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連載第1回 法学部生にとっての『法学部生のためのキャリアエデュケーション』の活用方法


1 はじめに

弁護士で、学習院大学特別客員教授(キャリア教育担当)の松尾剛行による『法学部生のためのキャリアエデュケーション』の出版を記念し、短期集中連載として、学生の皆様、若手法務担当者の皆様、そして若手弁護士の皆様にとっての同書の活用方法を紹介したいと思います。第1回では法学部生にとっての『法学部生のためのキャリアエデュケーション』の活用方法として、同書を踏まえて自分のキャリアを考えるための「ワークシート」を紹介したいと思います。


2 法学部での学びはキャリアに活かせる!


法学部では、①規則正しく処理する力、②法律の「ものの見方」、そして、③周囲を説得する力を学ぶことができます。
 
①規則正しく処理する力については、例えば、テストで結果的に誤った回答をした人について、0点にするのか50点にするのかといった問題について一定の基準を立てて、誰に対しても公平に行うということは、どのような仕事を遂行する上でも重要です。例えば、途中まで思考過程が示され、それが正しければ、結果的に誤っていても部分点で50点をあげる、でも、思考過程が示されていなかったり、示された思考過程自体が誤っていたりすれば0点とする、このような形で規則正しいルールを制定し、これを平等に適用していかなければ、不透明で場当たり的な取り扱いになりかねません。法学部においては、ルールの典型例である「法律」を用いてこのような規則正しく処理する力を習得することができ、これが社会に出てから活用できます。
 
②法律の「ものの見方」については、例えば、「罰を与える手続きに重大な問題があれば、その人がどのような悪いことをしたか(実体)はともかく、その人に罰を与えてはいけない」といった、個々の法律の知識に留まらない、広い意味の法律家としての物の見方、考え方のことです。もちろん、法学部の授業は「憲法」「民法」「刑法」のように、それぞれの法律ごとに提供されることが多いでしょう。しかし、その学びは、単にその法律に詳しくなるというものに留まらず、法律のものの見方の習得につながります。社会に出てからも、「この問題は法律の観点から考えるとどう見えるだろうか?」という新たな視点から光を当てることができます。例えば、誰かにペナルティを与える際に、その人の言い分を聞き取る等の手続きはしっかり行っているのか、といった観点の問いかけをすることが考えられます。
 
③周囲を説得する力について述べると、大学入試までと異なり、社会に出れば「正解がない話」が多いと言えます。例えば「会社の社長が公共プロジェクトを受注するため、政治家の配偶者が代表を務めるペーパーカンパニーに『コンサルティング料』を払おうとしており、周囲に『賄賂ではないか?やめたほうがいいのでは?』と言われてもいうことを聞かない」という状況を考えてみましょう。このような状況において、「どうやって社長を説得して諦めさせるか」という点に正解はありません。そして、大学生活、典型的には法学部における学生生活は、このような正解がない社会人生活の準備段階と評することができます。法学においては、様々な見解が対立する中で、教員が自説を説得的に説明することを試みます。また、ゼミ等の少人数授業では、グループワーク等で、周囲を巻き込んで、自分の考える方向性で多くの人たちを動かしていく力を培うことができます。社会に出てからは、法学部で学んだ能力を生かし、正解のない状況において、他者を巻き込んで、自分の考える方向性を「正解にしていく」のです。
 
このように、法学部での学びは、単に単位がもらえるとか大学を卒業できるといったものにとどまらず、社会で活躍する上での基礎を身につける過程と評することができるでしょう。
 

3 本書の紹介


本書は、AI時代において法学部生がどのようにキャリアを考え、そのキャリアに生かせるよう、どのように大学時代の4年間を有効活用できるかに関するヒントを、キャリア教育の授業の教科書として、体系的にまとめたものです。前半はキャリアを考えるヒントとして、ポリシーを持つことの重要性、ビジネスの視点、終身雇用が終わったと言われるけれどもどのようにキャリアを考えればいいか、どのようなスキルを習得すべきか、ワークライフバランスをどう身につけるか等を説明しています。後半は、法学・法律・法務系キャリアとして企業内で法律を生かす法務部門におけるキャリア、弁護士等の法曹のキャリア、公務員のキャリア、そして立法に関与するキャリアを紹介します。最後に、AI・契約レビューテクノロジー協会というリーガルテック業界団体の代表理事として、ChatGPT等のAIやテクノロジーがますます発展する中におけるキャリアの方向性を検討しています。
 

