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【1000字】おばあちゃんからのプレゼント

 母は冬が好きで、なおかつ子供っぽい人でもあったから、毎年お盆ではなくクリスマスのシーズンに帰って来る。なので、我が家のクリスマスの風物詩といえば、ケーキ、チキン、クリスマスツリー、そして半透明の母である。
 クリスマスは死者を懐かしむのには向かない行事なので、僕たちは母を半分無視して一日を過ごす。それでも母はわりかし愉しんでいる様子だ。ケーキもチキンも食べられないけれど、孫である僕の娘を眺めているだけでおおむね満足らしかった。
 ただ、プレゼント交換の段になると母はきまってしょげかえる。幽霊の体ではプレゼントを渡すことも受け取ることもできない。その輪に入れないとき、母は自分が死者であることを思い出す。
 娘が眠りにつき、僕たち夫婦がワインの栓を開ける頃、母はしくしくと泣き始める。妻が肩に触れて慰めようとするが、手は体を貫通して虚空を撫でるだけだ。
「あの子にプレゼントしたいのよ」ツリーの電飾が母の涙をカラフルに染めている。「クリスマスなのに、なにもできないなんて寂しいじゃない」
 僕と妻は困り切って黙り込む。
 町のどこかでベルが鳴っている。あの音が止み、夜が明ければ、母はまた死者の世界に帰っていく。毎年、泣きながら帰っていくのである。お盆ならそんな気の毒な思いをしなくて済むというのに……、クリスマスはどうしたって死者には哀しい行事なのだ。
 
 そして朝になり、クリスマスは終わりを迎える。
 夜更かしが堪えた僕と妻のベッドに、娘が元気よくダイブしにくる。
「外、雪が降ってるよ!」
 寝ぼけ眼で窓を見ると、ベランダから先の世界が白くなっていた。結晶が見えそうなくらいの牡丹雪だ。とても珍しいことである。居間に降りると、母の姿はもうどこにもなく、雪の日の静けさも手伝ってがらんとして見えた。
 キャンバスのように真っ白な庭へ足跡を刻んでいるとき、ふいにある言葉が思い浮かんだ。
「これは、おばあちゃんからのプレゼントだな」
 娘は知らない星座を見つけたような顔で僕を見上げた。
「おばあちゃんが雪を降らせてるの?」
「そう、一日遅れのプレゼント。嬉しいかい?」
 娘は考え込むように眉を寄せ、明るい雲で覆われた雪空にまた視線を移した。
「でも、天国にいる人にはどうやってプレゼントをお返しすればいいの?」
 僕は白い息を漏らして微笑み、娘の温かい頭に手を載せた。
 
 初雪を、『おばあちゃんからのプレゼント』と我が家で呼ぶようになった所以である。




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