東芝テック社とも協業しながら、こうしたソリューションの実現と普及に取り組んでいます。

(実はハルモニアという社名も、この「サステナビリティと経済合理性を調和させること」に由来しています。)

お読みいただきありがとうございました。今回は非常に単純化したモデルで表しているため、実際とは異なる部分もあるかと思います。ご質問・ご相談などがあればお気軽にTwitter等でご連絡ください。


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