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【実話】 山荘にて

10年ほど前の事だ。
母と共に静内の伯母を訪ねた。その帰り道のことだ。
途中、浦河町を通る。浦河と言えば、小説家の佐藤愛子氏が建てた山荘がある。氏の著書『私の遺言』(新潮文庫2005年 )の中で、ポルターガイスト現象で有名になったあの山荘だ。
 
国道から山荘を見ると、遠く切妻屋根がまるで山の上の祠のように見える。
’75年にこの山荘が建てられてから、佐藤氏は数々の不思議な現象に悩まされた。
実はこの山荘は、大勢のアイヌの人たちが虐殺された場所を切り崩して建てられていたのだった。
数々の霊能者がアイヌの霊を鎮めるためにここを訪れたが、騒ぎが静まるまでには20年の月日を要した。そんな場所へ、面白半分に興味本位で、しかもそういった気配を特に感じやすい体質の母と共に行ってしまったのだった。
 

私は無人の山荘の庭を歩き、これがあの本に描かれていた風景かと感じ入っていた。
その背後で母の様子がおかしい。
「何か入った」
と母が言った。体に何物かが入ったらしい。
とにかくここを出ようと母が言う。
急いで700mほどの山道を下り、街中まで出たところで車を停めた。
母は車から降りると嘔吐するかのように口を開いて下を向き、私に背中を強く叩いてくれと言う。
70歳の母の背中をそんなに強く叩くわけにも行かず、ほどほどに叩いていると、
「もっと強く!」
と母が言う。
私はさっきよりも強く背中を叩いた。
「出た」
と母の声が聞こえた。
何が入り何が出たのかも私にはわからない。
ただ、迂闊にあのような場所に近づいてはいけないのだと言う事だけはわかった。

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