【1000字】未来が生まれるとき
可愛いフウちゃんへ
お手紙ありがとう。フウちゃんのお手紙は無事に未来へ届きました。とても嬉しいです。いまこうしてペンを握りながら、なにを書こうか迷っています。あなたには話したいことがたくさんあるからね。
過去の時代の人にお手紙を書くのは初めてだから、すごく緊張しています。過去へお手紙を送るのはとても難しく、失敗したらやり直しが利きません。ちゃんと届くといいなぁ。
未来のことは、残念だけど詳しくお話できません。本当はこうしてお手紙を送るのも禁止されています。でも、これだけは教えてあげられます。未来のフウちゃんは立派な女性になっています。フウちゃんのママはフウちゃんが大好きです。太陽も元気に輝いています。だから、これから先、怖いことが起こっても心配しないでください。
フウちゃんは除染隊員になるのが夢でしたね。
安心して。その夢は叶います!
でも、想像していたより楽しいお仕事ではありません。嫌なことが多いし、大好きなシャワーにもあまり入れないし、ちょっぴり後悔しています。だから、フウちゃんには違う夢を追いかけてほしいなぁと思います。ママは立派な学者さんですし、研究のお手伝いをするのもいいんじゃないかしら。あなたは賢い女の子だからきっとなれるはず!
病気、とってもつらいよね。
自分のことだからよくわかります。ですが、それがいずれ治るのはもうわかるでしょ? いまはつらくても諦めないで。ママの言うことを聞いて、良い子にしていてください。頑張れ、フウちゃん!
未来の世界には、素晴らしい技術がたくさん生まれています。このお手紙を送れるのもそのおかげ。できればお手紙じゃなくて直接会いに行きたいけど、違う時代に人を送ることはまだできないの。でも、あなたはわたしなんだから、会いに行くというのも少し変かな。
いつか日向をお散歩しようね。
もちろん、大好きなママも一緒にね。
未来のフウちゃんより
少女はその手紙をベッドの下へ大切に保管した。手紙を持ってきてくれたのは母親だ。シェルターの研究室に置かれていたのを見つけて届けてくれたのである。少女が病を克服し、診療所を出るのはそれから間もなくのことだった。
十年後、手紙の筆跡が母親の筆跡と一致することに彼女は気づくが、一度信じた未来が揺らぐことはけしてなかった。
人類の未来のため、今日も彼女は研究室に閉じこもる。あの少女と日向を歩ける日を夢見ながら。
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