外為特会の外貨を武器爆買いに使うのをやめて円に換えて給付金に使えば、暮らしが楽になって円安が止まる。

何度も言うが、今利上げなんかしたらとんでもないことになるぞ!

物価上昇への円安の寄与の割合は二、三割

目下問題になっている食料品や燃料などの価格上昇には、もともと海外での価格が上がっているという原因のほか、円安も与っていることは事実です。
どのくらい円安が影響しているのかということについては、私も以前のこのノートのエッセーで試算しましたが、円安が激しくなる前の三月までしかデータがない時の計算で、もう適切ではないかもしれません。

最近、森永康平さんが、物価への寄与は、円安分が2割~3割ぐらい、残りはエネルギー価格上昇の影響とおっしゃっていますが、根拠は示されていません。
これを受けて、朴勝俊さんが、エネルギー経済研究所の産業連関分析試算を参考にして、現状見られたようなエネルギー海外価格上昇と円安が起こった時の日本国内物価に与える影響をシミュレーションしています。
それによれば、物価上昇分のうち、約28%が円安によるもので、約72%がエネルギー価格の上昇によるものと計算されました。たしかに森永康平さんのおっしゃったとおりの結果です。

一般に思われているほど大きな影響はないとも言えますが、円安がなくなれば物価上昇の要因のひとつがなくなって、少しは楽になるには違いないですから、円安を食い止めようという志向が世間に出るのはなるほど理解できます。

内外景気格差による内外金利差が円安の原因

ではどうすれば円安を食い止められるのでしょうか。

まず、円安が進んでいる原因から考察しましょう。
円安が進んでいる主要な原因は、日本と海外、特にアメリカとの金利差にあります。日本の金利のほうが低いので、日本でお金を借りて海外で運用したらもうかりますので、円を売って外貨に換える動きが強くなり、円安になるというわけです。(これも以前このノートのエッセーで説明しましたので、詳しくはそちらをご覧ください。)

ではなぜ日本と海外の金利差が広がったのでしょうか。
それは、海外、特にアメリカで、インフレが高まっているので、中央銀行がインフレ抑制のために利上げをしているのに対して、日本の中央銀行である日本銀行(以下「日銀」)が大規模な金融緩和を続けて金利を抑え込んでいるためです。

日銀批判し金利引き上げを求める声に同調していいのか

これを受けて、多くの野党もマスコミも、日銀ケシカランという批判を始めています。
こういう批判をするということは、「日銀は金融政策で円安になるのを食い止める政策をとるべきだ」と考えているのでしょう。つまり、アメリカはじめ諸外国の中央銀行が利上げしているのに合わせて、日本も利上げをして、金利差の拡大を防ぐべきだという主張だと言えます。

こういう日銀批判を立民さんが言っていることについては、さもありなんと思うだけですが(共産党さん、社民党さんも同様なのは残念なことだと思いますが)、れいわ新選組の一部の支持者や一部の関係者の中にも、こうした風潮が広がっているように感じられるのは困ったことです。

日銀の政策を決める日銀政策委員の承認人事案は、衆参どちらの院で否決されても通らない案件で、与党で造反が出て、一人、二人の差で賛否が変わることもあり得る性格の問題ですから、目下の参議院選挙でこの件についての認識を旗幟鮮明にすることは、ほかのどこよりもれいわ新選組にとって重要なことです。
東南アジアに怒涛の企業進出がなされ、自公維が改憲等、それを実力で守る軍事強国化への道をひた走る中、それにストップをかけることを望む有権者にとって、経済のことがわかっている選択肢があるかどうかは大問題なので、そこはどうかしっかりしてほしいと思っています。

利上げするのは景気の加熱を冷やしてインフレを抑えるため

アメリカをはじめとする諸外国が利上げでインフレを抑えようとしているのは、景気が加熱して総需要(=いろいろなモノやサービスを買おうとする力)が強すぎるせいでインフレになっているのだと判断しているからです。
金利を上げる手段は、こんなふうに需要が加熱してインフレになっているときに、総需要を冷やすためにとられる手段です。
なぜなら、金利を上げると、お金が借りにくくなりますから、企業の設備投資や庶民の住宅建設など、大きな買い物が、ちょっと今はやめておこうということになります。すると、もしそれが発注されていたら発生していたはずの所得が生まれませんので、その所得があったら生まれていたはずの消費需要も生まれず、その分景気が冷やされるわけです。

