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20230614 魚吹八幡神社秋季例祭に関する論文発見

 この祭心理学NOTEでは博多祇園山笠についてずっと書いてきております。んがしかし,やはり神戸に居を決めたのですから京阪神の祭についても今後見ていきたいなあと思っていて,今の所その候補として神戸のだんじりや京都の祇園祭と地蔵盆,そして灘のけんか祭などの西播の秋季例祭をみたいなあと思っています。
 そして昨日祭関係の論文を探していて,タイトルに興味を持って軽く目を通してみると,取り上げられている祭が網干の魚吹八幡神社秋季例祭だったのでこれは貴重と思い読み進めることにしました。
 
大平和弘・中堀 卓・浦出俊和・上甫木昭春 (2014). 市街化に伴う自治会分割地域における居住者の祭りへの関わり方とコミュニティ意識. ランドスケープ研究, 77(5), 701 – 706.

 ページ数は少ないのですがすごく内容的には盛りだくさんで,祭の運営集団における年齢階梯制の資料も非常に貴重にありがたいのですが,ここでは「祭へ参加可能かどうかや自治会の分立時期などで分けられた5つの地域での祭の効果認識と祭の継続に必要な項目に関する比較結果に焦点をあててみたいと思います。
 
 まず,祭への参加可能性や自治会の分立時期などで分けられた5つの地域の説明について,少し表記を変えましたが基本的にはほぼそのまま引用したものを以下にあげます。

[旧集落]天満自治会2,3区内で昭和33年の航空写真において建物が存在し,旧村組織の中心かつ,現在も祭り運営組織の中心を担っていると考えられる地区
[天満1区]同じく天満自治会区域内に新規転入者誘致の目的で2,3区と隔てられた地区。2,3区同様に役員を出しており,祭りに参加することができる。
[安田・五反長]1964年に分立した五反長自治会,1973年に分立した安田自治会を合わせた地区。祭りに直接的に参加できない地区であるが,両自治会の子供会による子供屋台が存在し,大型ショッピングモールの交差点において天満屋台と練り合う。また屋台巡行の際に花代を出す世帯が存在するなど,比較的祭りと地域の関係が深いと考えられる。
[恵美酒・天神]天満地域南部に位置し,1954年1955年に分立した天神自治会と恵美酒自治会を合わせた地区。祭りに参加できず,かつ屋台が巡行しない地区である。近年,両自 治会子供会は,魚吹八幡神社とは別の神社の祭りに参加している。
[大津町]天満地域北部に位置し,1965年に分立した地区。近年,製鉄所の団地や社宅跡地にハウスメーカーによる大規模な宅地開発が進んでいる。祭りに直接的に参加できず,団地や社宅の解体に伴い,現在子供会が存在していない。


 上記5つの地域での祭の効果認識と祭の継続に必要な項目に関する比較結果を以下に引用します。


  祭りの効果認識に関して言えば,全般的に[旧集落]が高いのはまあ当然だと思います。しかし,ちょっと不思議なのは,[旧集落]についで祭集団としては有意な位置にあると思われる[天満1区]の数値が悪いことが多く,「家族や親戚との絆が深まる」では断トツの最下位であることなどが気になったりします。もしかすると単身者世帯が他に比べると多く,「家族や親せきがいないから深まりようがない」ことを反映しているかもしれないなあとも。
 次に面白いのは,祭の継続に関する質問の所ですが,興味深い考察を以下に引用します。
 

 続いて,祭りが継続されるために必要な項目について,その重要度を評価させた結果を図-6 に示した。その結果,どの地区も「子供に祭りの意義を伝える」が最も高かった。また,「祭りを行う自治会範囲を保つ」が[旧集落]において特に高く,逆に「祭りを行う自治会範囲を広げる」が消極的であったことから,[旧集落]では,しきたりを維持することが祭りの継承に重要だと捉えている傾向が窺えた。一方,祭りに参加できない地区に着目すると,観覧する世帯の割合が有意に高かった[大津町]や,祭りを行う自治会に隣接して子供屋台が練り合わせに参加している[安田・五反長]において,「祭りを行う自治会範囲を広げる」ことをやや好意的に捉えていた。これに対し,屋台が巡行せず祭りとの関わりがない回答者が有意に多かった[恵美酒・天神]では,祭りの継続に関して総じて重要度が低い傾向となった。 このように,[旧集落]とそれ以外の地区で祭りの継承性に関する認識が大きく異なっていることが明らかとなった。これに関連して,アンケート調査における自由記述では,『魚吹八幡神社の地域に住みながら自治会が違うことにより,個人が祭りに参加したくても参加できない若者もいる(安田自治会・50 代)』や『一部の人には,旧村意識・よそ者意識が未だ存在するように思われる(安田自治会・70 代)』など,自治会による隔たりや,新旧居住者の確執などにより,祭りに参加したくても参加できない現状が記されていた。これらのことから,祭りに関わりがあるが直接参加できない地区において,運営の閉鎖性に不満を持ち,運営範囲を広げることを望む居住者も存在することが明らかとなった。
 
 しかしながら,このように自治会が分割され,地区ごとに祭りへの関わり方や認識が異なる地域であっても,祭りに参加する世帯はコミュニティ意識が相対的に高いこと,祭りを観覧するのみの世帯においても,地域イベントへの参加度や地域への愛着度が, 祭りに関わりのない世帯より高くなることが明らかとなった。これより,既往研究で言及されている祭りへの参加がコミュニティ形成に寄与するという知見に加え,祭りを観覧することも地域コミュニティ形成に有用である可能性が示唆された。

 祭に参加することで地域への愛着が高まるのはよく知られていますが,この研究では「参加はできないが屋台が巡行してくることで見学ができる地区」と「参加も巡行もない地区」の比較を通じて,「参加だけでなく見学だけでも祭や地域コミュニティ形成に役立つ」ということが見いだされたのがすごいなあと思いました。
 
 まあでもそういう視点で見ると,山陽電鉄網干線による南北の断絶が残念だなあと。織姫と彦星を合わせない天の川に渡すかささぎのように,山電を屋台が渡るようになればいいのになあと。

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