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恋愛軸で生きていないですけど何か?『おかえりモネ』第23週

「すべてを捨ててでもこの恋に生きようと思ってしまう恋愛ってものがあるんだよ!木公ナビー君!」
「いや、まったく分かんないです。突き詰めると、この人を大切にしようと自分で決めたから、妻を大切にし続けるだけです。だから、別の人に燃えるような恋愛をしてしまって不倫のためにすべてを捨てるとか、正直意味が分からないです。」
「それは、木公ナビー君が、まだ本物の恋を知らないだけだよ。」
「いや、そんなものないですよ。脳内麻薬が生み出す単なる錯覚です。」
「いやいや、世界中の文学が恋愛をテーマにしているわけだからね!…」

という激論を年上のおじさん仲間と朝まで交わして最後まで分かり合えなかったことがあります。恋愛軸で生きている人と自分とは、まったく感覚が違うなと思ったものです。だからこそ、自分と同じく恋愛軸で生きていないカップルの恋愛を描く『おかえりモネ』に強烈に魅力を感じているのかもしれません。

『あさイチ』のゲストとして出演したモネを演じる清原果耶さんが、
「モネは恋愛軸で生きていない」と発言して、ああやっぱりと納得しました。そして、菅波先生も、やっぱり恋愛軸で生きていないと思うのです。

人は、愛がないと生きていくのがスゴくしんどいというのは真実だと思うので、愛を否定するわけではありません。ただ、その愛は、燃え上がる恋愛の感情などというあいまいなものではなくて、

大切にしようと決めた誰かと、お互いがお互いにとって大切であり続けるためにもがき続け

て積み上げた“事実”だけしか、よりどころとして信じられないのです。少なくともうちの夫婦はお互いにいつもそんな感じで話しています。だから、冗談めかしてではありますが、お互いに相手に先立たれてしまったら、次のパートナーをさっさと見つけなきゃねなんて会話をすることもあります。「先立たれたパートナーを一人で想い続ける」という物語で自分が満たされるなら、それもありだけど、無理ならまた別の誰かと、お互いがお互いを大切にした“事実”を新たに積み上げていくしかないよねと。

なんてことを話すと、すごくドライだとか冷たいと言われることがあるのですが、冒頭の私とおじさん仲間との会話も、不倫を肯定しているのは恋愛軸派の人なワケで、何じゃそりゃと思ってしまいます。

私は、自分自身の感情を可能な限り客観的に分析するよう努めていて、可能な限りコントロールしたいと思っていて、だからこそ、コントロール不能なコンプレックスやトラウマに敏感です。そういった感情は、コントロール不能であることを受け入れた上で、どのように向き合うかを一生懸命に考えます。

そして、菅波先生やモネも私の感覚に似たような人物造形で描かれてきたと思うのです。二人とも、自分自身の心の傷について、きっちり自覚した上で、それをどうやって癒すか作戦を立てて動いています。モネが気仙沼に「おかえり」しているのも、まさにそのためです。

そういう風に生きていると、恋愛感情ももちろん無いわけではないのですが、徹底的に因数分解して、性欲であるとか、一時的なホルモンバランスの変調とか、独占欲とか、そういうものに過ぎないと気付いてしまうのです。

一方で、自分自身のコントロール不能なこだわりだと思っていたものを、自分で大切にすると決めた相手のためだからと、仕方なく曲げざるをえないことが出てきたりして、曲げてみたら意外と以前のこだわりがどうでも良くなっている自分の感情に気付く、みたいな“事実”が積み上がっていくごとに、パートナーの自分にとっての大切さがどんどん増していくのです。

そういう“事実”は、時間と共に積み重なっていくものです。菅波先生のコインランドリーでのプロポーズでの言葉にもありました。

「僕は、あなたが抱えてきた痛みを想像することで、自分が見えている世界が二倍になった。僕は、あなたといると、自分が良い方に変わっていけると思える。」

そんな“事実”を、我々も、視聴者としてたくさん目撃してきました。菅波先生は、永浦家にあいさつするため東京から向かってきている新幹線の中で、モネも自分も一人ではできない変化を重ねてきた出会ってからの「5年」という月日の重みをしみじみと振り返っていたと思うのです。

だからこそ、モネがちょうどりょーちんと一緒にいて、幼なじみのりょーちんは「19年」もモネと歴史を重ねてきたことに気付いてしまい、「5年」なんてまだまだだったな、オラ、ワクワクすっぞ!とファイティングポーズを取りながら、

「19対5か…圧倒的に分が悪いな」

と思わずつぶやいてしまったのです。たぶん本当の心の声では、もっと野沢雅子さんの悟空みたいに「19てぇ5かぁ…」と言っていて、汗をタラっと流しつつ、ワクワクすっぞしてたと思います。

モネが自分と同じく恋愛軸で生きていない人種だとよくよく分かっているので、特にダメージはありません。むしろ、一時的な感情で動く恋愛軸の人種よりもよっぽど自分自身の誓約を大切にする人種であるという自負もあるので、これから永浦家に永遠を誓いたいと申し込みにいく自分達の仲を分かつのは死だけだと心から信じていると思うのです。

俺たちの菅波とあと1週間でお別れと思うと本当にツライですが、とりあえず最後の1週間を全力で楽しみたいと思います。

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