売り上げ停滞下で輸入コストが上がって業者の首がまわらなくなっているのが日本

でも今の日本は状況が違います。
景気が加熱しているわけでは全然ありません。統計の得られる最新の1ー3月期の名目GDP(原系列)で見ると、2020年以来毎年、前の年の同じ期と比べて低下し続けています。物価が上がっているなら名目額は上がりそうなものなのに、下がっているのです。
就業者数もまだまだコロナ前に戻っていません。四月の家計の実収入は、物価が上がっているのに、名目で前の年の四月よりも減っています。

所得が停滞している中で、燃料や食料のように、どうしても買わないといけないものの値段が上がっているのです。だから、それ以外のものへの支出は節約することになります。
それゆえに、インフレ、インフレと騒がれていますが、家電製品類や履き物など少なくない項目で、最新データの四月でも前年同月と比べて価格が下がっています(五月もあまり変わりはありませんでした)。節約志向で買ってくれないので、値段を下げるしかないのです。

業者の側としては、燃料や輸入穀物の値段が上がって、コスト増になりますが、売値を下げなければ売れない。そこまでなくても、コスト増をまるまる売値に転嫁するなんてことはとてもできないということになります。
四月の企業アンケートでは、七割の企業が、コストの売値への転嫁が全くできないと答えています。三割弱はこの時点ですでに赤字です。
四月分の物価統計では、外食がわずかですが物価が下がっています(五月はさらに下がっていました)。外食って、コスト上昇が著しい部類に入ると思います。大丈夫だろうかと心配になってきます。

円安が止まることの輸入インフレへの影響は限定的だが、利上げが売り上げを冷やす効果は容赦無くくる。

こんな状態で、総需要を冷やしてインフレを抑える手段である利上げをしたらどうなるでしょうか。
たしかに、円安は収まって、円高方向に動くのは間違いないと思います。
でも、燃料や穀物などの輸入物価上昇は、円安だけが原因ではなく、もともとこれらの海外価格が上がっているのが主因です。上記のとおり、七、八割はそっちです。円安を止めることによるインフレ抑制効果は限定的であることは違いありません。

それに対して、総需要を冷やす効果は容赦なくきます
今、アメリカでは、中央銀行が利上げをした結果、景気が後退するだろうとみなす専門家が多いです。当局もそれは承知の上で、あそこまで景気が加熱していれば、多少景気後退してもすぐ持ち直せるとの見立てで進めているのでしょう。
それぐらい、利上げでインフレを抑える政策は、微妙な調整が難しく、インフレを抑えるはいいが、すぐ景気を後退させてしまうリスクを持ちます。(なので、多少景気が後退しても、すぐに持ち直せる仕組み——例えば、プラスのインフレ予想が共有されていれば、金利をゼロ近くに下げると実質金利をマイナスにすることができて、ゼロ金利にぶつからないですむなど——を作ることが大事だとされます。)

今の日本は多くの業者がギリギリもっている状態なので、アメリカよりはるかに大変です。いわゆる「正常化」とされるような金利にも満たない、ほんのわずかの金利上昇にも耐えられないでしょう。
金融緩和が手仕舞いに動き出すと、政策金利がプラスになる前に市場金利は上がり出します。わずかに上がるだけで、まず多くの設備投資が断念されることになると思います。

たしかに、これだけ円安が進めば、輸出需要はおこってくるかもしれません。しかし、コロナ不況で内需は焼け野原。内需は、まだまだ持ち直すには時間がかかるところです。
コストが上昇しても価格に転嫁できない業者は、そうした内需を相手にしている人たちです。利上げで総需要が冷やされるとひとたまりもありません

利上げすると弱い業者ほど打撃を受ける

特に、利上げで設備投資を断念せざるを得なくなる事態は、資金力の弱い零細な業者から先にくることを認識しておかなければなりません。
しかも、コロナ支援融資の無利子期間の期限や返済開始も迫ってきています。まだコロナの打撃が癒えていない業者は、金利が上がると借り換えが難しくなります。事業を続けられないところが続出するでしょう。
金利を抑える政策が、円安でトヨタのような輸出大企業をもうけさせるというイメージばかり抱いて反発していたら間違えてしまいます。利上げで一番弱いところに打撃が行くことを理解しないといけません。

