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連載第3回 若手弁護士にとっての『法学部生のためのキャリアエデュケーション』の活用方法


1 はじめに


弁護士で、学習院大学特別客員教授(キャリア教育担当)の松尾剛行による『法学部生のためのキャリアエデュケーション』の出版を記念し、3回に渡る短期集中連載として、読者のカテゴリーごとの同書の活用方法を紹介したいと思います。第1回では法学部生にとっての『法学部生のためのキャリアエデュケーション』の活用方法として、本書を基にした「ワークシート」を活用してキャリアについて考える方法を紹介し、第2回は若手法務担当者にとっての本書の活用方法を紹介しました。


以下では、連載第3回(最終回)ということで、弁護士向けの本書の活用方法を紹介します!

2 弁護士のキャリアの無限の可能性


若手弁護士の皆様の中には、即独した人もいるだろうし、事務所に就活した人もいるでしょう。しかし、現代においては、決して、「最初にどこで働くかが決まれば、もうキャリアについて考える必要がない」、ということではありません。
法律事務所で働くキャリアとして、以下のような様々な可能性が広がっています。

・ 企業へ出向して企業の実情を理解し、より良いサービスの提供や転職に活かす
・ 任期付公務員として、法執行や立法の実情を理解し、より良いサービスの提供や転職に活かす
・ 社外役員として、より良い経営上の意思決定に貢献する
・ 大学教員又は在野研究者として教育、研究活動を行い、理論と実務を架橋する
・ 団体(弁護士会、派閥を含む)・協会等で仲間と社会貢献活動を行う
・ 副業として(有償でまたは無償で)プログラミング、ITサービス提供、(法律事務以外の)コンサル等を行う

また、既にインハウス 弁護士の人数が3000人を超えており、企業内でのキャリア(連載第2回参照)も重要です。

確かに、このような可能性の広がり自体は素晴らしいことではあるものの、可能性が豊富過ぎることは、「キャリアの迷子」になる可能性も高まっていると評することもできます。だからこそ、自分のキャリアデザインを考える重要性が高まっています。

3 若手弁護士のための本書の活用法



本書以外に筆者は同シリーズの『キャリアプランニングのための企業法務弁護士入門』も著していますが、以下が特に本書(『法学部生のためのキャリアエデュケーション』)のうち若手弁護士に役立つと考える部分です!

(1)ポートフォリオ的に柔軟にキャリアの可能性を発展させる方法を知る


自由にキャリアを形成していいと言っても、本当の意味で自由ではないという問題意識を持たれる方もいらっしゃるでしょう。ある程度経験を積んで実績を持ち、関連する資格等を得なければ仕事は来ないし、来ても適切に対応できない訳です。とはいえ、世の中が複雑で激しく変動するVUCA(volatility, uncertainity, complexity, ambiguity)時代、どの方向でキャリアを発展させるかを早い段階で決められるか、決めていいか等は悩ましいところです。
そのような中で、本書は「ポートフォリオ的にいくつかの将来のパターンに対してベット(賭け金を積む)してキャリアを形成する」という考え方を紹介しています(本書107−108頁)。自分の「強み」にすることができる限度で、かつ、柔軟な対応にも備えるということであれば、通常は2~3 分野程度にベットするのがちょうど良いでしょう。そして、そのようなベットすると決めた分野について知識と実務経験(そしてそれを証明する資格等)を獲得していきましょう。事務所内でそのような分野を中心的に経験させてもらう、副業的働き方(事務所所属であれば出向や個人受任)をする等の方法が考えられるでしょう。なお個人受任等は、事務所の方針との関係もありますし、事務所事件と個人受人のバランスが取れなくなるリスクには注意が必要です(149−150頁も参照)。

(2)事務所内でキャリアを発展させるか独立するかを悩んでいる若手弁護士の悩みに答える



筆者は結局事務所内でキャリアを発展させることを選び、新人として入所した企業法務事務所のパートナー弁護士となりましたが、若手弁護士の中には、事務所内でキャリアを発展させるか独立するかを悩んでいる若手弁護士もいるでしょう。本書第6章では、組織内のキャリアと独立した場合のキャリアの違いについて説明しているます。ある程度の大きさの組織を想定すれば、組織を使うことで大きな資源(人、モノ、カネ)を得られるが意思決定の時間や労力は必要です。これに対し、独立した場合であれば、自分がそう決めればそのように対応できるという意思決定の時間労力面で大きなメリットがある訳ですが、当然のことながら資源については限界があります。また、組織であれば、上から仕事が振られます。これに対し、独立した場合であれば、自分が受けたい依頼の割合を高めるため、ブランディング等を通じた営業活動をする必要があります。
このような比較を踏まえて、本書148頁以下ではアソシエイト弁護士、パートナー弁護士、独立等、弁護士に即した対応を説明しています。

(3)AI時代の弁護士のキャリアを知る


 AI時代に関する対応として、一般民事弁護士であれば比較的対応できる可能性が高いと言えます。つまり、必ずしも法律の専門家ではない一般民事の依頼者はAIに正しい質問をすることや、AIの回答を自分の事案に適切に利用すること等に限界がある以上、(一般民事)弁護士こそがAIを活用する(AIに支援される)という立場にあり、コミュニケーション等も含めたAIだけではできない多くの付加価値発揮の余地があります(本書187頁)。
 もっとも、企業法務の場合には(大企業で法務部門がしっかりしている依頼者を前提とすると)依頼者が法律の「プロ」でありAIに正しい質問をすることや、AIの回答を自分の事案に適切に利用することが依頼者自身でできてしまう、という点で確かにチャレンジングではあります。とはいえ、筆者自身が企業法務弁護士でもあるところ、以下のAI時代の付加価値(本書185頁)の観点を踏まえた対応を提案しています(本書187−188頁)。

具体的事案に照らしてAIに尋ねるべき内容が何かを考える
AIの提示する一般論を具体的事案に提示する
コミュニケーション
意思決定及び責任の引き受け
ルール作り、組織体制作り
AIと異なる「この人」の独自の意見が聞きたいと請われる
ニッチでデータが少ない分野の専門家の業務
AI企業へのサービスの提供

『法学部生のためのキャリアエデュケーション』185頁

4 本書を利用してキャリアについて考えたい若手弁護士の方へ



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*本エントリは早稲田大学博士課程宋一涵さんに支援いただいた。ここに感謝の意を表する。

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