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連載第2回 若手法務担当者にとっての『法学部生のためのキャリアエデュケーション』の活用方法


1 はじめに

弁護士で、学習院大学特別客員教授(キャリア教育担当)の松尾剛行による『法学部生のためのキャリアエデュケーション』の出版を記念し、短期集中連載として、読者のカテゴリーごとの同書の活用方法を紹介したいと思います。第1回では法学部生にとっての『法学部生のためのキャリアエデュケーション』の活用方法を紹介し、本書を基にした「ワークシート」を活用してキャリアについて考える方法を紹介しました。
第2回は若手法務担当者にとっての本書の活用方法です。なお、ここでは、企業の法務部門に所属している人という意味で使っていますのでいわゆるインハウス弁護士の方も本記事をご参照頂ければ幸いです。

2 法務担当者のキャリアの無限の可能性


企業の中において法務はますます重要になっていきます。つまり、企業は様々なリスクに直面しています。例えば、筆者が経験したものだけでも、ビジネスに対する規制強化によりビジネスがやりにくくなる、循環取引等の不正行為、サイバー攻撃(ランサム攻撃等)よる情報漏洩等も重大な脅威です。そのような状況において、もちろん、法的な観点以外も必要ではあるものの、いずれも法的なリスクを含んでおり、法律の観点からいかにリスクを管理するか、という点を多くの企業は重要な問題と捉えています。
だからこそ、法律を利用してリスク管理を行うことができる法務の能力は、法務部門においてはもちろん、様々な部門でキャリアを発展させることが可能です。
例えば(資格の有無を問わない)企業におけるキャリアであれば、従来の法務部門でマネージャールートでまたはスペシャリストルートで働くキャリアに加えて、以下のような様々なキャリアが広がっています。

・GC、CLO等の法務を活かした役員としてのキャリア
・法務に限られず管理部門で働く、とりわけ、公共政策部門等の法務での経験を活かせる部門で働くキャリア
・管理部門に限られず、法務の知識や経験を活かして様々な部門で働くキャリア
・管理部門系マネージャーキャリア
・(管理部門に限られない)マネージャーキャリア
・起業(例えばリーガルテック系の起業)をするキャリア
・(典型的には弁護士資格を持った法務担当者が)副業として社外に法律サービスを提供するキャリア

このような無限の可能性を実現できるのが法務担当者としてのキャリアです。

3 若手法務担当者にとっての本書の活用方法


(1) 今のうちから企業内外双方のキャリアの可能性を踏まえる際の参考にする


本書では、もちろん現在の職場に留まることが相対的にベターであれば現在の職場で発展することを志向するべきであるものの、法務の世界では、既に転職が一般化していることから、転職をも選択肢としながら自分で自分のキャリアを考える人が増えていることに鑑み、内外双方のキャリアを見据えたキャリアの発展について説明しています。そのような状況においては、いかに「自社内のキャリアパス」と「転職」という複数の選択肢を持ち続けるかという点が重要になります。
本書は、今のうちから内外双方のキャリアの可能性を踏まえて対応する場合について特に第3章で論じています。例えば、以下のような内容です。
・転職市場でいい待遇を獲得する上では、ウリ、つまり、「何ができる人か」を説明できなければならない。そのウリは経験や資格等で裏付けられる必要がある。
・スキルを身につけてきた、と思っても身につけたのは単なる「その会社だけで通用するスキル」なのではないか、そうすると、転職しようとしたところで「他の会社では通用しませんね」となってしまわないか。
・そうするとポータブルスキル、つまり、転職後でも使えるスキルを身につけたことをどのように説明するかが重要となる。
このような観点から、「自分がどのようなスキルを身に付けたいのか」を検討し、「法務の経験を通じて、どのようなスキルを身につけることができるのか」「どうすれば身に付けたいスキルにつながる経験ができるのか」を考えて対応する際のヒントを得るため、本書を活用することが考えられます。

(2) 点を線にして企業内のキャリアパスの中で最大限自分の希望する方向性に近づける上での参考にする


筆者は、connecting the dots、つまり、点(dot)であるそれぞれの経歴や経験が、仮にそれだけではあまり希望するキャリアとの関係が密接でなくても、それらを線で繋げる(connect)を通じて、キャリアにつながることを強調しています(特に1章4)。
希望するキャリアをそのまま歩めるに越したことはないでしょう。しかし、労働者に対しては、企業は配転権を有しています。そこで、例えば、「法務の経験を積みたい」と考えて、法務への配属希望を出したものの、最初の2年間は営業に配属されてしまうということもあり得ます。このような形で、目の前の仕事と希望するキャリアが乖離する、どうすれば良いかという悩みは頻出かと思われます。
筆者は、そのような場合には、その、一見希望するキャリアの関係が薄い経験を、事後的にキャリアと関係させる「説明」をすることが重要であると考えます。例えば、上記の例においては、「営業では海外企業の日本法人に自社の商品を買うべきであると英語で説明する中で、英語能力を培った。また、契約条件に関する交渉を積み重ねる中で契約や法律への理解を深め、法律の勉強をさらに継続し、その後法務に配属された」という形を実現する努力することもあり得るでしょう。もしこのようなキャリアを構築すれば、営業時代の経験が、英語力や法律・契約に関する能力に活きており、ビジネスの視点も有しているということで、法務担当者として魅力的だと評価されるかもしれません。
これはあくまでも一例ですが、単に希望どおりにいかないというだけでキャリアの発展に不利だと即決するのではなく、このような形で回り回ってその経験がキャリアに有利に使えるのではないかと考えることについて、本書を参考に考えることができるかもしれません。

(3) AI・リーガルテック時代に法務担当者としてどのようにスキルを開花させるかの参考にする


本書は、AI時代において法務担当者としてどのようにスキルを開花させるかについて論じています(特に12章)。
短期的な観点からは、精度等に問題があるAI を利用できる範囲は「支援」に過ぎません。AIの利用を「支援」に留めるためには、自分自身でできる能力がないといけません。だからこそ、法務担当者が「専門家」としてリーガルテックを使いこなすことになります。そこで、まずは堅実に昔ながらの法務の能力を習得することが重要だと論じています。  長期的な観点からは確かにリサーチや翻訳等を想定するとリーガルテックが「オーソリティ」を獲得し、特段専門家の確認検証を経ずにリーガルテックの成果物をそのまま用いても問題がなくなる時代は来るでしょう。しかし、これまでも法務部門は顧問弁護士や外国弁護士等に対し、様々な業務を進めるためアウトソーシングをして、社内外の役割分担を決めて管理をしていた(アウトソーシングマネージメントをしていた)と思われます。そこで、このような法務としてのアウトソーシングマネージメントの対象としてリーガルテックが追加されただけであるとも考えることができます。よって、長期的には「他の人やAI をうまく使って各案件で長期的リスク管理を実現する」能力が重要となるでしょう。
このようなAI・リーガルテック時代における対応についても本書を参考に考えることができるかもしれません。

4 本書を利用してキャリアについて考えたい若手法務担当者の方へ


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*本エントリは早稲田大学博士課程宋一涵さんに支援いただいた。ここに感謝の意を表する。

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