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「相鉄・東急直通線」のすべて

今回の部員日記は、経済学部3年の松川雄大が担当させていただきます。


◎  はじめに


みなさんは、「相鉄・東急直通線」というプロジェクトをご存知でしょうか?
今から2か月後の 2023年3月18日(土) に開業する、相鉄線と東急線における相互直通運転によって、東京都心と神奈川県央部・横浜市西部のアクセス向上を図った路線に関わる、一連のプロジェクトのことです。

今回の部員日記では、このプロジェクトがどのような目的で進められたのか、この路線が開業することのメリットやデメリットは何なのか、今後周辺地域はどのように変革していくかなどについて、まとめました。

最後までお付き合いいただければ幸いです。



1.相鉄・東急直通線とは


「相鉄・東急直通線」とは、相鉄線と東急線が相互直通運転をする路線です。相鉄・JR直通線の羽沢横浜国大駅と、東急東横線・目黒線の日吉駅をつなぐ約10kmの新線が、新規開業区間となります。

≪「相鉄・東急直通線」における新規開業区間 ≫
相鉄新横浜線:羽沢横浜国大駅 - 新横浜駅(4.2km)
東急新横浜線:新横浜駅 - 日吉駅(5.8km)

相鉄新横浜線は、西谷駅ー新横浜駅間の6.3kmも含みますが、西谷駅ー羽沢横浜国大駅間の2.1kmは、2019年の「相鉄・JR直通線」開業時に営業運転を始めています。

「相鉄・JR直通線」と「相鉄・東急直通線」の概要図

相鉄・東急直通線の開業にあたっては、新たに「新横浜駅」「新綱島駅」が設置されることが決定していて、最近では鉄道運輸機構によって新横浜駅が公開されるなど、ほぼ完成の状態にあることがわかります。

そもそも「相互直通運転」とは、旅客輸送需要に応える目的で、複数の鉄道会社間で相互に相手の路線に電車を直通運転することです。これによって、都心や副都心への足の確保・乗り換えの不便解消・ターミナル駅の混雑緩和などが図られます。相鉄・東急直通線では、「相鉄本線」「東急東横線・目黒線」の計3路線が、相互直通運転を行います。

相鉄・東急直通線を利用すれば、海老名ー目黒が最速53分と従来より29分ほど短縮、湘南台ー渋谷も51分と最速22分ほど短縮され、都心までのアクセスは飛躍的に向上します。

それではこのプロジェクトが発足してから、開業までの経緯について記していきます。



2.相鉄・東急直通線ができるまで


≪計画≫ 元来は三田線への直通計画

都営三田線は、1962年の「都市交通審議会答申第6号」で、西馬込から五反田・田町・日比谷・巣鴨を経由して志村(現・高島平)に至る「6号線」として策定されました。この時に1号線(都営浅草線)の西馬込ー田町間が6号線に付け替えられますが、6号線は標準軌(線路幅1435mm)で建設される予定だったので、馬込車両基地を1号線と共有する計画でした。

ところが、1964年に東武東上線と東急池上線との直通運転が決定したため、6号線は狭軌(1067mm)で建設することになりました。西馬込~泉岳寺間は再び1号線に戻され、東武が和光市ー志村(現・高島平)間、東京都が志村ー泉岳寺間、東急が泉岳寺ー桐ケ谷間を建設し、旗の台から現在の東急大井町線経由で田園都市線に直通する構想でした。

しかし翌年、東急が「6号線との直通は採算が取れない」として建設を拒否。田園都市線は11号線(半蔵門線)との相互直通運転を目指すことになりました。続いて東武も直通先を6号線から8号線(有楽町線)に変更し、6号線との直通計画を破棄します。6号線は1号線と直通できない狭軌の線路のみを残して取り残されてしまいました。

行き場を失った6号線ですが、1972年の「都市交通審議会答申第15号」で新たな方針が示されます。三田から白金高輪、目黒を経由して横浜市の港北ニュータウンに延伸する構想です。(現在の目黒線直通の形に近い)

これに先行して1966年、「都市交通審議会答申第9号」は横浜周辺の鉄道整備計画を策定しており、そのひとつに茅ケ崎を起点に六会(現・六会日大前)、二俣川、港北ニュータウンを経て東京方面に向かう路線が挙げられていました。6号線はこの路線の接続先として選ばれたのです。