輸入インフレで運転資金額が上がるので利上げは打撃。
海外価格上昇に影響されない経済を作るためには利上げしてはならない。

前回6月12日のノートエッセーでは、今利上げをしてはいけない理由について、さらに二点追加して説明していますので、下に再掲します。

2)コストが上がると仕入れに必要な金額が増えるので、必要な運転資金の金額が増える。すると、金利が上がると、小さな事業者は運転資金の手当ができなくなって、事業を続けられなくなる。

3)コスト高でもたらされるインフレを止めるための根本的な解決法は、国内の生産能力を高めて、海外での価格上昇の影響を受けにくくなることである。そのためには、今は設備投資をする必要があるのに、金利が高くなると上述のとおり設備投資の妨げになる。
特に、エネルギー転換や、大地震に備えたバックアップ生産体制のための設備投資が必要で、公費で手当できる補助は最大限するとしても、リスクのあることは民間で引き受けてもらわなければならないので、必要な民間設備投資はやはり大規模なものになるだろう。
そのうえ、2011年頃の超円高が、優秀な中小企業の国外脱出を多数生んだことから裏を返せば、企業の国内回帰を進めるには、まず前提条件として円安が必要であり、むやみに円高リスクをもたらす政策はとれない。

さらに、このあともうしました「次のパンデミックに備えた医療体制の充実のためにも、大地震などの災害への備えのためにも、コロナ禍からのひとびとの暮らし・なりわいを回復させるためにも、今はまだまだ税収以上の政府支出は必要です。そのためには、国債を日銀が買って支えることはやめるわけにはいきません」ということも改めて強調しておきましょう。

利上げして利子補助すると国際金融ブルジョワジーに公金をわたす

なお、円安を食い止めるために利上げはした上で、利払いする業者が困らないように利子補助すればいいというご意見もあるだろうと思います。

まず、為替相場を動かしているのは、国際的な資金移動を行なっている大金持ちの手先や投機的な金融業者だということにご注意ください。利上げをすると、彼らが日本に資金を移すともうかるようになるからこそ、円安が止まるわけです。
利払いに公金を入れるということは、国際的な大金持ちの手先や投機的な金融業者のために、公金を使うということです。補助の対象が中小零細事業者や一般個人だったとしても、彼らの払った利子をたどっていくと、国際的な大金持ちの手先や投機的な金融業者に行き着くということは、十分にあり得ることです。

利上げして利子補助すると社会のニーズから外れた事業に公金をわたす

また、後述の燃料費補助のようなものでしたら、目の前で需要があったら生産が行われて燃料を使い、目の前で需要がなければ生産が少なくて燃料をあまり使わないというまでのことですので、大雑把には、社会でニーズがある生産のために公金が使われることになります。

しかし、利子は、社会にニーズがあるかどうか不明の段階で決まる借金に対してかかるものです。そうすると、社会にニーズがない無謀な事業や投機的な事業のための借金にかかる利子にまで、公金で補助を入れていいのかという問題が出てきます。一般個人まで対象に含めると、なおさらそういうケースはたくさん出てきそうです。

ややこしい基準で選抜するとコロナ支援金の狂騒の二の舞

そこで何か線を引くとすると、本当は社会的ニーズの高い事業なのに単に不況のために利益が出ていないものとか、もともと慈善的性質の事業などをどうするのかという問題が出てきます。
結局、ややこしい基準を作っていくしかなくなりますが、そうなると、書類準備が一苦労になったり、審査に時間がかかったり、基準を作るときには見落としたり、気がつかなかったりしたさまざまなケースに直面して、たくさんの理不尽が生み出されるでしょう。コロナの支援金のときの狂騒が、輪をかけて再現されることになります。
コロナ支援金のときと同様、たくさんの業者が理不尽に見捨てられる一方で、やっぱり巨額の不正受給を防ぐことができないということになるでしょう。
なので、利子補助という解決法は筋悪だと言えます。

これまで私が述べてきたコストプッシュ・インフレ対策

以上、総需要加熱を冷やすための政策である利上げ政策を、総需要が停滞する中でコストが上がる現在とるわけにはいかないことを述べてまいりました。それでは、総需要が停滞する中でコストが上がるインフレのケースでは、どのような対策が考えられるでしょうか。
これは日銀に独自に打てる手はなく、政府がとる対策を支えるのがその役割であるということを、まず押さえてください。
その上で、これまで私がこのノートエッセーなどで訴えてきた政策をまとめておきます。

