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【1000字】共犯者たち

 何百人もの兵隊が我が家へ向けて行軍していると知り、私は車をすっ飛ばして帰る。絶望が指を震わせた。戦中に犯した私の罪が、ついに白日に晒されたのだ。
 家の周囲にまだ兵隊の姿はない。私は急いで書斎へ飛び込み、隠していた拳銃に弾を込める。それから玄関をソファーで塞ぎ、窓に鍵をかけ、二階の寝室に立てこもった。逃げるという考えは端からなかった。何百人もの兵隊がやってくるのだ。もはやこの国のどこに逃げたって安息は望めない。
 毛布をかぶりながら、私は夜闇に耳を澄ます。共犯者たちは皆、裁判にかけられ処刑された。私だけが今日まで生き永らえてきたのだ。しかし、いまだけはその幸運を噛み締める気分になれなかった。
 彼らは私をどのように裁くだろう。拷問の果てにガス室へ送るか、はたまたいっせいに銃剣を突き立てるか。かつての私が戦地でやっていたように……、そういえば、妻はどこにいったのだ? 息子や娘たちは? ひょっとして、もう殺されたのだろうか。
 やがて最初の足音がポーチの段差を踏んだ。
 私は体をこわばらせ、拳銃を握る手に力を込める。相手は軍隊、勝てるわけがない。それなら、いっそ自分で決着をつけようかとも思う。しかし、銃口を顎の下に当てても引金は重く、錆びたようにびくともしない。引く前からその予感があった。世界は私の敵に回っていた。吸い込む空気すら、まるで抵抗しているように上手く肺へ流れてくれなかった。
 玄関のバリケードはあっけなく突破されたらしい。いくつもの足音が階段を昇ってくる。私は指に力を込めるが、引金はやはり動かない。私自身の罪と、古い死者の手が、それをけして許そうとしない。
 ついに扉がノックされた。
「大尉。お誕生日おめでとうございます」若い男の声がした。「みんなで祝いにきましたよ」
 私は呆然と扉を見る。知った声だった。処刑されたはずの、かつての部下だった。
「ここを開けてください、大尉。ケーキもありますよ。開けてください」
 ノックが執拗に続き、私はふいに悟る。
 たとえ誰もが私の罪を忘れても、共犯者たちはけして忘れないのだ、と。
 罪を共有したその瞬間から、我々は同じ鎖で縛られ、共に地獄の底へ沈む運命だったのだ。
「ここを開けてください、大尉」
 冷たい恐怖が心臓に昇り、私は引金との格闘を再開する。
 ノックは寸断なく続いている。



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