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映画「オッペンハイマー」ネタバレ考察 リンゴ解説

フリーレンは1%のギャンブラー

アニメ化されたマンガ「葬送のフリーレン」
主人公のフリーレンは魔導書収集家。
宝箱開け何度もミミック罠に引っかかる。
魔法で罠か宝かがほぼ分かるのに罠でも開ける。
弟子に「99%罠なのになぜ開けるの?」と尋ねられる。
フリーレンは「残り1%を見破った魔法使いが歴史的な発見をするから」と答える。
その後、結局罠にかかる。
1%の可能性を信じる魔法使いフリーレンは、0.1%の可能性に恐怖するオッペンハイマーに似てる。

禁断の果実

オッペンハイマーが毒を注入した青りんご。原作では噂話扱いのエピソードを映画では印象的にした事で揉めた。
なぜわざわざこの話をこんな風にしたのか?
映画におけるリンゴは聖書の「知恵の実」として登場することがある。
アダムとイブがヘビにそそのかされてその実を食べ、善悪や恥を知り神を疑うようになり二人は楽園から追放される。
この映画では知恵の部分がフォーカスされる。
その実を食べれば知識が得られる。ただし毒入り事だ。
得られる知識は核技術。毒は世界の破滅を意味する。
オッペンハイマーの夢の中で馬がかじり、人間もかじる。
破滅は「大気の連鎖爆発」として物語は進む。
ほぼゼロだけど世界を爆発させる可能性を持つ。
妻のキティに「成功ならシーツを入れろ」と言うのは世界が破滅するならシーツをしまう必要も暇もないから。
幸い大気の連鎖爆発は起こらなかった。核実験は成功した、ようにみえる。
科学者同士の賭けは「大気の爆発」起れば、家賃一か月分と言うブラックジョーク。それを失敗と読んだ。成功の反対は失敗だし何も間違っていない。
成功と失敗の二択。この映画は二択、複数の視点がやたら登場する。

コインの表の逆は裏と呼ぶ

オッペンハイマーは色んな芸術を好むけど、アップになるのはピカソの絵。
あの独特さは「キュビズム」と呼ばれる。例えば、右からみた宝箱と上から見た宝箱を同時に絵の中に描いちゃうみたいな話。多角的な視点を同居させる。
異なるものが同時に存在するって話はみんな大好き「シュレディンガーの猫」に似てる。
ニールス・ボーアの「コペンハーゲン解釈」はその元ネタと言える。アインシュタインの「神はサイコロを振らない」はその反論のセリフ。

僕がここで言いたいのは成功には別の失敗が存在するって事だ。
大気の連鎖爆発は起こらなかったから核実験は成功した。
その成功には別の破滅が含まれていた。それにオッペンハイマーは気付けなかった。
彼は人類に核の炎を与えた。人類はそれを奪い、争い始めた。奪った理由は嫉妬だ。

嫉妬の連鎖が世界を焼く

人類の嫉妬はストローズの視点で語られる。オッペンハイマーとストローズの二つの視点が映画内で交互に映される。
「二匹のサソリ」の話でオッペンハイマーは全世界による核シェアを訴える。みんなで一つの爆弾を持てば誰も使わないから。
でもそれは人類の嫉妬が許さない。
あの国だけ核兵器を開発したのが気に食わないから自分も作る。
「ワタシを殺せるオマエをワタシは殺せる」これが世界で連鎖していく。
映画は雨の落ちる水溜まりにいくつもできる波紋をオッペンハイマー見つめるところから始まる。これは世界中の核軍拡競争を眺めてるって言える。
核実験が成功したから嫉妬の連鎖が起こった。
嫉妬の炎を燃やすって言ったりする。英語でも「焼きもちを焼く」は「Burn with jealousy」って言う。
核の火は嫉妬の炎に生み出した。その炎でオッペンハイマーは焼かれる。その炎は連鎖して世界を焼く。
「人は手に入れた武器を使わずにはいられない」
プロメテウスが人を愛するあまり人の愚かさに気付けなかったように、
オッペンハイマーも祖国を愛するあまり愚かさには気付けなかった。
嫉妬の連鎖で核兵器は作られ、手にしたら人はそれを使う。
1%に賭けるフリーレンはいつかその1%を引き当てるはずだ。
それと同じく0.1%の破滅もいつか引いてしまう。
もうシーツを入れる必要はない。

備忘録

プロメテウスは神に罰せられる。 
オッペンハイマーは人に罰せられる。
何度も「これは裁判じゃない」と言われるのはアメリカの裁判ではまず聖書に誓う。特に裁判官は。神の代理として裁くという意味があるそうだ。
つまり裁判ではないから人が神を罰し火を奪える。

トルーマン「誰も原爆を作った人を恨まない。落とした私を恨む」
これも火を奪う関連のセリフ。
もしオッペンハイマーの伝記映画じゃなくトルーマンの伝記映画なら日本でピりつく事無く公開されたと思うのは僕だけだろうか?
だれもトルーマンと原爆を結び付けてない。
日本での反感がトルーマンの思い上がりの証明だと思う。

アダムとイブをそそのかしたのヘビ。
「科学によって突然、石の下からヘビが出る」
原作にはこんなセリフなかった気がする。
だから僕はリンゴを知恵の木の実の隠喩だと思った。
つまり科学者=ヘビだって話。

気になるアイテム

ピカソの青い絵のタイトルは「Femme assise aux bras croisés」で「腕を組んで座る女」って意味。
TSエリオット「荒野」作者が精神疾患の女と結婚したら自分も病んでしまい休養中に書いた詩。その妻は薬の過剰摂取で死ぬ。
「春の祭典」太陽の神にいけにえを捧げるという内容の曲。
オッペンハイマーは芸術を愛した。プロメテウスは科学と芸術の創始者で知性の守護者とも考えられている。原作は「アメリカン・プロメテウス」ってタイトル。

ニコラ中佐も大佐に嫉妬してる?クリーニング頼まれてムッとする。

オッペンハイマーが「所有は盗み」とズレた言い方をするのは後に人が「核を所有する」から。

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