この路線は「神奈川東部方面線」と呼ばれるようになりますが、直後にオイルショックが発生したことで都心方面の計画はストップしてしまい、東部方面線の一部である二俣川ー湘南台間のみが、相鉄いずみ野線として開業しました。

1980年代に入ると、東部方面線は二俣川から新横浜を経て大倉山から東急線に直通する路線として整理され、その一方で建設費を節約するために、東海道貨物線の羽沢駅に接続し、都心方面に直通する構想が浮上します。結果的に前者が東急・相鉄新横浜線、後者が2019年11月に開業した相鉄・JR直通線として結実します。

他方、1985年の「運輸政策審議会答申第7号」は、東横線の複々線化と目蒲線の改良により、東部方面線は目黒から地下鉄南北線に直通することを盛り込みます。また6号線も三田~清正公前(現・白金高輪)間を延伸し、目黒まで南北線と共有して、東急線に乗り入れる構想を提示しました。

当初、東横線は多摩川~大倉山間を複々線化し、大倉山で東部方面線と接続する計画でしたが、複々線化区間は日吉までに短縮されたため、日吉から新綱島を経由して、新横浜に至る路線として整備されました。

こうした50年の時を経て、神奈川東部方面線と都営三田線の直通が包含される、「相鉄・東急直通線」は開業するといった流れになります。


≪着手≫ 必要になる工事や車両等の改造

相鉄・東急直通線の開通にあたって、必要な工事や改造を、「駅・線路設備」と「車両」の2つの側面にわけて、記していきます。

まずは「駅・線路設備」です。北から順に書いていきます。

相鉄・東急直通線の北側の起点となるのは、「日吉駅」です。この駅は東横線の渋谷ー横浜間の真ん中あたりに位置し、目黒線の終着駅でもあります。そのため工事前は目黒線用の留置線として、複々線のうち真ん中2本は行き止まりとなっていました。ですが工事を経て、真ん中2本を地下方面に延伸させ、東横線の複線区間の下を走らせるような構造に工事を行いました。

それに伴い工事期間に入ると、目黒線の日吉駅での停車位置は、目黒方面に3両分ほどズレた位置に変更されることとなり、日吉駅地上改札から横浜方面側のエスカレーターを下ってもそこに目黒線の車両は停車しない、という不利益を日吉駅利用客は被ることになりました。

余談ですが、相鉄線内を走る電車の編成は「10両・8両」、たいして東横線は「10両・8両」、目黒線は「(8両・) 6両」です。目黒線(その先の都営三田線・東京メトロ南北線も含む)については、従来は6両編成での運行であるため、全駅全ホームで8両対応工事を行っています。

そこから南に2キロほど、「綱島駅」と綱島街道を挟んだ反対側に設置されるのが「新綱島駅」です。この駅は新駅で地下駅ということもあり、付近一帯の用地買収や地下工事は、早い段階から進められてきました。度重なる工事用道路の変更など、周辺住民はその工事の進捗状況にあわせるようにして、その環境変移を受け入れて生活をしてきました。いつ通っても工事が行われているという景色が、もうすぐ無くなることだと思います。

そしてさらに南へ行くと、「東急新横浜線」と「相鉄新横浜線」の中継駅である、「新横浜駅」にたどり着きます。
相鉄・東急直通線の新横浜駅は、地下4階30m付近にホームが設置され、これは地下2階の横浜市営地下鉄ブルーラインの倍の深さであることがうかがえます。サグラダファミリアかと思わしき長き工事期間を経て、ようやく地下工事が完了することになります。少しは環状2号線の混雑も解消することでしょう。

つづいて「車両」についてです。

先ほども述べた通り、目黒線のみ8両化に対応できていないため、駅ホームは当然として、最近は8両編成の列車が導入され始めてきました。三田線では従来の6300形の置き換えとして、新型6500形の運行を開始したり、東急の新型3020系のデビューや、3000系の増車など、車両の顔ぶれや長さが、ガラッと変わることでしょう。
2030年度までには、すべての「8両化」が完了するとされており、通勤ラッシュの緩和などが見込まれています。

また東横線については、2023年度以降に “Q SEAT” のサービスが開始される予定です。この “Q SEAT” とは、東急電鉄が展開する「座席指定サービス」のことで、現在大井町線ー田園都市線を運行する急行に適用されています。サービス開始時期が相鉄・東急直通線の開業と近いことから、この直通運転に “Q SEAT” も適用されるのでは?という見方もあります。実際に5166Fを “Q SEAT” 対応に改番した4112Fが、すでに通常形態での運用を開始しており、さらに “Q SEAT” 車両を連結している編成が導入されるかもしれません。



