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坂道グループのコード進行


今回の部員日記は、経済学部1年の松川雄大が担当させていただきます。



2月23日に、乃木坂46による『9th YEAR BIRTHDAY LIVE』がオンラインにて行われました。乃木坂46とは、2011年に秋元康のプロデュースによって誕生したアイドルグループで、その楽曲は2017年に『インフルエンサー』、2018年に『シンクロニシティ』が日本レコード大賞の大賞に選出されるなど、世の中からの評価や認知も高いグループです。

そんな乃木坂46ですが、他にも”坂道グループ”としてまとめられる姉妹グループが存在します。それが、櫻坂46(欅坂46)日向坂46です。個人的に日頃から乃木坂46や欅坂46の曲を聴くことが多いのですが、その中でそれぞれの坂道グループの楽曲がどのように異っているのか、グループごとに特徴が存在するのかということが気になっていました。

それを解決するにあたり、曲において最も重要であり華ともいえる【サビ】に登場するコード進行を読み解くことで、その傾向や偏りが見えてくるのではないかと考えたので、今回の部員日記では、乃木坂欅坂日向坂の楽曲のサビ部分のコード進行から、それぞれのグループの傾向や特徴などがどんなものなのかということを、分析してみたいと思います。

最後までお付き合いいただけると嬉しいです。





◯はじめに


ピックアップする曲は、乃木坂46・欅坂/櫻坂46・日向坂46の全シングル表題曲(42曲)です。

J-popにおけるコード進行には、三大コード進行と呼ばれるものがあり、それぞれ「カノン進行(Ⅰ-Ⅴ-Ⅵ系)」「王道進行(Ⅳ-Ⅴ系)」「小室進行(Ⅵ-Ⅳ系)」といいます。

カノン進行は、クラシック由来のコード進行のなかで最もポップスに採用されていて、このコード進行にはそのクラシカルな響きの中に、落ち着きや優雅さ・上品さなどがみられます。そのため曲もメロディアスでバラード的なものに多く採用されていたりします。

王道進行は、日本で王道と呼ばれるほど多く使われています。根音であるⅠを経由せずに進行していくため、丁度良い不安定さや爽やかさ、また緊張感・程よい切なさを持たせてくれるといった要素があります。

小室進行は、小室哲哉さんが好んで多用したことからこの名がついた進行で、マイナーコードから始まるといった、通常の「安定→不安定」サイクルの逆の進行を繰り返し、マイナー調という暗いメロディの中から、重さや力強さといった要素も持たせてくれます。




●乃木坂46


まず乃木坂46についてです。2021年3月現在までで表題曲は26曲あります。そこに配信限定シングルを二曲追加して、計28曲をピックアップします。


1.『ぐるぐるカーテン』……カノン進行

2.『おいでシャンプー』……1230進行

3.『走れ!Bicycle』……王道進行

4.『制服のマネキン』……4563(王道)進行

5.『君の名は希望』……レリビ(カノン)進行

6.『ガールズルール』……1144進行

7.『バレッタ』……2634進行

8.『気づいたら片思い』……2536進行

9.『夏のFree&Easy』……15762進行

10.『何度目の青空か?』……カノン進行

11.『命は美しい』……小室進行

12.『太陽ノック』……カノン進行

13.『今、話したい誰かがいる』……1166進行

14.『ハルジオンが咲く頃』……レリビ(カノン)進行

15.『裸足でSummer』……レリビ(カノン)進行

16.『サヨナラの意味』……1456進行

17.『インフルエンサー』……6251進行

18.『逃げ水』……4156進行

19.『いつかできるから今日できる』……レリビ(カノン)進行

20.『シンクロニシティ』……カノン進行

21.『ジコチューで行こう!』……カノン進行

22.『帰り道は遠回りしたくなる』……4516(王道)進行

23.『Sing Out!』……カノン進行

24.『夜明けまで強がらなくてもいい』……小室進行

25.『しあわせの保護色』……1541進行

配信『世界中の隣人よ』……1565進行

配信『Route246』……小室進行

26.『僕は僕を好きになる』……2255進行



デビュー曲で、しかもサビが頭から流れる曲『ぐるぐるカーテン』のサビをカノン進行からスタートさせた乃木坂46は、この結果を見てもわかる通り、カノン進行の割合が3分の1以上と、かなり大きく占めていることが分かります。また3rdシングル『走れ!Bicycle』で王道進行、そして11thシングル『命は美しい』において小室進行をサビに用いたところで、三大コード進行をコンプリートしています。11枚目になるまで小室進行が使われなかったことは、かなり偏向的に感じます。そして、特に10枚目以降はカノン進行を中心に三大コード進行が多く用いられるようになります。

一般的にカノン進行は落ち着きや可憐さなどをもたらしてくれますが、それが乃木坂46の清楚なイメージに繋がっている、もしくはそのイメージを支えるためにも多くの楽曲のサビでカノン進行が登場するという、表裏一体の関係ではないかと感じました。

ですが最近の楽曲、例えば2020年以降にリリースされたシングルには、サビにカノン進行は用いられておらず、1541・1565・小室・2255進行がそれぞれ(『しあわせの保護色』・『世界中の隣人よ』・『Route246』・『僕は僕を好きになる』)に登場します。根音(Ⅰ)が初めに来るコードで非常に安定している進行なので、このご時世に合わせているのかななどとも思ったりします。(特に医療従事者の方々への感謝の気持ちが込められた楽曲、『世界中の隣人よ』ではそうだと感じます)