4 学生のための『法学部生のためのキャリアエデュケーション』の活用方法


本書を活用して学生の皆様、典型的には法学部生の皆様が学生生活を充実させ、今後のキャリアにつなげるための本書の「有効活用法」として、以下のワークシートを準備してみました。本書を読みながら、以下の5項目を検討してみましょう。もし、その結果として読者の皆様の学生生活、そしてキャリアがより充実するのであれば、筆者としては大変幸いです。
 
1 キャリアアンカー(→第1章4(6))になり得る、自分にとって大事なものを探してみよう(→第1章5(1)。これはある意味で相対的であり、もちろん「大事」なものは多数あるのだろうだが、全部をやることはできない以上、優先順位をつけて選ばないといけない)

1−1 好きなもの

1−2 得意なもの

1−3 世の中が必要とするもの

1ー4 お金(賃金、報酬等)を払ってもらえるもの

2 ロールモデルを探してみよう(→第1章5(3))。誰か「一部」でも、自分の参考になる人はいるか、その人のどこが参考になるか、どうやれば探せそうか。

2−1 自分の身近にいるロールモデル(家族、知人等)

2−2 学内のつながりで探すロールモデル(ゼミのOG・OB、サークルのOG・OB、その他学内のOG・OB会等のリソースで繋がることができる方)

2−3 学外のつながりで探すロールモデル(バイト先、インターン先等)

2−4 その他(メディア等を通じて調べる。但し、SNS等で取り上げられている「カッコいい先輩」がそのままロールモデルになるとは限らない。これに対し、「困難に直面し、それを乗り越えた」人であれば、むしろその困難に立ち向かう方法の部分がロールモデルになるかもしれない。)

3 新しいルールの「ゲーム」(→第1章1(3))で有利になるため必要なものをどこまで持っているか

3−1 キャリア知識(→第1章2(3),3(1),(3))

3−2 ビジネス知識(→第1章3(2))

3−3 法律知識(→第1章2(2))

3−4 プラスアルファ(英語、IT、数字?→第1章Column,第4章)

3−5 上記を踏まえた自分の強み(→第4章Column)

3−6 上記を踏まえた自分の(現在の、相対的な)弱み(→第4章Column)

4 将来の自分の姿を想像してみよう

4−1 大学卒業直後(→第1章4)

4−2 15年後(大学卒業の約10年後)

4−3 25年後(大学卒業の約20年後)

4−4 もっと先?

5 上記を踏まえてより良い自分の将来の姿を目指す上で今(大学在学中)にやっておくべきことと優先順位付け(→第1章5(4))

5−1 授業、キャリアセンター、図書館等の学内のリソースを活用した活動(→第1章1(4),5(3))

5−2 部活・サークル・バイト等の学外における活動(→第1章1(4),3(2))

5−3 その他(留学?)

参考

以下が本書の目次です。なお、有斐閣のHPには、細目次及び立ち読み用のサンプル(冒頭数ページ)、そして3本の特別コラム等が掲載されているのでご参照いただきたく存じます。



第1章 法学部生のキャリアの可能性
第2章 キャリアとの関係におけるビジネス概論――法務の観点から
第3章 終身雇用時代の終わりとキャリア
第4章 スキルセットとリスキリング
第5章 多様化時代のワークライフバランス
第6章 副業時代の「自立」と「自律」
第7章 労働法による労働者の保護
第8章 企業内における法務担当者としてのキャリア
第9章 法曹のキャリア
第10章 公務員のキャリア
第11章 立法に関与するキャリア
第12章 AI・リーガルテックの発展とキャリアの将来像
おわりに

Column
 法学部生が法学以外を学ぶ意味,他学部生が法学を学ぶ意味
 戦略と実践(オペレーショナルエクセレンス)
 MBA理論のキャリアへの応用
 弱みを補うか,強みを伸ばすか
 タイパ(タイムパフォーマンス)
 ポートフォリオ的なキャリア形成と相性の良い副業時代
 パターンを知る
 経営にますます重要な影響を与える企業法務の未来像
 弁護士にキャリアデザインが必要な時代の到来
 公務員とビジネスとの密接な関係
 反対派のことを常に考える
 変わらないために変わり続けることの必要性

特別コラム1 将来のキャリアを見据えて現在何をすべきか

https://www.yuhikaku.co.jp/static_files/12650_specialcolumn1.pdf


特別コラム2 終身雇用時代が終わったと言われる時代において,目の前に開かれている多様なキャリアの可能性

https://www.yuhikaku.co.jp/static_files/12650_specialcolumn2.pdf


特別コラム3 英語等の外国語を使ったキャリア
https://www.yuhikaku.co.jp/static_files/12650_specialcolumn3.pdf


*本エントリは早稲田大学博士課程宋一涵さんに支援いただいた。ここに感謝の意を表する。

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