3.相鉄・東急直通線のメリットとデメリット


相鉄・東急直通線の開業にあたって得られるメリット・デメリットを、順番に記していこうと思います。

≪メリット≫ 相鉄・東急・慶應目線

①都心へのアクセス向上(相鉄目線)
これは相鉄側にとって大きなメリットです。首都圏の大手私鉄の多くが、他社との相互直通運転を行って都心への乗り入れ手段を持っているなかで唯一、「陸の孤島」ともいえる、最後の未都心アクセス路線が「相鉄線」だったのです。先にJR直通線に乗り入れて都心への乗り入れ手段を手に入れた相鉄ですが、この路線は直通する「埼京線(湘南新宿ライン直通)」のほか、「横須賀線(総武線快速直通)・湘南新宿ライン(高崎線直通)・成田エクスプレス」など、他路線の本数が多すぎる上に線路が複線(上り下り1本ずつ)といった、超混雑路線になっています。そのため、十分な本数が都心方面に乗り入れておらず、本命の都心アクセス線は「相鉄・東急直通線」になってくるというわけです。

②東海道新幹線(新横浜駅)へのアクセス向上(相鉄・東急双方)
これは相鉄・東急双方にとって、大きなメリットになります。新横浜駅といえば、神奈川県に2つしかない新幹線駅であり、のぞみ・ひかり・こだま全てが停車する大きな駅でもあります。そんな新横浜は現在、JR横浜線・横浜市営地下鉄ブルーラインの2路線のみしか通っておらず、駅までのルートは2本に限られています。しかし相鉄・東急直通線の開通により、相鉄・東急の両沿線から直接アクセスできることになり、行きやすくなるだけではなく、他路線の混雑緩和も図ることができます。

③所要時間の短縮(相鉄・東急双方)
相互直通運転の一番の目的ともいえます。相鉄本線は海老名から西谷を通り横浜を結んでいます。対して東急東横線は日吉以北に渋谷があり、相互直通運転先には東京メトロ副都心線の新宿三丁目池袋・東武東上線の川越小川町・西武池袋線の所沢飯能などがあります。東急目黒線は日吉以北に目黒があり、相互直通運転先には東京メトロ南北線の永田町赤羽岩淵や埼玉高速鉄道線の浦和美園・都営三田線の大手町西高島平などがあります。いずれも都心・副都心の主要駅をいくつも通る路線であり、相鉄沿線から通勤通学で上京する人にとっては、その所要時間の短縮は大きな助けになると思われます。(埼玉高速鉄道線は岩槻へ延伸し、東武アーバンパークラインとも直通する計画があります。)先述したものと重なりますが、主な区間の最速所要時間は以下の通りです。

二俣川 - 新横浜……11分
海老名 - 新横浜……25分
湘南台 - 新横浜……23分
二俣川 - 渋谷 ………39分
湘南台 - 渋谷 ………51分
湘南台 - 池袋 ………68分
新横浜 - 川越市……82分
二俣川 - 目黒 ………38分
海老名 - 目黒 ………53分
海老名 - 大手町……70分
海老名 - 永田町……66分

④神奈川県央部・横浜市西部へのアクセス向上(東急目線)
東急沿線などの都心方面から神奈川県央部へのアクセスが良くなるというメリットですが、実際あまりない気がします。

⑤慶應線の完成(慶應義塾目線)
ふざけているようでふざけてはいません。慶應義塾は、日吉駅に日吉キャンパス/矢上キャンパスと慶應義塾高校と慶應義塾普通部・三田駅に三田キャンパスと慶應義塾中等部・御成門駅に芝共立キャンパス・志木駅に慶應義塾志木高校をそれぞれ構えており、これらはすでに "相互直通運転網" によって繋がっています。端的に言えば、これらの所在地はすべて「日吉駅から乗り換えなし」でいける環境にあるということです。そこで「相鉄・東急直通線」が開業したらどうなるかというと、湘南藤沢キャンパス(SFC)を構える湘南台駅にも乗り換えなしで行けるようになります。(湘南台駅から相鉄いずみ野線をJR倉見駅まで延伸し、その途中駅にSFCの隣接駅を設置する計画もある。)すなわち、慶應義塾大学の「三田キャンパス」・「日吉/矢上キャンパス」・「湘南藤沢キャンパス」が1本の線路でつながるということになります。よかったですね、三田会さん。