長期的には国内供給力増強とエネルギー転換

長期的には、このあと何度、海外で物価が高騰しても円安になっても平気なように、企業の海外移転の動きを逆転させ、いろいろなものを国内で作ることができる供給能力を備えることが重要です。
何も、無理やり何でも自給自足する必要はありません。しかし、海外価格が高騰するなどして、条件が変わった時に、スムーズに国内生産がはじめられるような能力は備えておくべきです。
例えば、政府が公定価格で備蓄用穀物を買い取ることにすれば、備蓄生産の農家が維持され、いざ海外穀物価格が高騰したら、備蓄の放出とともに、備蓄農家が一般市場向けにも供給することで、需要を満たすことができるでしょう。

また、原油や天然ガスの価格に振り回されないよう、再生可能エネルギー転換や住宅の断熱リフォームを進めて、化石燃料に依存しない経済を作ることも大切です。

そして、上述のとおり、企業の海外移転をさせず、むしろ国内回帰を進めるためには、円高を防ぎ、適度な円安を維持することが必要です。
たしかに現状の円安は行き過ぎだと思いますが、むしろこれをチャンスにして国内回帰が進むよう、今のうちに施策を打つべきだと思います。

中期的には海外に追いつく景気回復

中期的には、今回の円安の原因である内外金利差の背景にある内外の景気格差を解消することが必要です。
そのためには、上記「長期的には…」であげたことや、下記「短期的には…」であげたことのために、大胆に政府がお金を使うことや大衆減税が必要です。そうやって政府が仕事を作ったり庶民の負担を減らしたりすれば、人々の可処分所得が増えて消費も増えるので、また世の中に需要拡大と雇用増が波及していきます。
中央銀行が大胆にお金を作り、政府が大胆に使う。バイデン政権はこれを「高圧経済政策」と呼んで実行しましたが、その結果、あっという間にコロナ不況の中から景気は拡大し、加熱状態にまでいきました。こうした効果があるということについては実証済みと言えます。

やがて景気が拡大すれば、資金を借りたいという力が強くなって、市場金利は自然と上がっていきます。

さらに、どこもかしこも人手不足というところまでいけば、賃金も上がり、だんだんと国内生産が需要に追いつかなくなって、景気加熱によるインフレの心配をする局面に移っていきます。
それを見極める指標として何が適切なのかは、現在でも学術的にはいろいろな意見があるものと思いますが、とりあえず現日銀も含む大方の専門家の合意する世界標準としては、「生鮮食料品およびエネルギーを除く総合」、いわゆるコアコアインフレが使われます。これは、現在の最新データの4月では、まだ0.8%です(追記:5月も同じでした)。一応これが長期的安定的に2%になることが現在の目安となっています。(もっと高い目安が適切ではないかとも思うが、その変更には民意の同意が必要であろう。)
この目安を超えるということになれば、今度こそ、日銀が金利を上げて加熱した需要を冷やす番になります。

内外金利差は、このようにして解消されるべきものです。
もしそうなれば、為替相場は円高の方向に戻るでしょう。むしろ、円高になりすぎないように苦労するようになると思います。

なお、中期的な時間感覚で言えば、円安で海外からの観光客が増加するとか、やがて一、二年もすれば輸出の数量も増え出すとか、輸入代替国産品が伸びて輸入が減り出すなどの結果、円安の進行が止まる可能性は高いと思います。若干円高方向に戻すかもしれません。
多少でも輸出が増え出したら、アメリカのバイデン政権は製造業の国内回帰を大スローガンにしていますので、円安をなんとかしろとの圧力がアメリカからかかる可能性も高いです。
また、今後アメリカの利上げが効きすぎて景気が後退したり、さらにそれに対応してアメリカで利下げがなされたりしたら、やはり円安にストップがかかって、円高方向に戻すと思います。

短期的にはコストプッシュ要因の除去

短期的には、総需要停滞下で燃料費や小麦などと同様、コストを上げて業者を圧迫し、庶民に負担をかけている原因になっているものを除去することが最も重要です。
そして、物価高で起きた庶民の損失を補ってあげることが必要になります。

