基調講演レポ(劇場は可能か シーズン0)

企画司会:岸井大輔 横山義志

優れた活動をしている多くの劇場が存続の危機に晒されている中、今日も新しい劇場が開く。しかしそもそも日本で劇場をやるというのはどういうことか?
コロナが続きオリンピック終了したこのタイミングで考え直してみたい。
まずは、インタビュー8本と2回の対話の場。

インタビュイー:石神夏希、木ノ下裕一、佐藤信、白神ももこ、長島確、橋本裕介、横堀ふみ、吉本有輝子。

ゲストインタビュアー:和田ながら

(敬称略)


 会場はPARA、住宅地にある古民家であった。参加者たちはコーヒーが置かれた机を囲み、畳に座る。
 本企画は「劇場は可能か」という題が掲げられている。今回の基調講演を幕開けに、10人の演劇・劇場関係者にインタビューが行われる。

 「劇場は可能か?」という問いかけにおける「劇場」とは、ヨーロッパ的な伝統を背負う公共劇場のことを指す。現在、日本では舞台芸術公演を可能とする公立文化施設は2800施設を超えている。しかし、そのような施設は劇場として「成り立っている」と言えるのだろうか。基調講演においては、前提となる知識、日本における劇場の現状、それにより発生している問題の共有により、この問いが解題された。

 岸井氏は、演劇が観光の「手段」とされている現状を踏まえつつ、そうではない公共劇場のあり方を探った。西洋古代から、日本戦後までの歴史を振り返り、劇場がどのような「理念」に基づいて運営されてきたのか示した。その中で、現在の日本において劇場の「目的」とされることは何であるか、その達成のために劇場は本当に必要であるのか、ヨーロッパ式ではない形で「実践」するためにはどうすれば良いのかという問いかけがされた。
 横山氏の講義においては、「経済」の中で劇場は成り立ちうるのか、「公共性」を担保できるか、「舞台芸術」とはそもそも劇場を必要としていたのか、劇場は「アジア」において成立するのかという4点が、過去の事例や歴史等を踏まえ論じられた。(特に、第三項「舞台芸術」においてその語源をドイツ語に見出す場面には響くものがある。ぜひご視聴いただきたい。)

 これらの講義によって、劇場の不可能性はより具体的に浮かび上がることなった。これからのインタビューへ向けて、二人の「問い」のうち共通し、また注目すべきなのは以下の通りだろう。

・劇場が持つ力とは何か、なぜ劇場は劇場であり続けなければならないか。

・ヨーロッパ的でない手法によって「劇場」を維持するシステムはあるのか。

 また、私個人の疑問として、「公共と民間の共同可能性」を挙げる。公共劇場に、付属組織という形ではなく対等な立場において民間が介入することはできるのだろうか。また、どのように達成されるべきなのであろうか。


 この連続インタビューを通じて証明されるものは、劇場の不可能性かもしれない。しかし本企画は、それを乗り越えるほどの方法、もしくは劇場がなければならない理念を求めていると考えられる。また、基調講演においてもその一端に触れていた。
 岸井氏は度々、劇場は「他者が点滅する場」であるという表現を行う。劇場においては、全く異なる思想を抱く人間であっても、物語を共有することができる。隣り合って座ることができる。横山氏は、観客―パフォーマー―演じられる「役」それぞれの間で発生する自己同一化効果について語った。また、劇場を拠点とした専門家集団による技術の継承についても示された。
 発生している様々な問題や危険性を乗り越え排除するのではなく、それを包み込むような形で「日本の」劇場へとアップデートしていく必要がある。

 あくまでこの連続インタビューは、劇場を必要とするものたちにより進められる。「劇場が欲しい」と心から語れるだけの強さをこれから掴むことはできるのか。まだ劇場は完全に消滅してはいない今現在、できることは何であろうか。

 講義中印象的だったのは、横山氏が自己の過去について語る姿だった。「その場にいる人に聞こえるが、その人に向けられているのではない声」を聞くことができる劇場の心地よさ。様々な人がいて皆生きており、自分もまた発言することができる場として。劇場の存在は経験によって肯定されていく。
 個人の体験に基づいたとき、それは公ではない感情・欲望として一蹴されるのかもしれない。しかし、そこにこそ劇場に対する強烈な必要性を見出すことができるのではないだろうか。公共性をも包むような。


 これから本企画では、様々な立場の方々からの言葉をもとに、劇場をいかに生かしていくか探っていくことになる。文面ではなく、対話をもって思考は進んでいく。インタビュー中、言葉の端々にこぼれる劇場への思いをひろいあげつつ、各々の多様な理念、方法論、展望に触れていきたい。


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