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地方出身の私が大阪で営業をするにあたって、関西弁を使うようになるまで

大学進学のため、九州の片田舎から京都へ出て来た。大学の友人には勿論、関西人が多かった。彼女らは地域ごとに少しずつの違いはあれど、テレビでお笑い芸人がよく操っている「関西弁」を話していた。京都の子ははんなり。大阪の子はそれに比べて強めな印象。奈良や滋賀の子はどちらかといえば京都寄りの柔らかい感じ。和歌山・兵庫の友人は少なかったので印象については割愛する。

私は田舎で暮らしていたころから、方言をあまり使わなかった。我が家のテレビはよくNHKが流れ、アナウンサーの発する、いわゆる標準語のイントネーションが馴染んでいた。だから、京都に来たからといって、関西人の友人に囲まれたからといって、標準語を使って会話をしていた。急にその土地の言葉が話せるわけではない、というのもあるが、一番の理由は関西人の言葉への矜持が怖かったのだ。

関西を舞台とした映画やドラマの話で「主演の●●さんは京都出身やから、言葉に違和感がなくてええわぁ」「あのドラマの特別ゲストだった俳優の▲▲さん、妙な関西弁が気になって、なんや集中してみられんへんかったわぁ」というのが時々会話に上がったからだ。そんな話題があがるのは、私の学んでいた学科が言語学を扱っていたからであろうか。「へー、そうなんだねぇ」と相槌を打ちつつ、よそ者は無暗に関西弁を使うのはやめようと思った。

言語学の授業でも「関西弁はとても強い言語」だと話を聞いた。地方の人が旅行に東京へ行くと、方言が引っ込むという。しかし、関西人だけは東京に行っても、海外に行っても関西弁を堂々と話す、と。ますます関西弁は手に負えないと思ったものである。

4年の大学生活を経て、大阪の印刷会社で企画営業として働くことになった。入社して数日、新人である私の電話応対を聞いていたやたらと眉毛が細いアラサー女子の先輩は困ったようにこう言った。

「あんなぁ、気ぃ悪くせんといてな。茉莉さん、きれいな標準語やけど、電話やと顔が見えへんから、その・・・冷たいいうか、怖く聞こえるわ」

衝撃だった。私の話し方のお手本はNHKのアナウンサーである。昔から言葉遣いが丁寧だとか、(地方出身だけど)イントネーションがきれいだとか褒められたことはあっても、冷たい・怖いと言われるとは・・・。では、どうしたら?と思い、先輩の客先対応を聞いてみる。非常に砕けた印象を受けた。内容が、ではない。関西弁の抑揚が効いた、親しみやすい響きであった。

またある時、外注先に依頼をした時、先方をなんとなく不機嫌にさせてしまった。依頼内容は了承してもらえたが、先方は眉間にしわを寄せて、明らかに顔が曇っているのが分かった。一体なぜ?何がまずかったのか?と、不惑を超えてゴルフ焼けがまぶしい先輩に相談すると「あー、茉莉さんが言うてる内容は正しいし、何も間違っていないけど、多分言い方やなぁ」とニヤリと笑われた。要は言葉から受ける印象の話だった。恐らく、取引先の新人の女の子から冷たく機械的に仕事を依頼されたと取られた。それが面白くなかったんだろう、と。

ようやく私は、今の自分のままで、大阪という土地で営業するのは厳しいと気が付いた。私は関西弁を自分の言葉にしようと、意識的にイントネーションを真似したり、簡単な言葉から話すことにした。

「まいどです」「●●さん、いてはりますか」「おおきにありがとうございます」

するとこれがうまくいった。外注先からは可愛がられるようになり、商談が明るく弾んだ。嘘のようで本当の話。関西弁は間違いなく大阪で営業するうえで処世術であった。


余談:私の関西弁はなかなか板についたらしく、のちに客先へ出身地の話をすると「え、関西じゃなかったんですか?」と驚かれるまでになりました。

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