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高飛車映画「アメリカンフィクション」 ネタバレ考察 ギャグ解説

彼女が欲しくて「恋空」読んだ

中学の頃、隣の席の女子に「めっちゃ感動する」と言われて『恋空』というケータイ小説を読んだ。
それをきっかけに仲良くなって彼女ができるかもと興奮していた事を覚えてる。そんなことはなかった。

内容は恋人が死んで悲しいって話。モテない僕には苦痛だった。
数年後に付き合っていた彼女も昔『恋空』読んでいたと知り、小バカにして険悪になりフラれた。
『恋空』は彼女を作るどころか奪い去り苦痛だけを与えた。
そのせいで割と長いことケータイ小説を嫌った。文学の事知ってる風な口調でジャンル自体と読んでる人をけなしてた。

人は手軽がお好き

ゲーセンよりスマホ。
太宰治よりラノベ。
人は面倒く難しいものより楽で簡単ものが好き。
僕もそうだ。
でも理解してるフリはしたい。「っぽく」見せたいのだ。
映画「ゲットアウト」で黒人の彼氏が白人の彼女の実家にあいさつに行くと彼女の父親から唐突に「オバマの三期目があれば投票する」と言われる。
黒人の彼氏を歓迎する事とオバマを支持する事は関係がない。
でもそう言うと「私は黒人を差別しない良い白人です」とアピールできる。
こういう偽善的な行為を映画では「白人の免罪符」と呼んだ。
それをバカにするために書いたのが「ファック」だけど皮肉は誰も気付かなかった。モンクは憤るけど金が要るから売ってしまう。
人種をネタに金を稼ぐ。モンクにとってそれは「現代の奴隷」と感じる。

最強の敵は最愛の友に等しい…

バガボンドの伊藤一刀斎のセリフ。
批評家はさわりしか読まずに判断する。
そんな彼らだから「ファック」の中身の無さに気付かない。
でもモンクが嫌うシンタラだけが気付く。

モンクはシンタラの作品と「ファック」の違いについて尋ねる。
「ファック」はパクってるから中身がない。
シンタラのは実際にあった話。中身はある。
でも結局、白人の免罪符に使われる点で同じだ。
シンタラはそれを理解したうえで売る。
「黒人の私が人種問題を扱って何が悪いの?」
これに対してモンクは明確な反論を出せない。
そもそも自分は嘘の話で金を稼いでしまっている。
迎合して商業的である事が芸術性を台無しにするわけではないけど、
なんとなくモヤモヤする。
このモヤモヤはなんなのか?

智に働けば角が立つ

情に棹させば流される意地を通せば窮屈だとかくに、人の世は住みにくい。
夏目漱石の「草枕」の言葉。
とにかく生きづらいって事。
智というのはこの場合、芸術性と考える。難しすぎると人は無視する。
長々と映画を騙ればウザがられる。
「映画オタク」検索するとサジェストの最上位が「ウザい」だ。

情は「迎合」って考える。
この映画ではその権化としてタイラーペリーが槍玉に挙げられる。
タイラーは俳優で映画監督。
彼の映画は「最低」を競うラズベリー賞の常連である。
彼の「マディアおばさんシリーズ」は商業的には成功してるけど本人が女装してバカな事するコメディなので映画オタクや黒人、LGBTQから嫌われている。

意地を通せば面倒くさがられて業界から干される。
日本だと黒澤明が晩年干された。
映画でもモンクは書けてない。エージェントにも「文芸活動には付き合わないぞ」とうんざりされる。
このジレンマがモヤモヤさせるんだ。
ずっとそんな精神状態だと気が変なる。
実際、原作ではモンクは不安定になっていくらしい。
どうすればいいんだろう?

兎はさみしいと死ぬ

嘘。ストレスに弱いので構いすぎると兎は死ぬ。
でも人間は死ぬ。父は孤独にまけて自殺した。
天才は孤独だと母に言われる。
自覚はない。でも孤独は感じてる。
家政婦のロレーヌは結婚式にゲイの兄を温かく迎え入れる。
何とも言えない表情をするモンク。
「自分はここまで器は広くない」と思う一方で、
「マイノリティに優しい私」っていう免罪符を手に入れようとしてると思ってる可能性もある。
一言で言えばモンクは高飛車だ。
自分だって人種ネタで金を稼いだくせに他人がそれをすると怒る。
監督のコード・ジェファーソンはインタビューでこの映画のラストについて
モンクが小バカにした人々は、彼が母の介護費の為に迎合したように遠い昔からある慣習に従って譲歩しただけと気付いたんだ」と答えた。
だれしも少なからず迎合してる。
いじめや差別を非難する人が若いころ一度もいじめを見て見ぬふりをしなかったのか?
ケータイ小説をバカにする僕は一度もポルノを観た事がないのか?
いいや、きっといるだろうし、僕は観ている。
最後、おそらく幽霊役であろう黒人俳優とアイコンタクトをする。
俳優は「俺も頑張ってるよ」とサインする。
モンクは頷く。
これからも免罪符のような作品は売られる。なのに差別はなくならない。
完璧は望めない。だから少しだけ全てのゴミに譲歩しよう。

備忘録

不謹慎ギャグ1
姉リサのなぞなぞはロー対ウェイド(Roe v. Wade)事件の話。
ボートからバスまでどうやって行くかと言う話置き換えて
Row(漕ぐ)かWade(水中を歩く)っていうダジャレにした。
事件の内容は中絶の禁止は違憲かどうかの裁判。
違憲とされ中絶は権利として認められた。
リサは「ボストン家族計画」という産婦人科っぽいところで働いてる。

不謹慎ギャグ2
殺戮のプランテーション
ライアン・レイノルズが黒人の幽霊に首を斬られて死ぬ。
ライアンはある農場で結婚式を挙げた。そこは昔、黒人の虐殺が行われたところで非難された。
詳しい経緯は知らないけど最終的にライアン夫婦は謝罪した。
ラストのワイリーはその映画を撮影してる。

アジア人差別。
ラストのシーンでワイリーがアシスタントっぽいアジア人をいじめる。
黒人の差別は大騒ぎになるけどアジア人差別は話題にならないっていう現実。
モンクも差別はしないが特段ワイリーを咎めない。
要はモンク=いい人と言うわけではない。




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