メリットがあるということは、もちろんデメリットが存在していることも忘れてはいけません。つぎは主なデメリットを3つ書いていきます。


≪デメリット≫ おもに地域住民目線

①運賃
ちょっとたかい。比較的安価な東急の運賃に料金を重ねることになるためです。

②工事
うるさい。ながい。いつも使ってた道が急に閉じていたり、日吉駅において目黒線の停車位置がズレるなど、利用者が被る不利益が多く長かったです。特に後者においては、例えばお隣の元住吉駅から日吉駅で降りる場合、列車1編成分(最大160m)歩かなければ、改札口に通ずる階段にたどり着かないという、本来生じえなかった負担が発生してしまいました。

③日吉駅
このプロジェクトの構造上最もデメリットを受けるのは、日吉駅を最寄りとする住民ではないでしょうか。その理由は2つあります。
1つ目は、日吉始発・日吉終着の列車が大幅に減ることです。目黒線は日吉駅を終着駅とし、同駅で折り返して、始発として都心方向に運行しています。ですが東急新横浜線の工事風景を見てもわかる通り、工事を終えた現在の日吉駅には留置線が1本しかありません。相鉄・東急直通線の開業後は、大部分が相鉄線方面へ直通し、日吉終着・日吉始発はわずかしか残らないことが予想されます。したがって、今まで寝過ごす心配なく睡眠を満喫でき、朝何分か並べば座席に座れた日吉住民の安らかな生活には、お別れを告げることになりそうです。
2つ目は、混雑の悪化です。朝のラッシュを考えます。現在の日吉駅は「横浜方面からの東横線乗客」と「日吉からの目黒線乗客」で十分にあふれています。これに追加して「海老名・新横浜方面からの相鉄線乗客」が乗り入れることになります。日吉駅は東横線と新横浜線が合流する駅となるので、混雑が悪化するのは目に見えています。開業にあたり利便性の増す日吉駅と、開業時の新駅である「新綱島駅」の間には、新たなマンションや住宅が数多く建設されており、近隣人口が増加するのも既定路線です。公共インフラ(保育所・学校など)は不足すると思われます。

④綱島駅
新綱島駅の脚光とは裏腹に、綱島駅にもデメリットの影がみえます。例えば、現在は東口から発着しているバス路線のうち、日吉や鶴見方面の路線を中心に新綱島駅側のターミナルに移される予定となっています。そのため、綱島駅からのバス乗り換えは不便になるでしょう。

⑤ダイヤ乱れの広域化
現在、5社5路線の直通(東横線)+4社局4路線の直通(目黒線)を行っている東急側と、自社のみの路線で運行している相鉄側。相互直通運転を行えば、7社局10路線にまたがる大きな交通網になります。しかし同時に、ひとたび遅延や事故が起これば、その影響は各社に及ぶことになります。埼玉県での事故が神奈川県内での遅延に影響する、このような状態は大いにありえるのです。(今でもそうだから実質変わらない)



◎  おわりに


思い返せば東横線は1964年、営団日比谷線(現・東京メトロ日比谷線)の開通に合わせ、直通運転を始めました。2001年3月、目黒線は営団南北線(現・東京メトロ南北線)・都営三田線との相互直通運転を開始。2004年2月、東横線は横浜ー桜木町間を廃止し、新しく開業したみなとみらい線との相互直通運転を開始しました。そして2013年3月、東京メトロ副都心線との相互直通運転開始に伴い、今まで終着駅としてターミナルの役割を担っていた渋谷駅は、接続駅として地下化されました。それから僅か10年、今度は神奈川県側で、大規模な直通運転は始まろうとしています。

東急線における相互直通運転の歴史は、長いとはいえ、21世紀以降は非常に急速なペースでその直通運転網は緻密化されつつあります。

新しい時代に変わりゆくこの路線たちを受け入れ、順応していくことこそ、沿線に住みこの街を見てきた者としての責任なのでしょうか。


「美しい時代へ」

東急グループのスローガンであるこの言葉の通り、美しい時代を実現していくため、新時代に向けた道しるべと新しい価値が、この相互直通運転の開業と相まって示せれれば良いなと、思っています。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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