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13 「試してみる」のススメ

かつて、「イリジウム」と言う衛星電話サービスがあった。50億ドルの予算を組み42カ国で20万人からアンケートを取って意見を集め、約1000件の特許を取得し、10年以上の歳月を費やしてシステムを完成させた。しかしインフラ投資負担の重荷と、高額すぎる端末機器により契約数は伸びず、開始後1年弱で倒産してしまった。原因は他にも、「携帯電話の普及を予測できなかったから」「出張の多いエグゼクティブというターゲットが小さすぎたから」など多々あり、極めつけは「移動中の車内や建物の中では使えなかった」「投資額の大きさに経営陣が撤退を渋ってしまった」ことだ。しかし、失敗の根本の原因は、プロジェクトの最初の計画段階で埋め込まれていたのだった。それは、正式な設計や製造に着手する前に、「ああだ、こうだと試してみる」というプロセスが欠落していたのだった。つまり、「失敗するのなら早い内に安く(損害額が大きくならない内に)失敗しておこう」という姿勢だ。

世の中には経済的な成功例はたくさんあるが、そのどれもが、数十、数百と試した中の1回である。もちろん、やみくもな体当たりでは無く、しっかりとした現実認識の上に立った「試し」の数である。「試してみた数」という分母の上に、ようやく「成功」という分子が乗る。

私が関わっているシステム開発の世界も、以前は滝の流れのように上流から下流へ一直線に作業が進む方式であったが、今は「計画的に試行錯誤する」方式が主流である。行きつ戻りつ、作っては壊し、また作り、と、小さな失敗を早い内に繰り返して、完成へと近づけて行く。

コロナ禍、ウクライナ情勢、そして自然災害、どれも予測が出来ない。平和だと信じていた「あの頃」と今とは全く違う。これまでのやり方では通用しない時が来ている。諸行無常というが当にその通りで、変化こそが日常なのである。自らの安寧を保証するものは、「試してみた数」ではないかと思うのである。

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