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21のつづら折り_ヒルクライムな人生

札幌はとんでもない雪。ここ10年でも記憶がないほどに今年は雪が降る、降る。

最近東京出張が多くなり、冬場に東京に行くと雪がないだけでロードバイクが趣味の人間としてはうらやましい。札幌にいるだけで一年間のうちの5か月を無駄にしているような気がしてくる。

と言いながら、東京で住めるかと言うと相当厳しい。10年を超える北海道生活を経て、久しぶりに東京の歩道を歩くと、まともに歩けない。人が多すぎるのと、東京の人の歩くペースの早さについていけない自分がいる。そんなときどうするか。私は立ち止まる。先を急ぐ人はどうぞお先に。人が少なくなった道を私は歩く。その数秒、数mの差は人生においては全く意味がない、ということを40年以上生きてきて、理解できるようになった。

若いころは本当に何でも知っている上司が神のように見えた。なんでそんなことまでわかるんですかと聞くとその上司は「この業界で伊達だてに30年飯食ってないよ」とよく言われた。そんな尊敬できる上司の定年前の最後のプロジェクトでまた一緒に仕事ができることになった。とてもうれしい。自分もそういうオヤジにならないといけないと思いながら、ちょっと違うかな、と思う自分もいる。

私が部下に見せるべき姿は、何でも知っていてバリバリ仕事をこなすスーパーマンではなくて、人混みでは立ち止まり、自分のペースを維持しながら着実に歩いている普通のオジサンとしての姿なのかもしれない。


自転車の話。北海道は雪が積もって12月から4月まではまともに乗れない。12か月のうちの5か月自転車に乗れないというのは、私のワークライフバランス的には致命的だ。

ということで半ばしかたがなく、冬の5か月間はメタバースの世界でバーチャルライド。ただし、このバーチャルライドの世界は正直言ってリアルな世界よりも厳しい。

私が冬と雨の日に足を踏み入れる世界はZWIFTというアプリで、だいたい3000人くらいの世界中の人がいつも走っている。数限りないレースやイベントが開催されていて、明日のイベントの数を数えてみたら211あった。

ZWIFTでのレースやイベントはリアルよりずっときつい。信号機もないし、足をとめていられる下り坂もほとんどない。だいたい午前一時間、午後一時間の合計2時間を目安に乗るのだけれど、リアルの世界で乗るよりもずっとカロリーを消費するし、実際疲れる。

今日はイベントでラルプZWIFTというコースを登った。ZWIFTで一番しんどいコースで、12km、平均勾配8.5%の坂道を一時間かけて登る、獲得標高1000mのコースだ。このコースはリアル世界にあるラルプデュエズという非常に有名なルートを忠実に再現している。

ラルプデュエズはツールドフランスで数多くの名勝負を生んだ伝説のコースで、このコースを走るかどうかが毎年ニュースになる。今年は4年ぶりに復活するようだ。

超一流の世界のロードレーサーたちは、この12㎞の坂を上る前に二つの峠を越えて150㎞を走り続けたあと、最後の勝負で全力で駆け上がるのだから本当にとんでもない。

ツールドフランス2022 第11ステージ

このコースは2022年の第11ステージ。ツールドフランスは21ステージを2日間だけの休息で走り続ける。ピレネー、アルプスの山岳エリアを走るときは平坦コースが間に挟まることもなく、何日も続けてこんな山岳コースを走り続けることになる。本当に信じられない人間たちだ。


話は戻ってZWIFT。今日のイベントで登ったZWIFTの記録。

この前後も走っているのだけれど、この区間だけで12.2㎞、1036mの標高差のルートを58:18で登った。平均パワーは248W、消費カロリーは1052kcal
。STRAVAというアプリの記録(上の画像)を見ると記録は45万人中13万位なので、大して速い記録でもない。途中バテバテでマイペースで登り、今日のイベントでは350人くらいで登って順位は50番台だった。それにしても45万人というのはすごい人数だ。私が夏場登る札幌の手稲山の記録をみると1000人程度。バーチャルとはいえその450倍の人が登っているということになる。

バーチャルとはいえ、アームストロング、パンターニ、ウルリッヒをはじめとした数々の伝説のサイクリストたちが死闘を演じたコースを登れるというのは感慨深い。このコースは21のヘアピンカーブがあり、そのそれぞれにこのコースの優勝者の名前が付けられている。コースレコードを持っているのは海賊と呼ばれた天才ヒルクライマー、イタリアのマルコ・パンターニで1997年に37分35秒で登っている。私の今日のペースより20分以上速い。一緒に登っていたら一瞬で見えなくなるスピードだ。


自転車に乗らない人には何が楽しいのかと思われること間違いないヒルクライムだけれど、私は好きだ。自転車は惰性で進むし、下り坂は放っておいてもどんどん加速するのだけれどヒルクライムはそうはいかない。ペダルを回した分しか進まないし、その分だけは必ず進むという確かさが私の生き方にフィットしている。

自分がつらい思いをしてペダルを回した分だけ自転車が坂道を上り、少しだけ高いところに行ける。そんな確かさが私は好きだ。

21の九十九折つづらおり。あえぎながらそのヘアピンカーブを一つずつ曲がるたび、違う景色が見えてくる。ヘアピンカーブの先も坂道はつづく。

人生もそんなものだと思っている。平らな道や下り坂を足を緩めて進むのではなく、ヘアピンカーブを曲がってさらに急勾配になる坂道を見上げて、「うわー」と思いながらも登っていくのが私の人生だ。40代を半ばにしてますます勾配が急になる厳しい坂道。そう来なくては。惰性でサイクリングするつもりは、無い。

私は知っている。坂道も人生も、自分でペダルを回した分だけは登っていけることを。


そんな「確かなつらさ」のある人生の坂道を登っていける幸せを感じながら、明日もペダルを回す。


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