ヒーロー映画「プラットフォーム/プラットフォーム2」ネタバレ考察。腕を奪われる理由 解説。
ドン・キホーテは二度死ぬ。
ドン・キホーテのイメージって「変なオッサン」で終わりがちだけど、
この17世紀スペインの小説はちょっと複雑だ。※1
スペインが貧困に向かい階級社会が崩れ始めた中で、問題を放置する人々に対し、アロンソ・キハーノは「ドン・キホーテ」という騎士を名乗り、理不尽に立ち向かおうとする。
でも、彼が頼るのは過去の貴族的な騎士道精神。
結局、彼の行動は市民には迷惑で、富裕層には笑い者にされた。
理想の騎士は現実に殺され、正気に戻ったアロンソは自らの愚かな夢を悔やみ死んでいった。
この小説の悲しい所は、
理想に固執する事が破滅的な結末を迎える所だ。
問題の立ち向かったのが狂ったオッサンだけな所。
プラットフォームが現代の問題をテーマにしてるのは分かる。
じゃあその中で登場人物はどの様に生きてるのかって話。
麻酔が効くメカニズムは分からない。
でも使ってる。
僕らは生まれた時から使われてるモノに疑問を持たない。
穴のルールもそう。
詳しいことは分からないが皆 従ってる。
トリマガシの口癖は「明らかだ」。何が明らかは言わない。
長年、穴に人を送ってきたイモイリは「この穴のことを何も知らなかった」と言う。全層の数も間違ってた。
続編では半年で出れると言うルールも嘘とわかる。
決まってる事に奴隷の様に従う。
登場人物が自発的に何かをする事はほぼない。
例えば、トリマガシがゴレンの肉を斬る時には「上の人間がそうさせるんだ」と言う。
ゴレンがトリマガシを殺した時も「お前のせいだ」と幽霊に言い訳する。
誰かに指示される事も多い。
イモイリの肉を食うか食わないかで幽霊が「生きる為に食え」としつこく諭してくる。
続編では「恐怖政治」有名なロベスピエールの名で呼ばれた男はルールにうるさい。※2
目を失ったダギン・バビも「法を解釈するな。従え」とルールに盲目的である事を求める。
現実に寄せて言うと、
資本主義の格差を仕方がないで済まし、共産主義の暴走もルールだからと従う。鋼の錬金術師風に言うと「思考停止」ってやつ。
子豚は決まった乳首だけ吸う。
ハガレン作者の別作品「銀の匙」で、
子豚たちが乳のたくさん出る乳首を取り合い、
格付けが終わると他が空いていても、子豚は出にくい乳首で飲み続けるシーンがある。
映画でも「48層は恵まれている」とか「24層なのは幸運」と諭してくる。
現状に甘んじて不公平や不条理に抗わない。
決まった状況に逆らっても疲れるだけ。「明らかだ」。
そんな事はバカしかしない。
だからゴレンとバハラトは「俺たち最高のバカだ」と言い、不公正なシステムに立ち向かう。
続編でもそうだ。
そんな彼らはドン・キホーテに似てる。
ゴレンは穴に小説を持っていくし。
続編の主人公ペレンプアンは不条理なルールに逆らい腕を失う。
これはドン・キホーテの作者セルバンテスが腕を失っている事に由来する。
要は主人公たちはあの世界でドン・キホーテの役割を担ってるって事だ。
じゃあ彼らは他人に迷惑をかけ、理想も実現できずに死んでいくのか?
事実、主人公たちに殺される奴らは少なくとも穴のルールには従ってるから殺される筋合いはない。
何の為にドン・キホーテになるのか?
