見出し画像

【検証】懸賞金を検証 ~日本人力士と外国人力士どっちにかける?~

 こんにちは。4か月ぶりの投稿ですね。さすがにサボりすぎました。

さてさて大相撲と言えば、名古屋場所の後に照ノ富士の横綱昇進が決まりましたね。
稀勢の里以来の横綱ということでうれしく思うところですが、日本人力士はどうしてこう、勝てないのでしょうねえ。

今回は、大相撲ではあまり注目を浴びていない懸賞金がテーマです。

取組の懸賞データをもとに、力士の国籍による、企業の懸賞金の支払い行動の差を検証してみたいと思います。

大相撲の懸賞金制度

大相撲には懸賞金という制度があります。
懸賞金は、企業などが各取組に対して懸けるもので、懸賞金を出す提供者の名前は、取組と取組の間に土俵上で懸賞旗にのせられ、宣伝されます。

つまり、取組が番組とすれば、懸賞金は広告代、懸賞旗はCMといった形です。

画像1

相撲といえば、この写真をイメージする人も少なくないでしょう。これは、〇谷園の懸賞旗です。
旗の数=懸賞の本数になります。

各取組で勝利した力士は、この懸賞金を受け取ることができますが、負けた力士は受け取ることができません。
ちなみに懸賞金が包まれた封の中には7万円が入っていて、力士の取り分は6万円だそうです。

差別に関する経済学の研究

日本人と外国人力士の懸賞金の格差について分析するにあたって、経済学の文献を参考にしてみましょう。

経済学における「差別」の概念の中に、「顧客による差別(customer discrimination)」というものがあります。
これは、顧客が特定の属性を持つ集団に対して偏った好みを持つことを指します。

例えば、白人の保育士には子供を預けたいが、黒人の保育士には預けたくない、といったようなものです。

また顧客による差別が存在する場合、企業は差別的な好みを持たれている労働者を雇うと商品を購入されなくなる可能性があるため、誰を雇うかという判断も影響を受けることになります。

経済学の先行研究の中にもこういった事例が検証されています。
Bar and Zussman(2017)では、イスラエルで行った電話調査のデータをもとに、約40%のユダヤ人消費者が、自宅の塗装工事のサービスを受ける労働者を、アラブ人から同人種であるユダヤ人に変更するために追加的な支払いを行うことが示されています。

これらの先行研究を、大相撲に当てはめると、「観客が日本人力士の方が好きなので、広告は日本人力士に出した方が効果的!」と考えて、

企業は、外国人よりも日本人力士に
多めに懸賞金を支払う

という仮説を立てられるわけです。

いざ、検証

ここからは、仮説の検証をしていきましょう。

用いるのは、2005~2018年の、場所ごとの力士のデータです。
ここで用いる懸賞金の本数は、場所中に各力士がもらった総本数を勝利数で割ったもの=1勝あたりの懸賞本数で、厳密にすべての取組の本数はわかりません。
これはデータの限界になります。
分析の手順は以下の通りです。

(1)グラフで検証:棒グラフで平均値の比較
(2)回帰分析:国籍以外の要因を考慮しつつ差の検証
(3)深堀:国籍と他要因の交互作用を検証

ステップ1:グラフで検証

まずは、グラフで日本人と外国人力士の懸賞金がどれくらい違うのか可視化してみましょう。

下の図は、国籍別の「1勝あたりの懸賞の本数」の平均値です。

【幕内全体】平均本数

おっと??外国人の方が多いですね~。

では、前頭の力士のみに注目してみましょう。

【前頭】平均本数

前頭のみに注目してみると、日本人の方が0.7本多くもらえるということがわかります。

幕内全体の平均値を大きく引き上げているのは、上位の外国人力士の懸賞金の本数と考えることができます。

ステップ2:回帰分析で検証

ここでは回帰分析を用いて、他の要因を調整しつつ日本人と外国人の差を見てみましょう。

被説明変数(結果側)に”1勝あたりの懸賞本数”
説明変数(要因側)に”日本人ダミー(日本人なら1,外国人なら0をとる)”を設定します。※

※その他、欠落変数と思われる変数等も説明変数に加えて分析を行っております。

下に分析結果を載せています。

黄色は、日本人が外国人より多くなる懸賞の本数です。
青色は、番付が1枚上がった時に増える懸賞の本数です。
ピンク色=”外国人平幕に勝利した”は、
15日の中で、1日でも外国人の平幕の力士に勝利した力士の本数が、そうでない力士(他の平幕の日本人力士等に勝利した力士)よりも少なくなる本数を示しています。

