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従業員のお困りごと㉒

武田さん(仮名)は、家庭や事業所から出るごみの収集運搬のほか、各種リサイクル品や不用品の回収を行っている会社に勤めています。

同社は、平成28年6月から、地域社会への貢献という観点から障害者雇用を開始し、同年10月に上杉んさん(仮名)を採用しました。上杉さんは、ある事故に遭い、視野が狭いという障害がありました。担当した業務は、場内でリサイクル資源の選別やアルミ缶の圧縮加工などの作業全般でした。

上杉さんが入社して2年が経過する頃、武田さんは上杉さんの課題解決に苦慮していました。その課題とは、上杉んさんに任せた業務を指示とは違う進め方で行い、その結果、会社が求める仕上がりとは違ってしまうということでした。これが、個性によるものなのか、障害によるものなのか武田さんは悩みました。

あるとき武田さんは、サポート事業のことを知り、その養成講座に参加することにしました。講義の中で、指示する側とされる側には「認知の差」があり、作業手順やゴールを明確にし、すり合わせることで互いの認識にズレがなくなり、作業精度が上がることを知りました。

早速、武田さんは、上杉さんの支援者としてサポーター登録しました。武田さんは、支援計画書を作成し、上杉さんと正しい作業の進め方を共有することで認識のズレをなくし、効率よく作業できる人材に育成していことを計画書に記載しました。

初冬

認知の差を埋めるために、まず作業工程を細かく分類し、武田さんが実際にその作業をやって見せて、一つひとつの作業と全行程の流れを丁寧に説明するようにしました。数週間経過すると、上杉さんは徐々に指示した手順通りに進められるようになりました。すると、できる作業量も増えていき、同僚からも仕事を頼まれることが多くなり、武田さんだけではなく同僚からも褒められる機会が増え、上杉さんは増々やる気が見えるようになりました。

こうした状況から、武田さんは、上杉さんには更に成長して欲しいと思うようになりました。そこで、上杉さんをどのような人材に育てていくか「指導育成計画書」にまとめました。この計画書には、武田さんが立てた目標のほかに、上杉さん本人による目標欄や意向欄を設け、最終目標に「正社員への登用」を掲げました。武田さんは、面談時に「会社とってなくてはならない存在となって活躍して欲しい」と都度上杉さんに伝え、「自尊心」を高めるように心がけました。

また、武田さんは上杉さんに、余裕があるときは同僚の手伝いをすることを指示しました。そこで、「指導育成計画書」のほかに、上杉さんが同僚の仕事を手伝ったときの仕事ぶりを把握するために「進捗確認表」作成し、手伝いを上杉さんに依頼した同僚に記載するようお願いしました。この確認表を上杉さんと一緒に確認し合いながら、正社員になるには、同僚の従業員からもっと頼りにされるようになる必要があることを説明し、自己成長を促していきました。

数年後、上杉さんは、自治体主催の就労支援フェスタに、就労する障害当事者として登壇しました。自分の障害のこと、就職活動のこと、仕事のことなどを話し、また、多くの質問に応じました。臆することなく堂々と話す杉さんを見て、武田さんは上杉さんの成長を感じて胸が熱くなる思いでした。

企業の社会的責任や雇用率のためではなく、戦力として活躍してもらうことが真の障害者雇用だと、あらためて感じます。また、障害に対して特別扱いするのではなく、ほかの従業員が同様の配慮をすることが必要なのだと思います。

クリスマス


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