だから、まず第一に消費税を下げること。これが問題解決のほとんどを占めると思います。
(私見ではなるべく早く廃止を目指すべきだが、経過措置としては、せっかく軽減税率に対応したシステムができているならば、食料品からまず無税にすることも一案として検討すべきである。)
それから、燃料関係の間接税や、海外価格高騰品にかかる関税類を一時的に引き下げたり停止したりすることが有効です。

燃料関係の間接税には、化石燃料の節約を促す効果がありますので、引き下げたり停止したりすることには反対の意見も聞きますが、そもそも原価の値上がりだけでも節約は促されます。日本での売値が原油高騰が始まる前よりも下がらないことを限度に税率を引き下げればいいだけです。
国内産業保護を目的とした関税も同様で、日本での売値が価格高騰が始まる前よりも下がらないことを限度に関税を下げれば、産業保護の目的は以前より侵されることはありません。
(コスト要因と言えば賃金もそうですが、賃金は需要要因としても重要です。賃金を下げたら消費需要が減って大変なことになります。)

目の前で円安の急な進行を抑える策はあるか

税制改革案を目立たせて野放図な総需要拡大懸念の誤解を払拭させる必要

さて、以上の見解は、基本的にれいわ新選組も言っていることですが、これだけではまだ不安に思う有権者がいらっしゃるかもしれません。

そもそも以上の話の中には、今緊急に円安の進行自体を食い止めようという政策は入っていません。
その一方で、減税や政府支出の増加はメニューに入っていますので、利上げなき国債発行による政府支出は増えることになります。つまり、総需要が拡大することによるインフレ圧力は、以前より増大することになります。
たしかに、インフレと言っても、暮らしと営業を支える政府支出がなされ、それによる景気拡大で賃金や事業者の所得が上がったり、減税で購買力が増えたりする中でのインフレなら、事業者もコストが売値に転嫁できて息がつけるし、消費者の生活水準が下がるということもないかもしれません。年金等々も同様に上げていけばいいとは言えます。

しかし、インフレそれ自体は、経済計算を困難にします。将来についての不確実性を増大させます。なので、インフレが進まないにこしたことはありません。
何より、賃金も上がるから大丈夫ということだけでは有権者の納得は簡単には得られないのではないでしょうか。

もちろん、所得税の累進強化による富裕層増税や、法人税の消費税導入以前水準への増税と累進制導入による大企業課税、金融所得課税強化、高額資産への課税等々、れいわ新選組が衆議院選挙マニフェストで掲げたような税制改革案を目立つように掲げ、野放図な総需要拡大でインフレを悪化させるのではないかという懸念を払拭する必要はあるでしょう。
それに加えて、何か目の前で即、円安の急な進行を抑える力がかかるような方法はないでしょうか。

円安による輸出の「棚ぼた」利益や海外収益に増税して輸入物価対策に使えば円安進行へのブレーキ要因になる

以前このノートのエッセーで私が提唱したのは、円安によって、輸出産業は何も輸出生産を増やさなくても、ただ売値を円で測った金額が上がることで「棚ぼた」の大もうけをするので、そこに臨時の課税をすればよい。それを円安による燃料や穀物のコスト上昇による損を埋める補助金に当てればいいということでした。

そのときは触れませんでしたが、海外に企業を出したり海外で資金運用したりしたときの収益についても、やはり円安で形の上で金額が膨らみますので、それも課税して同様の支出にあてるのがいいと思います。こちらは、臨時ではなく、企業の国内回帰を促すための作戦として、海外収益の課税強化を制度的に導入すべきものです。
どちらのケースも、税金が増えれば、それだけ外貨を円に換えなければならないので、円安進行へのブレーキ要因にはなります。

これについては反対が多いだろうという批判もありますが、世論の多数の支持のもとに国会の多数派が法律を作って推進すればいいので、今の段階で世論に訴えることは必要なことです。