(外国人相手に勝っていたら、日本人に勝つより懸賞金少ないだろう、という仮説に基づいてます。)

分析結果2

表から、日本人の方が平均して0.5~0.8本ほど、懸賞金が多いことがわかります。
また、外国人平幕に勝利した力士は、日本人力士等の力士に勝利した力士よりも0.3本ほど懸賞金が少ないことがわかります。

これらの結果をまとめると4つのことが言えます。

①ほとんど属性が同じ日本人と外国人がいた場合、企業は日本人の方を贔屓する

②番付の低い外国人力士に勝利しても、もらえる懸賞金は日本人力士に勝利した時よりも少ない

③企業は、番付の高い力士の方に宣伝効果を見込んで懸賞金を多く払う(以下、番付効果と呼ぶ)※

④パターン1で見た外国人力士の方が懸賞金が多く見える現象は、番付という要因を一定とすることで消える(=外国人の方が番付が高い傾向にある)

【補足】
※幕内全体で、番付効果が有意でないのは、以下が考えられます。
1.番付の変数が連続変数であること
2.前頭より上の力士のランクは連続的でないと考えられること=横綱、大関、関脇、小結ダミーの方が適していること
3.そして上の2つの変数を、2つともコントロールしていること)

実際に、小結以上の力士で、「連続変数のみ」「番付ダミーのみ」の2パターンで分析を行うと両方で番付は有意な値を取りました。

ステップ3:ちょっと深堀

ステップ2で、外国人力士の方が番付が高いため懸賞金の本数が多くなりうる可能性について指摘しました。

ではここで、懸賞金を提供する企業目線に立ってみましょう。

・日本人に多めに懸賞金を出したい。
・番付が高い方が宣伝効果が高く、上位力士に多く払いたい。

では、番付が高くなったときに、企業が追加的に支払う懸賞金は国籍問わず一定なのでしょうか?
それともここでも日本人の方が、番付効果が大きいのでしょうか?


検証してみましょう!



国籍別に番付と懸賞本数の関係(番付効果)をグラフにしてみました。

交差項

両国籍で、番付効果が認められますが、日本人の方が番付効果が大きいことがわかります。(右上がりの直線の傾きが大きい。)

つまり、外国人力士が頑張って番付を上げたとしても、日本人力士と同じように懸賞金が増える、というわけにはいかないことになります。

まとめ

今回は、力士の国籍によって、企業の懸賞の支払い行動がどのように異なるのかを検証しました。

その結果、力士の国籍以外の性質がほとんど変わらない状況でも、企業は日本人力士を贔屓していることがわかりました。

ただ、ここで注意しないといけないのは、企業が、
・日本人が好きだから贔屓している
・観客が日本人を好きだから贔屓している
のどちらなのかは、厳密にはわかりません

大相撲は2018年ころまでテレビ中継はNHKのみだったため、広告は流せず、懸賞の広告は会場のみに行われていました。

ワンポイントで観られるテレビと比較して、会場は多くの客がほとんどの取組を見ることが予想されます。
したがって、ある程度ではありますが、各取組は観客の好みの国籍に関係なく宣伝効果を持ちうると考えられるのではないでしょうか。

ですので、個人的には「同じ国籍への贔屓」「観客の好みを意識した贔屓」のどちらもあると考えています。

もう1つ気になっていることは、今回の分析は、力士が固有で持っている性質(例えば宇良が持っている「決まり手の面白さ」や、稀勢の里の「ここ一番での勝負弱さ」など)は捉えられません。

そういった固有のものを好んでいる企業もいると思うので、これを今後国籍と共にコントロールできるような分析をしてみたいものです。

ちなみに、最近は各取組にかけられている懸賞本数の詳細なデータを入手できそうなので、頑張ってデータ化を目指しています。

また懸賞金ネタを書く日が来るかもしれませんがその日までお楽しみに!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?