「だから、世界に人の心の光を見みせなけりゃならないんだろッ」
「逆襲のシャア」ってガンダム映画のセリフ。
地球を救う為に一人で小惑星を押し返そうとするアムロに感化されて、敵味方問わず協力し始める。
その姿にシャアは「この暖かさを持った人間が地球さえ破壊するんだ」と嘆く。
で、さっきのセリフをアムロが返す。
当然ロボットで押し返したりできない。本人もできると思ってやってない。
けど戦争中に、つまり地獄で、善意や理想を行動で示さないと人は失望したままだ。
じゃあ、誰に向けて光を見せてるのか?子供だ。
プラットフォームでは子供が何人も出てくる。
最下層にいるのは被害者いつも子供って事なんだろう。
もう一つ子供と似た存在が出てくる。
ダウン症の男だ。
ダウン症の精神年齢は9歳前後と言われてる。
要は純粋だって言える。
他の映画でもその純粋さに付け込まれる。※3
彼は続編で「寝てる振りしていろいろ学んでる」と言い、そこで聞いた事を彼なりに理解し適応しようとする。
一作目に出てきた時はすっかり弱肉強食のルールを理解してて、
「どうせ死ぬから先に殺し、腹を裂いて食べ物をもらう」なんて言ってる。つまり、彼は穴の住人を見てそうなった。穴には光がないから。
だからドン・キホーテが必要なんだけど、問題は誰がすんのって話。
ダチョウ倶楽部システム
「じゃあ俺がやる」「どうぞ、どうぞ」でひどい目あっても芸人ならおいしいですむ。でも現実はそうはいかない。誰も損したくないし、死にたくない。
監督はインタビューでこんなことを言った。
「この映画は社会的な自己批判をしています」
他のインタビューでは
「リーダーは責任を取らせるべきですが、リーダーにだけ責任を負わせて
自分たちが何もしないのでは何も変わりません」とも言った。
要は個人が自発的に行動を起こせって話。
だからこの穴は「VSC 自己管理垂直センター」って名前になってる。
その他にも
「神に良心を求めるな」「自発的連帯感が生まれる」みたいなセリフが出てくる。
ゴラムが脅して食べ物の分配をさせた事をイモイリは「クソみたいな連帯感」と言うのは恐怖で従わせてるから、自発的じゃないから。
事実、前日譚の続編での「恐怖政治」は失敗してる。
だから自らの意思で問題に立ち向かわないといけない。
でもその多くは徒労で終わるのは間違いない。
最下層のさらに下いる人たちは理想に死んだ人たちと言ってもいい。
ドン・キホーテが人に笑われたように、
彼らの死は、はたから見れば哀れで滑稽だ。でもはたから見てていいのか?
この映画原題はスペイン語で「穴」だけど、英語圏と日本では「プラットフォーム」だ。
僕達は地球ってプラットフォームに住んでる。だから僕達にとって他人事ではない。
監督は「この映画はどんな影響を与えたと思いますか?」って質問に
「それは私たち全員に問うべき事です」と答えた。
子供という未来に向かって現代の僕達が犠牲を払う必要がある。
それは勇気のいる事だけど、子供が犠牲になる社会がいいとは思えない。
僕の感想よりも南アフリカの元大統領ネルソンマンデラの言葉を借りておしまいします。
「子どもたちを気にかけない国や社会など論外です」
備忘録
※1
ドン・キホーテは騎士道物語を読み過ぎて気が狂ったアロンソ・キハーノという下級貴族の妄想の産物。
当時のスペインは黄金期が終わり、衰退し続けた。貴族も教会も現状維持に努め、結局スペインはこれ以降、歴史の覇者として返り咲く事はなかった。
※2
ロベスピエールはフランス革命後、疑心暗鬼から死刑を乱発。
市民は互いを監視し合い、告発し合う風潮が生まれ、社会全体に深い不信感が蔓延した。だからダウン症の男は彼女らを告発する。
※3
「母なる照明」って韓国映画。
気になる、わかんない所
ゴランが誰かとセックスする夢を見ていた。その意味が分かんない。
ラムサス二世に舐められて起きる。
ラムサス二世は別名オディマンディアス、最高のファラオ。
権力を絶対化し、神になろうとした。
権力集中が、人から自由を奪い、批判や反対意見を許さず建築事業で、民衆は貧しくなっていく。一方で王族と神官は土地の所有が拡大し、農奴が増えたという説がある。
なのでラムサス二世は格差の代名詞って言える。なので殺された。
太った男が嘘ばかりついてた理由は?
最後の言葉が子供に向けられている。未来志向。
料理はそのまま食べ物って考えてもいいし、地球の資源って考えてもいい。
地獄の階層化はダンテの「神曲」が元ネタかもしんない。
魂の浄化で上に上がっていく神曲と自分は落ちていくのが対照的だなと思った。