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【実話】 防空頭巾の女の子

名古屋近郊の、80世帯ほどが入居する集合住宅に住んでいた頃の話だ。 
私の住んでいた8階のフロアーには10世帯ほどのドアが並んでいて、そのほとんどに盛り塩がされていた。もちろんわが家も例外ではない。
この集合住宅全体で、不思議な現象が起きていたのだ。
 
同じ階の知人には高校生の娘さんがいた。母娘ふたり暮らしだった。
ある日、母娘で出掛けて帰宅した時の事だ。
 
先に娘さんが鍵を開けて家に入った。
続いてお母さんも中へ入ろうとしたが、娘さんが玄関で立ち尽くしている。
「どうしたの?」
とお母さんが訊くと、
「誰かいる」
と娘さんが言う。
娘さんの肩越しに、リビングのドアへ続く廊下を見るが、誰かがいる様子は無い。
「そこに女の子がいる」
「どこに? いないよ」
お母さんには何も見えない。
「防空頭巾、被ってる」
と娘さんが言う。
「えぇ-怖い~、中に入れないじゃん」
お母さんは開いたドアの前で地団駄を踏んだ。
少しして、
「いなくなった」
と娘さんは言った。
 
私が聞いた話はそこまでだ。


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