カノン進行を多用せずいろいろなコードをサビに登場させる時代が、2020年を皮切りに来ているかもしれません。次の楽曲あたりはカノン進行が使われるのではと多少の期待もしています。



●欅坂46


つぎに欅坂46についてです。2021年3月現在までで表題曲は8曲あります。そこに配信限定シングルを一曲追加して、計9曲をピックアップします。


1.『サイレントマジョリティー』……小室進行

2.『世界には愛しかない』……カノン進行

3.『二人セゾン』……王道進行

4.『不協和音』……6045(小室)進行

5.『風に吹かれても』……6256(小室)進行

6.『ガラスを割れ!』……4165進行

7.『アンビバレント』……6154(小室)進行

8.『黒い羊』……4563(王道)進行

配信『誰がその鐘を鳴らすのか?』……6415(小室)進行



デビュー曲『サイレントマジョリティー』はYouTubeで再生回数1.5億回を超える大ヒットシングルですが、そのサビのコード進行は小室進行でした。2ndシングル『世界には愛しかない』でカノン進行、そして3rdシングル『二人セゾン』において王道進行をサビに用いたところで、こちらは最速の段階で三大コード進行をコンプリートしています。

小室進行からスタートした欅坂46ですが、このグラフを見ても一目瞭然のとおり、圧倒的に小室進行の割合が高くなっています。世の中に山ほどコード進行のパターンがあるの中で、小室進行が半分以上です。このコード進行はⅥという不安定さを持つマイナーコードから始まり前向きなメジャーコードで終わるという点が、欅坂46の持つ哀愁漂うイメージや世の中に反抗する様子などの力強さが、この小室進行に表れていると感じました。(ただし欅坂46の小室進行は、根音Ⅰには収束しない変則的なもの)

欅坂46は櫻坂46に名前を変えてその活動を終えてしまいましたが、最後の配信限定シングルである『誰がその鐘を鳴らすのか?』においても、サビは小室進行でした。髪で顔が隠れるほどの激しいダンスを曲に混ぜる欅坂46の楽曲の特徴が、可視化してみると小室進行に集約されるのはおもしろいです。

ただ、欅坂46の最高傑作とも評され、ファン投票でも人気曲1位を譲らない、『二人セゾン』のサビは王道進行となっています。この曲の面白い点は、Aメロがカノン進行Bメロが小室進行・そしてサビが王道進行と、三大コード進行をすべて入れ組んでいるというところです。このようなキャッチ―なメロディーを含むような楽曲が、激しくメッセージ性の曲が目立つ欅坂46に、最も求められていた楽曲なのかもしれません。



●櫻坂46


そして、欅坂46から改名して誕生した櫻坂46はまだ1stシングルしかリリースされていないため、計1曲となります。


1.『Nobody's fault』……1341進行



欅坂46から改名し再出発として大事な1stシングル、サビには三大コード進行が登場しませんでした。良いスタートを切るため、一度小室進行から離れるという選択をしたのかはわかりませんが、他の坂道グループのデビュー曲とは違って、良いと思います。



●日向坂46


最後の日向坂46は、2021年3月現在までで表題曲は計4曲あります。


1.『キュン』……王道進行

2.『ドレミソラシド』……カノン進行

3.『こんなに好きになっちゃっていいの?』……1536(王道)進行

4.『ソンナコトナイヨ』……小室進行



デビュー曲『キュン』のサビを王道進行にしてスタートした日向坂46は、まだシングルの表題は4曲しかないので、その傾向は掴みづらくなっています。2ndシングル『ドレミソラシド』でカノン進行、そして4thシングル『ソンナコトナイヨ』において小室進行をサビに用いたところで、三大コード進行をコンプリートしています。

先にも述べた通り前提として、他の坂道グループと比べると曲数が少ないというのはありますが、それでもデビュー曲を王道進行で飾り、4曲中半分の2曲は王道進行の日向坂46、乃木坂46との差別化を図るのであればそのまま王道進行の多用といくのかと予想したりもしますが、どのような方向に向かっていくのか楽しみです。



◯まとめ


これらの結果から、それぞれのグループごとに多用されているコード進行が何かというのが明確に捉えることができました。特に欅坂46に関しては半分以上のサビに小室進行が用いられているなど、その傾向は顕著でした。

デビュー曲だけに焦点を当ててみても、

乃木坂46はカノン進行

欅坂46は小室進行

櫻坂46は三大コード進行外

日向坂46は王道進行

というように、偶然にも上手くすみ分けが出来ています。

同じプロデューサーが立ち上げた3つのグループですが、もちろんそれぞれ似通いすぎたグループであったらその差別化が図れないので、それぞれに特色をつけようとするのは自然なことかと思います。その特徴づけの方法として最も大きなカギを握っているのが、【楽曲】であり、その楽曲を決定づけているのはコード進行だと感じます。「J-pop」そして「アイドルグループ」という狭い枠組みの中ではありますが、その中でも様々な傾向がみられることが分かったのは良かったです。

誰しもが音楽を聴くことができ、また日々聴いているような世の中だと思うので、お気に入りの曲やお気に入りの歌手などのコード進行を調べてみると、思わぬ発見や傾向がみられるかもしれません。


この部員日記をきっかけに、新たな発見が見つかれば幸いです。



長い文章でしたが、最後までお読みいただきありがとうございました。





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