外為特会の外貨を武器爆買いに使わずインフレ救済に使えば円安進行へのブレーキになる

外貨準備が生む運用益が武器の爆買いに使われてきた

でもですね、為替相場を目の前で即動かすと言えば、為替介入があるじゃないですか。
いやもちろんわかっています。為替介入は金融政策と同じ方向を向いていないとなかなか大きな効果が出ない。今は同じ方向ではない。
それだけではなくて、将来必ずくる南海トラフ地震のときに、東海工業地帯とかの工業地帯が軒並み大被害を受けたら、輸出がガタ減りして、しばらく復興に必要な資材も含め輸入に頼るかもしれない。そうしたらそれを見越して円価値の急落が起こるかもしれませんので、そのときに円価値の下落が経済に打撃にならないようにコントロールするために、外貨売りの介入をする必要が出てくるかもしれない。そのときのために、外貨準備は維持しておかなければなりません。

それはわかっているのですが、まず、外貨準備を外債で運用して得られた収益が毎年2〜3兆円あります。これは使ってしまっても、外貨準備の規模は縮小しません。
これまで、外為特会の剰余金と呼ばれるこの収益金については、誰でも政府支出の財源として目をつけがちなので、よく「これを円に換えて一般財源に使ったら円高になってしまうからダメ」という理屈を立てて、だいたい半分ぐらいは武器の爆買いに、半分ぐらいは外債(主に米国債)の積み増しに使われてきたことを正当化してきたと思います。

それを武器の爆買いに使わず円に換えて人々の暮らしのために使えば、円安進行へのブレーキになる上、景気もよくなる

しかし、これだけ円安が進んでいるなら、「円高になってしまうからダメ」という理屈は通用しませんよね。円安が急に進みすぎないためのブレーキになるのなら、かえって望ましい状況です。
だったら、武器の爆買いや外債の積み増しはこの際やめて、この分を円に換えて、例えば、物価高の影響を補うために、人々への一律の給付金にまわしたらどうでしょうか。赤ちゃんも含め、一人当たり二万円ぐらいにはなります。
これは、円安の進行にブレーキをかけるための為替介入をするのと同じです。ただし単なる為替介入なら円を受け取って終わりですが、この場合はそれを人々の暮らしをよくすることのために使い、その結果として、景気が良くなって雇用も増えるわけです。

用途は、もっと別のものでもいいのですが、円安の進行を止めるという課題がなくなったら終わりますので、あまり長いこと継続するものには使えません。

溜め込んだ外貨のうち20〜30兆円はこのために使っても大丈夫だろう

2〜3兆円では為替を動かすには足りないと言われればそのとおりでしょう。平時なら円高になるでしょうけど、内外金利差が拡大する中では力不足です。これまでの経験では、円相場が一方向に動く中でそれに逆らう為替介入は、年間で一桁規模が大きいものです。
それならば、外貨準備がこのかんの円安によって円で測って膨らんだ「含み益」も加えたらどうでしょうか。コロナ禍の円高のピークの1ドル103円ぐらいから比べると33円ぐらい円が安くなっています。外貨準備高1.3兆ドルに33円をかけると43兆円ぐらいになります。すごいもうけですね。

いや、そもそも万一の円暴落に備えるために重要なのは外貨の量なのであって、円評価で膨らんだり縮んだりするのは関係ないと言われるかもしれません。
しかし、1.3兆ドルというのは世界第2位の外貨準備で、とんでもない巨額です。こんなのに勝てるヘッジファンドはありません。明らかに過剰なので、今より多少減っても問題はないと言えます。
また、次に円高局面がきたならば、躊躇なく円高を抑える為替介入をすべきなのであって、そうすれば外貨準備はどうせまた積み増されます。

そう考えれば、外為特会のお金のうち、20兆円から30兆円分ぐらいは、円転換して、物価高の影響からの救済策のために使えるではないでしょうか。これくらい使えば、円安が急に進みすぎることにブレーキをかけ、輸出品や輸入代替国産品の生産が増え出すまでの間、経済に対する打撃が極小になるようにコントロールすることはできるでしょう。

後注:富山大学名誉教授の桂木健次先生から、外貨準備はニューヨーク連銀への準備預金とされ、それは「太平洋戦争への賠償代替の意味合いがあって、単なる預けではなく、為替介入の取崩しにも制約あって、崩した分への後日補填が要する」とのご指摘がありました。
後注の後注:桂木先生によれば、サンフランシスコ条約の付帯文書にあったはずとのことです。確認をとる方法がわかりません。あったとしてまだ有効なのかもわかりません。ご存じのかたはぜひご教示ください。(6/25)